麻薬「スペシャルK」のケタミン、うつ病の治療に新たな光も

ドナルドさんは3月にシドニーの病 院でケタミン注射を受けた時、自分が死んだのかと思った。「視界が真 っ白になって何も見えなかった」と63歳のうつ病患者の同氏は苗字を明 かさずに語った。

ケタミンは「スペシャルK」として知られる薬物(厚生労働省が麻 薬に指定)だが、ここではうつ病の治療に使われた。ドナルドさんによ れば、注射後2、3時間で視力が回復したばかりか、気分も正常に戻っ た。十数種類の抗うつ剤を試しても効かず、何十年も苦しめられていた 疲憊(ひへい)性うつ病の症状が和らいだのだ。

通常は馬の麻酔薬として使用される幻覚剤のケタミンがうつ病の治 療に有効かどうかを調べる実験で、元学者のドナルドさんは被験者の1 人となった。世界では最大1億2100万人が気分の落ち込みや自信喪失、 無力感などをもたらすこの病気に悩まされているとみられている。

ケタミンについて複数の研究を実施しているマウント・サイナイ・ スクール・オブ・メディスンの精神医学・神経科学部門の助教授、ジェ ームズ・W・マーロー氏は、「画期的な治療法につながる可能性があ る」と期待を示し、「迅速に効果が表れる治療が本当に必要とされてい る」と語った。

1960年代早期にやはり幻覚剤のサイロシビンに続いて発見されたケ タミンはベトナム戦争中に麻酔薬として使われ、革命的な発見と期待さ れた。しかし薬物としての乱用が広がったことで、幻覚剤の研究は抑え られてしまったと、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の精神科学教 授、チャールズ・S・グロブ氏は説明。「幻覚剤は精神医学の研究の最 先端だったのだが」と振り返る。

脳の働きについて研究が進んだ現在、科学者らは1950年代から60年 代初めの研究が有望な可能性を秘めていたことに気付いた。製薬会社も 関心を抱き、英アストラゼネカと米ジョンソン・エンド・ジョンソンの 医薬品部門は同様の仕組みで効果の優れた製品を開発。臨床試験の中期 段階にある。

原題:Special K for Depression Renews Hope in Hallucinogens: Health(抜粋)

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