黒川氏、再開は「みなさんが判断すること」-インタビュー

「みなさんが判断すること」。東京 電力・福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)の報告書を発表 した翌日の6日夕、黒川清委員長の執務室には毎週金曜日恒例となった デモに集まった人々が繰り返す「再稼働反対」のシュプレヒコールが響 いていた。

官邸前に集まったデモ隊の最前線を見下ろす部屋で、黒川氏はブル ームバーグ・ニュースの単独インタビューに応じ、「委員会には同時通 訳も入れて、全て公開した。だから、みなさんが判断すること。私の説 明をする理由はない」とし、原発再稼働についての自身の考えを明言し なかった。

黒川氏ら10人の委員がまとめた報告書では、原子力安全・保安院と 東電をはじめとする電力会社のなれ合う関係が安全対策を怠る土壌を生 んでいたことを批判。「あきらかな人災」と厳しく指摘した。さらに 「規制の虜(とりこ)」という経済用語を用いて、情報量や実務経験で 勝る事業者が規制当局を「骨抜き」にしていた実態を明らかにした。

首相官邸の前で行われているデモの列に加わっていた会社員の安達 力さん(30)は、「事故当初から人災だったのではないかと思ってい た。そこをしっかり指摘したあの報告書は素晴らしい」と評価する。安 達さんは、大飯原発の再稼働に反対するデモが行われていることをツイ ッターで知り、友人たちと初めて参加した。

東京メトロ国会議事堂前駅の改札口から、地上の出口に向けて伸び たデモに参加しようという長い列には60代の初老の集団から20代の若者 カップルが混じっていた。その多くがスマートフォンや携帯を握り、地 上に出るのをじっと静かに待ちつつツイッターの画面を眺めている。

日本人のマインドセット

黒川氏は「誰が悪い、菅さんが悪いという話ではない」と強調す る。原発が津波に襲われる可能性があることを知りながら、何ら手を打 とうとしなかった人たちの責任だと指摘。そして、そういう事態を招い た背景には、新卒一括採用、年功序列、終身雇用という組織構造を当た り前だと受け入れてしまう日本人の「マインドセット(思い込み)」が あると背景を説明した。前例から外れることなく業務を遂行し、企業や 役所の利益を守るという使命が何よりも優先された結果、安全対策が先 送りされたとの見方を示した。

報告書の中では、規制当局を監視するため国会に原子力問題を専門 に扱う常設委員会を設置することや、政府の危機管理体制の抜本的な見 直し、原子力の法規制の見直しなどを含む7つの提言を示した。黒川氏 は、この提言を遂行するよう「国会にプレッシャーをかけていく」のが メディアの役割だと指摘した。

約640ページの報告書を半年間で仕上げるまでには「もうまとまら ないのでは」と思う瞬間が何度もあったという。東大名誉教授で医師の 黒川氏、地震学者、弁護士、科学ジャーナリスト、福島県大熊町商工会 会長、ノーベル賞受賞の化学者などバックグラウンドの異なる委員が集 まったことから、報告書に盛り込む内容についてそれぞれの思いは「必 ずしも一致していないかった」と振り返る。最後の2カ月は「皆ほとん ど徹夜」だったという。

憲政史上初めて

政府から独立した民間人による国会の事故調査は憲政史上初めて。 黒川氏は調査過程を「役所や東電がのぞき見しようとする懸念もあっ た」ため、作業用に貸し出したノートパソコンや携帯電話のセキュリテ ィーにも特別の配慮を施したと打ち明けた。人員の選定から調査体制の インフラ作りを終えるまでには約1か月を要したと苦労話を語る。

雨の中集まったデモ隊の声が届く執務室で、黒川氏は「そういう話 は、将来書こうと思っている」と述べた。