原発事故調:「人災」と明記-全面撤退問題では東電も批判

国会の東京電力・福島原子力発電 所事故調査委員会(黒川清委員長)は5日、半年間にわたり調査し事故 の問題点や提言をまとめた報告書を発表した。報告書では福島第一原発 で起きた事故は地震と津波による自然災害ではなく、「あきらかに『人 災』である」と明記。原発を運営する電力会社と規制する側のなれ合う 関係にも厳しく踏み込んだ。

規制当局である内閣府の原子力安全委員会や経済産業省の原子力安 全・保安院と東電の間には、新たな安全対策が実施された場合には過去 の安全だという主張を維持できず「訴訟などで不利になるといった恐 れ」が広がり、安全対策を積極的に講じる動きがなかったことを指摘。

さらに、規制当局側の人間の原子力に関する専門的な知識水準が東 電社員よりも劣っていることや、保安院が原子力を推進する経済産業省 の一部であることなどから、「事業者が規制当局を骨抜きにする」状態 となった。電力会社の「虜(とりこ)」となったと批判した。

両者の立場が逆転し安全に対するチェック機能が崩壊し必要な対策 を構じられなかったことや、菅直人前首相をはじめとする官邸の過剰な 介入が指揮命令系統の混乱を招いたことなどから「今回の事故は『自然 災害』ではなくあきらかに『人災』である」と結論づけた。

菅氏「俺も行く」

全面撤退の問題をめぐっては、特に菅氏の発言について克明に記 載。官邸と東電の間に生じた原発からの「全面撤退」を阻止するため、 3月15日早朝に東電本店に乗り込んだ菅氏は、「撤退などあり得ない。 命懸けでやれ」、「60になる幹部連中は現地に行って死んだっていいん だ。俺も行く」と発言していたことを、東電の記録をもとに盛り込ん だ。

これより約1時間前、菅氏は清水正孝元東電社長と官邸で面会。そ の時点で東電に全面撤退の予定がないことを確認していたことから、こ の発言は「東電本店に対して相当の不信感を抱いていた」ことの表れだ と記した。

全面撤退の誤解は菅氏をはじめとする官邸サイドの東電に対する不 信感や、清水元社長が用いた「退避」というあいまいな表現に起因する 行き違いから生じたと説明。誤解が生じた責任は、東電の責任者という 立場でありながら最低限の人員を現場に残すという事実を官邸に伝えき れなかった清水氏にあると指摘し、東電側が官邸を一方的に批判するの は「お門違い」と苦言を呈した。

同委員会は事故発生後の東電の情報開示態勢についても言及。同社 は確認された事実のみを開示し「不確実な情報のうち特に不都合な情報 は開示しない姿勢がみられた」と厳しい見解を示した。特に2号機の事 故情報や電力供給の見通しについて開示に問題があったと批判した。

地震による損傷の可能性

報告書は「安全上重要な機器の地震による損傷はないとは確定的に 言えない」と、必ずしも津波が事故の原因ではない可能性があると指 摘。地震による損傷はないとした東電側の事故調査結果とは異なる見方 を示した。この結論に至った理由として、同委員会は独立行政法人原子 力安全基盤機構の解析結果が小規模な冷却材の喪失事故の可能性を示唆 していることや、運転員の証言を挙げるとともに、原子炉建屋内などを つぶさに検証できない状況下で、地震の影響がなかったと断言すること はできないためと説明した。

事故の検証を踏まえ、同委員会は、規制当局を監視するため国会に 原子力問題を専門に扱う常設委員会を設置することや、政府の危機管理 体制の抜本的な見直し、原子力の法規制の見直しなどを含む7つの提言 も報告書に盛り込んだ。提言のなかで、東電が、電力業界を所管する経 産省との密接な関係をもとに、電気事業連合会を介して保安院などの意 思決定に干渉してきた歴史についても言及。「規制当局に不当な圧力を かけることのないよう」電力会社に対しても厳しく監視する必要がある と求めた。

同委員会は延べ1167人にヒアリングを実施。1万人を超える被災住 民や事故当時原発にいた2415人の作業員を対象にアンケート調査を行 い、報告書をまとめた。