素顔のポールソン氏が描くファンドの将来-18年の盛衰

世界有数のヘッジファンド運営会社 ポールソンの創業者、ジョン・ポールソン氏は短くそろえた黒髪、黒い 瞳、ソフトな声の持ち主。同氏がやって来る時には、ウォール街史上最 も多くの富を築き上げた人物の一人にふさわしく、ちょっとした騒ぎに なる。顧問弁護士や広報コンサルタントがポールソン氏の隣の席に何と しても陣取ろうとするからだ。

住宅市場が2007年に崩壊する前に数十億ドル相当に上るサブプライ ム(信用力の低い個人向け)住宅ローンのクレジット・デフォルト・ス ワップ(CDS)購入を決心したポールソン氏は、その取引で約40億ド ル(現在のレートで約3200億円)を稼ぎ、無名の資産運用者から金融業 界の伝説的人物となった。ブルームバーグ・ビジネスウィーク誌7月2 日号が報じている。しかし、そのキャリアを台無しにする悲惨な状況が 訪れる。11年に数十億ドルに上る損失を出したからだ。

「昨年は明らかにつまずいてしまった。経済の行方を過信して多く のリスクを負った」とポールソン氏は振り返る。

6月のある日の午後、ポールソン氏(56)はマンハッタンのミッド タウンにある自身のオフィスで、10点を超える米画家アレクサンダー・ カルダーの水彩画に囲まれて座った。それらはまるで百万長者の部屋を 彩る原色の壁紙のようだ。その空間は、人々が想像するような世界の資 金の流れを操る金融業界の天才が操縦かんを握るハイテク・コックピッ トとは異なる。

壁一面に大型モニターが掛けられたり、色分けした世界地図が貼ら れたりするでもなく、クリーム色のカーペットや壁は不動産会社か法律 事務所のようだ。そこ以外は経済的困難が取り巻く状況下にあって、ウ ォール街で築き上げた途方もない権力と富についての質問に向き合うに は、むしろ落ち着く場所だ。質問とは、そうした権力と富を得るのに時 々使われた物議を醸すような手段のあれこれ、どうやって大金をあっと いう間に失ってしまうことが可能なのかといった類いのものだ。

メディアを避ける

このようなテーマについて話してくれるようポールソン氏を説得す るのは容易ではない。同氏は「メディアを避けている」と語るが、これ は控えめな表現だ。

金融業界以外でも多くの人々が彼の名前を耳にしたことがあるが、 ポールソン氏はテレビのインタビューに答えたことは一度もない。街中 で気付かれることもめったになく、そのことに感謝しているという。 「それが実際に私のためになっているかは分からない。ただ、登場しな いからこそメディアがもっと興味を感じるのかもしれない」と話す。

07年に成功を遂げて以降、ポールソン氏のファンドの資金は300億 ドル以上に膨らんだ。11年までは順風満帆だった。この年、2つの主要 ファンド「ポールソン・アドバンテージ」の運用成績がマイナス36%、 「アドバンテージ・プラス」がマイナス52%となり、こうした状況は12 年も続いている。5月末時点の運用成績はアドバンテージがマイナ ス6.3%、アドバンテージ・プラスがマイナス9.3%だ。

楽観的見方

ポールソン氏は楽観的な見方をしようとしている。「再び軌道に乗 っていると思う。当社のポートフォリオに非常に期待している」と話 す。

社内の関係者たちに囲まれたポールソン氏は話している間、コツコ ツと指でテーブルをたたく。もっと有効な時間の使い道があると感じて いる人がするしぐさだ。椅子に深く座り、たたくのをやめた。

「市場を解釈するのは難しい。だから毎日勝ちに行こうとはしな い。われわれのゴールは常にアウトパフォームというわけではない。そ れは不可能だ。長期的なアウトパフォームを望んでいる」。

皆がそれを待てるわけではない。ある機関投資家は11年にポールソ ンの複数のファンドから資金を引き揚げた。匿名を希望するこの投資家 は、大半のヘッジファンドがおなじみの発展パターンに沿っていると指 摘する。第1段階では急速に成績が上がるが小規模なので大規模な機関 投資家には投資しづらい。第2段階は運用者が非常に努力し何らかの成 果が挙がる。この時期に上昇カーブの勾配は最も急になり、大半の目先 の利く投資家は投資に動く。第3段階は機関投資家が「頂点」と呼ぶ時 期で、通常、ファンドが極めて大規模になった後に訪れ、パフォーマン スが低下し始める。

第4段階

この投資家によると、第4段階までに運用者たちは富を築き、野球 チームのようにトロフィーを手に入れる。第3、第4段階にはパフォー マンスは常にというわけではないが悪化する傾向がある。ポールソンの ファンドから資金を引き揚げると決めたのは、同社が第3段階か第4段 階に達したと考えているからだと、この投資家は話した。

ポールソン氏は、自身とポールソン社が従来の保守的な戦略を維持 せず、欧州危機を過小評価し景気回復に乗じようとしたのは間違いだっ たと認めている。一方で、挽回しつつあり自分に見切りをつけた人々は 間違っていると主張する。

「当社は18年間にわたって素晴らしい運用成績を挙げてきた。マイ ナスになったのは2年間だけで、その一つが昨年だった」と説明。「運 用成績の低下は残念だったが、過去について考えても無意味だ。将来に ついて考えなければならない」と語った。

引退はまだ先

ポールソン氏は「ヘッジファンドは上場企業には適していないと思 う」と語り、ポールソン社が近く新規株式公開(IPO)する可能性に ついて否定した。ただ、自身の退職後も同社が存続すれば「非常にうれ しい」と述べた。近い将来に引退するつもりはないと述べた。

「私は56歳でまだ比較的若い。ソロス氏は81歳だと思う。バフェッ ト氏も81歳だ」。

「アイカーン氏は何歳だろう」と思案しながら、仕事を辞めるのは 簡単だが、想像できないと話す。「チェスやバックギャモンをするのが 好きな人もいる。この仕事はゲームのようなものだし、ゲームをするの は楽しい。勝った時には楽しさも増す」。

原題:Paulson Forgoes Prognostication as Greatest Trade Sequel Flops(抜粋)

--取材協力:Sree Vidya Bhaktavatsalam.