政府が東京オフショア育成へ、円・元取引1カ月-参加者増が課題

日中両政府の後押しを受け、円と人 民元の直接取引が始まって1カ月が経過した。ドルを介した従来方式に 比べ取引量が増えつつある一方、買い値と売り値のスプレッド(差額) も安定。政府は東京市場の人民元オフショア化を進める方針で、流動性 確保の検討を進める。一方、メガバンクが主導している市場取引は、海 外金融機関も含めた参加者の拡大が課題だ。

メガバンク3行の担当者らによると、この1カ月の1日当たりの取 引量は、平均100億円前後で推移。直接取引開始前の約10倍に増えた が、メガバンクが積極的な売買で市場を支えているため、実需が伴って いない部分もあるという。三菱東京UFJ銀行の星野昭次長は「取引量 の拡大は予想より緩やかだ。1カ月とは言わないが、早い時期に300億 -500億円規模に膨らむと思っていた」と指摘する。

要因は、取引の推移を見極めようとする企業や金融機関がまだ多い ことだ。みずほコーポレート銀行国際為替部アジア・エマージングチー ムの加辺猛次長は顧客の反応について「興味はあるが様子見をしている 状況」と指摘する。星野次長は「参加行が増えれば利便性が拡大する」 と、海外金融機関の東京市場への積極的な参加に期待する。

それでも、明るい材料は少しずつ増えてきているという。加辺次長 は「直接取引の開始以降、中国元の取り扱いについて聞かせてほしいと いう企業からの問い合わせが増え、営業担当が毎日飛び回っている」と 話す。三井住友銀行市場営業部の高木晴久副部長は「投機筋も含め、参 加者が増えてきている。企業の決済などが元建てに切り替わっていけ ば、さらに市場の厚みは増すだろう」と期待する。

みずほコーポレート銀行は6月11日から取引レートの公表を開始。 三菱UFJも秋までにはレート公表を始める予定だ。

通貨スワップが「ラストリゾート」

国際通貨研究所の植田賢司上席研究員は、ドルを介した取引でも、 ドルの量が圧倒的に大きいため、コストがかなり小さくなってきている とし、「直接取引の取引量が急増しなければ、コスト低減にはつながら ない」と指摘。一方で、取引開始のアナウンスメント効果によって商社 やメーカーの貿易決済での利用増加に期待する。

人民元は国外取引に制約があり、先行している香港のオフショア市 場経由で人民元を調達しているのが現状だ。財務省は中国政府と協議 し、650億人民元(約100億ドル相当)の中国国債の購入枠の確保や円・ 人民元建て債券市場の育成など資本取引の活性化を進めている。このほ か、民間の流動性を補完するため、両国中央銀行による通貨スワップの 拡充も検討している。

「日中間の中央銀行による通貨スワップがラストリゾート(頼みの 綱) としてある方がよい」-。財務省の中尾武彦財務官は先月28日に 行ったブルームバーグ・ニューとのインタビューで、両国通貨の直接取 引の拡大へ、2002年に設定され、来年契約期限を迎える円・人民元の通 貨スワップ(上限30億ドル相当)の拡充に向け、日本銀行と協議する方 針を表明した。

アジア通貨建ての取引増加に意欲

財務省が狙うのは、日本にとって最大の貿易相手国である中国の成 長力を取り込むための東京市場のオフショア化。すでに手を挙げている ロンドンやシンガポールに対抗するためにも、いち早く資本の厚みを増 す必要性がある。財務官は「直接取引は東京市場のオフショア化に向た 第一歩となる。ロンドンやシンガポールに任せておく理由はない」と強 調する。

両国が金融協力を進める背景には、08年のリーマン・ショック時に ドルの調達が困難となった教訓がある。財務官は「ドルだけに頼ると資 金調達のリスクがある。アジア域内の貿易量は非常に大きく、全部ドル にする必要はない」と述べた上で、「できるところから現地通貨の利用 を推進したい」と述べ、人民元以外のアジア通貨建ての取引増加に意欲 を示した。