JPモルガンのリスク管理失敗、損失さらに拡大か

米銀JPモルガン・チェースのジェ イミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は10日、自行のリスク管理 部門の「致命的」失敗で20億ドル(約1600億円)の取引損失を被ったこ とを明らかにした。ウォール街の銀行は自己資金でのトレーディングに 制限を設ける米当局の規制緩和を狙っているが、今回の損失発生によ り、こうした銀行側のもくろみが危うくなっている。

ダイモンCEOはアナリストとの電話会合で、リスク管理を担当す るチーフ・インベストメント・オフィス(CIO)部門がデリバティブ (金融派生商品)の一種であるシンセティック・クレジット証券で誤っ たポジションを取ったと説明。同証券は依然価格変動が大きく、4-6 月(第2四半期)か7-9月(第3四半期)に10億ドルの追加損失が発 生する可能性があると述べた。CIO部門はイナ・ドルー氏(55)が率 いている。クレジットのエクスポージャーのヘッジを狙った取引だった が、そのポジション縮小を目指す中で損失が膨らんだという。

ダイモンCEOは「多くの誤りと怠慢、不適切な判断が重なった」 と説明、「最悪の過ちであり、自ら招いたものだ」と語った。

ブルームバーグ・ニュースは先月、CIO部門が過剰ポジションを 取っているため、JPモルガンが損失を出すか金融市場を混乱させずに そのポジションを解消することは不可能かもしれないと報じていた。同 行の元幹部5人が述べたところによれば、同部門はダイモンCEO (56)の下でここ数年間に変容、銀行の自己資金を使って投機的取引の 規模とリスクを増大させるようになった。

高度な守護者

ダイモンCEOは4月13日の電話会議で、CIO部門は高度な手法 を駆使して同行の資金を保全する守護者だと擁護していた。ブルームバ ーグの報道に対しては、「取るに足らないことを騒ぎ立てている」と述 べていた。今月2日には、他の米銀大手CEOと共に連邦準備制度理事 会(FRB)当局者と会談し、当局の改革案の緩和を求めた。

同CEOは10日、今回の取引失敗のタイミングについて、自己資金 を使ったトレーディングを制限するボルカールールの強化を求める「一 部の専門家らの思うつぼになった」と述べた。

ヒューストン大学のクレイグ・ピロン教授(金融学)は、ダイモン CEOが新規制に示していた抵抗を考えると、「今は面目を失った格好 だ」と指摘。「ボルカールールを相対的に緩和させるために銀行が手に したチャンスは、それがどのようなものであれ、もはや消滅した」と述 べた。

ウォール街の傲慢さ

ブルームバーグ・ニュースは4月13日、JPモルガン元従業員3人 の話を基に、06年に入行したアキレス・マクリス氏(50)を中心に、 CIOのリスクテークへの傾斜が強まったと報じた。

IMFの元チーフエコノミストで、現在は米マサチューセッツ工科 大学(MIT)教授のサイモン・ジョンソン氏は、今回の取引損失につ いて「これまでに数多く見られた典型的なウォール街の傲慢(ごうま ん)さの表れだ」と指摘。「特に皮肉なのは、ダイモンCEOが自他共 に認めるリスク管理の専門家だとみられていたことだ」と述べた。

ブルームバーグ・ニュースは4月5日付記事で、同行のロンドン在 勤トレーダー、ブルーノ・イクシル氏が企業の財務力に関連するデリバ ティブで非常に大きなポジションを取り、10兆ドル規模の市場で価格を ゆがめていると最初に報道した。

同行幹部が匿名を条件に明らかにしたところによると、ロンドンで 発生した20億ドルの損失には複数のトレーダーが関わった。同幹部によ れば、ダイモンCEOはロンドンのトレーダーらの戦略変更を直ちに知 らされず、4月13日の決算発表までは損失の規模を把握していなかっ た。ポジションの急速な悪化に伴い、同行は社内のアナリストらを動員 して調査を進めたが、ダイモンCEOの悩みは日に日に深まっている様 子だったという。

是正措置

今回の損失発生で解雇された者はまだ出ていないものの、ダイモン CEOは電話会議で、「是正措置」を講じると言明。事情に詳しい幹部 によれば、同行がこの取引の対処を行っている間は、損失に関係するト レーダーらを解雇することはないが、その後は一部の従業員が失職する 公算が大きい。またCIO内のリスク監視チームの再評価も進めている という。

ポータレス・パートナーズのアナリスト、チャールズ・ピーボディ ー氏は、JPモルガンがポジション解消に向けて何をする必要があるか を他の市場参加者が見込んで動き、同行がさらに損失を出すリスクがあ ると分析。この取引による損失は今年いっぱい業績に影響する可能性が あると指摘した。

サメが襲う

ピーボディー氏は「海中に血を流している動物がいれば、サメは一 斉に襲いかかる」とした上で、「これにより、取引の解消は極めて困難 なものになり得る」と説明した。

米株式市場の時間外取引で、同行の株価は一時6.7%安の38ドルを 付けた。損失発表前の時点では、年初来で23%上げていた。

ダイモンCEOは具体的な取引内容や関係者への言及を控えた。 JPモルガンは企業や銀行、政府への信用リスクのヘッジでこれら証券 を活用した。今回の損失は、ポジションを小さくし、ポートフォリオ解 消を目指す中で発生したという。

トレーディングをテーマにした著作がある金融コンサルタント、サ タジット・ダス氏は、JPモルガンの今回の騒動を、1998年のロングタ ーム・キャピタル・マネジメント(LTCM)や2006年のアマランス・ アドバイザーズの巨額損失になぞらえた。「20億ドルの損失は、相当な 規模のポジションを積んでいたことを示唆する」とした上で、LTCM やアマランスとJPモルガンに共通した問題は「入るは易し、出るは難 し」ということだと指摘した。

原題:JPMorgan Loses $2 Billion as ‘Grievous Mistakes’ Swamp Risk Unit(抜粋)

--取材協力:Bradley Keoun、Noah Buhayar、Mary Childs、Shannon D. Harrington、Matthew Leising、Erik Schatzker、Stephanie Ruhle、Rick Green、Dan Kraut、Steven Crabill.

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