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貧困、差別、暴動を乗り越えた億万長者-逆境が磨いた先見性

1998年5月、インドネシアは混乱に 陥っていた。それまでの10カ月間で通貨は80%下落し、食品価格 は200%高騰した。首都ジャカルタでは、暴徒が略奪行為に走り、比較 的裕福な中国系店主の店に放火。店主は命からがら逃げ出した。

その時、中国系インドネシア人の店主、ジョコ・スサント氏は休暇 で香港にいた。そこから安全に事態を見守ることもできたはずだった。 しかし同氏はそうせずに、経営するスーパーマーケット4店舗を暴徒か ら守るため、飛行機で帰国した。シンガポールで乗り換えると、インド ネシア発の便は満席だが、行きの便はほぼ空席状態。乗務員は信じられ ないといった表情でスサント氏を見つめた。

スサント氏は「私の便には5人しか乗っていなかった。しかも、中 国系は私だけだった」と振り返る。

スサント氏は自分の店を救うことができなかった。4店舗すべてが 電球に至るまで略奪されていた。だが、同氏はそこから億万長者になる チャンスをつかんだ。ブルームバーグ・マーケッツ6月号が報じた。

98年の暴動で1100人以上が死亡し、同年の経済成長率はマイナ ス13%に落ち込んだ。1万7500の島々から成る人口世界4位のインドネ シアが崩壊するのではないかと、悲観的な予想を示す人もいた。

しかしスサント氏は、インドネシアが生き残り、豊富な鉱物・農業 資源のおかげで国民2億3800万人の多くが豊かになり、活力に満ちた消 費主導の経済が生み出されると信じていた。同氏は貧しい両親が営む屋 台の近くで、蚊帳を張って土間で寝るという少年時代を過ごしていた。

6000店舗

そのような豊かな経済が実現した時、多くのインドネシア人は道端 の屋台ではなく、エアコンの効いた地元の店で買い物をしたいと思うの ではないか。スサント氏はそう考えた。

暴動から1年もたたない99年10月、スサント氏は現在6000店舗のチ ェーンに成長した「アルファマート」の1号店を開店した。

その投資には先見の明があった。世界銀行によると、99年から2011 年末にかけて、インドネシアの年間成長率はゼロから6.5%に上昇し、 中流階級の消費者は5000万人増の1億3000万人余りとなった。

中国のような他の高成長国は、輸出主導から消費主導の経済への移 行に苦しんでいるものの、インドネシアは先を行っている。インドネシ アの消費支出は国内総生産(GDP)の55%(2011年)を占めた。これ に対し、中国は35%(10年)だった。

時価総額990億円

ブルームバーグがまとめたデータによると、11年10-12月(第4四 半期)のインドネシアの経済成長率は、中国の8.9%には及ばなかった ものの、インドの6.1%、ロシアの4.8%、ブラジルの1.4%をいずれも 上回った。

5月1日現在、スサント氏の経営する会社、スンブル・アルファリ ヤ・トリジャヤの株価は、09年の新規株式公開(IPO)から13倍超に 上昇。インドネシアの代表的な株価指標であるジャカルタ総合指数の3 倍を上回る。スサント氏の保有する同社株56%の時価総額は5月1日現 在、11兆4000億ルピア(約990億円)に増加した。

スサント氏は、スハルト独裁政権下で実施された中国人学校の閉鎖 や中国語の禁止といった反中国系政策の犠牲者だった。だが、必ずしも すべてのインドネシア人が中国系に対して敵対的だったわけではないこ とを発見した。

BRIC超えるリターン

ジャカルタ総合指数は、09年初めから今年5月1日までのパフォー マンスが、ブルームバーグが調査する世界の96株価指数で5位だった。 指数のリターンは232%と、MSCI・BRIC指数の70%を上回る。

昨年12月から今年1月にかけての5週間で、フィッチ・レーティン グスとムーディーズ・インベスターズ・サービスの両社が、インドネシ ア国債の格付けを投資適格級に引き上げた。

格付け会社がインドネシアに対して示した信認は、同国が破綻した 独裁国家から財政が安定した民主主義国家へと変貌を遂げたことを反映 している。1945年のオランダから独立した後の53年間では、指導者は2 人だけだった。

1998年から2004年まで3人が大統領を務めた後、ユドヨノ氏が大統 領に就任。同氏は09年に再選を果たし、現在最後となる政権2期目(任 期5年)を務めている。

道路渋滞も宣伝に利用

ユドヨノ大統領は、利下げ、汚職対策、生活水準引き上げ、老朽化 した道路・発電所の修復などを実施することにより、投資誘致を推進す る方針を表明した。

昨年12月、インドネシア議会では、政府のインフラ建設に向けた土 地取得を容易にする法律が成立した。ユドヨノ政権はそのようなインフ ラ事業に今年180億ドルを振り向けたい考えを示している。

ただ、インドネシアがインフラを整備してもしなくても、ミニマー トを経営するジョコ・スサント氏の会社が得をすることには変わらない だろう。

商魂たくましいスサント氏が、道路の渋滞まで宣伝の機会として利 用しているためだ。最寄りのアルファマートに車で買い物に出かけ、時 間を節約し、イライラから解放されよう-。それがスサント氏が配達用 トラックに貼り付けた、渋滞にはまったドライバー向けの宣伝文句だ。

原題:Indonesia Chases China as Domestic Demand Rises With Population(抜粋)

--取材協力:Berni Moestafa、Novrida Manurung.

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