「ムッシュー・ノルマル」が独に突き付ける「ノン」の意味

フランス大統領選で社会党のオラン ド前第1書記が勝利したことについて、同国の劇的な変化の前触れだと 解釈するのは誤りだろう。

オランド氏の勝利が徹底的に左寄りの政治綱領に対する有権者の熱 い支持がもたらしたものでないのは明らかだ。選挙戦に敗れた現職のサ ルコジ氏は、欧州の経済危機と国民の疲労感によって倒れた指導者の1 人にすぎない。サルコジ氏の派手なキャラクターは、陰鬱(いんうつ)な 時勢に直面し、次第に不快なほど場違いなものとなり、財政緊縮と国民 の犠牲への要求も説得力を失った。

この点では少なくともオランド氏は対極にある。カリスマ不在のイ メージを前面に出し、冷静かつ真面目、没個性という雰囲気を醸し出 し、「ムッシュー・ノルマル」(平均的市民)や量産品のカラメル・プ ディングを意味する「フランビー」と呼ばれた。

しかし、2人の候補にイメージほどの実質的な違いは全くない。フ ランスと欧州で深刻さを増す経済危機に痛みのない解決策が存在しない ことを両者は理解している。国内総生産(GDP)の約86%に相当する 1兆7000億ユーロ(約177兆3000億円)もの債務時限爆弾の不安を取り 除くと約束し、9.8%という12年ぶりの高失業率の引き下げが最優先課 題の一つだと共に訴えた。

オランド氏は政府支出の若干の拡大と資産課税の強化、緊縮財政の 緩和、フランスの社会的セーフティーネット(安全網)の総じて現状維 持ないし拡大を主張した。一方、サルコジ氏は62歳への定年引き上げを 手始めとする給付制度改革の継続と法人税の減税、週35時間労働など雇 用市場の規制の緩和を公約して選挙を戦った。いずれもそれほど重要な 違いではなく、それぞれの政治基盤に対する譲歩の産物だ。決選投票後 の市場の反応が冷静だったのもそのためだ。

ドイツの言いなり拒否

とはいえ、フランスの政権交代は無意味ということでは決してな い。オランダからスペインに至るまで各国をリセッション(景気後退) に追い込んだ徹底的な財政緊縮を訴える執拗(しつよう)な要求をドイ ツに断念させる効果があるかもしれない。

オランド氏はサルコジ氏のようにはドイツの要求の言いなりになら ないと明言。欧州の首脳らが3月に合意した財政協定の再交渉を行い、 インフラ支出を増やすための欧州投資銀行(EIB)の役割拡大などの 成長促進策を通じて、財政規律一辺倒の流れを緩和することを約束して いる。

われわれは以前、ドイツのメルケル首相はアウトバーンを突っ走る ような債務危機へのアプローチを変える必要があると指摘した。オラン ド氏が行うと宣言したフランスのささやかな抵抗は、まさに当を得たも のかもしれない。ドイツはイタリアやスペインといった高債務国を助け るためにもっと努力しなければならない。つまり、ユーロ圏のパートナ ーに資金を移転するか、自国の消費者に他のユーロ圏諸国からの購入を 促す政策を実行すべきだ。そうすれば、ドイツの要求が1ポイント増え るたびにユーロ圏の生産が約0.5ポイント押し上げられるだろう。

ギリシャの二の舞

ユーロ圏でひたすら懲罰的な政府支出削減を求める要求をドイツは 撤回すべきだというオランド氏の主張は正しい。緊縮策が成長を支援す る政策で補完されなければ、「財政赤字を減らし、債務を抑制すること は不可能と言わないまでも、困難になる」と同氏はインタビューで警告 している。

オランド次期大統領は、最後の社会党政権となったフランソワ・ミ ッテラン元大統領のばらまき型のモデルに倣うのだろうか。そのような 懸念は行き過ぎだ。オランド氏に与えられたマンデート(責務)はフラ ンスを変えることではなく、大惨事から救うことだ。先週の世論調査に よれば、フランス国民の62%が今後数カ月ないし数年後に自国が現在の ギリシャやスペインと同じ危険な状態に陥る可能性があると考えてい る。

フランス国民が最も厳しい緊縮策に反対票を投じたのはある程度ま で事実かもしれない。だが、オランド氏も国民も無謀な支出や保護主義 によっては、ギリシャになる運命を回避できないことを承知している。

原題:France’s Monsieur Normal Should Say ’Non’ to Germany: View (1)(抜粋)

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