日銀は絶望的な政策でルビコン渡った、効果は「幻想」-平野元理事

平野英治トヨタフィナンシャル サービス副社長はブルームバーグ・ニュースとのインタビューで、日 本銀行が物価上昇1%を目指すと表明して長期国債10兆円の追加購 入を決めたことは「非常に絶望的な行為」であり、「ある種のルビコ ン川を渡ってしまったように見える」と述べた。

平野氏は2002年から06年まで日銀理事を務めた。21日行った インタビューで、2月14日の決定について「危険なのは、日銀がデ フレ脱却の意志を示して行動すれば、円高修正が進み、デフレから脱 することができるという、ある種の幻想を助長してしまったことだ」 と言明。10兆円の長期国債購入が物価1%上昇という目標達成にど れほど効果があるかについても「極めて限定的だ」と話す。

一方で、「より積極的にデフレ退治をする、そのために国債を買 うと受け止められていることに対し、日銀は応えていかざるを得ない」 と指摘。「マネタイゼーション(財政の貨幣化)の定義は明確でない が、日銀の国債購入額は国債増発額とほぼ同じ額になった。これを何 というのか。日銀はそういう未知の世界に踏み込んでいる」と語る。

日銀は先月14日の金融政策決定会合で、消費者物価指数(CP I)の前年比上昇率1%が見通せるまで強力に金融緩和を推進してい くと表明。10兆円の長期国債買い入れ増額を決定した。これを受け て為替市場で円安が進行。株価はこれを好感して上昇し、日経平均株 価は1カ月後の3月14日に7カ月半ぶりの1万円台を回復した。

トリプル安の悪夢

平野氏は「日銀の決定は円高修正のサイドファクターであり、メ インファクターは欧州債務危機問題の一服と、米国経済に対する見直 し機運の2つだ」と指摘。そこで明るいムードが漂い始め、円高修正 の流れが始まったところで、「日銀の決定がある種のサプライズをも たらしたので、それに市場が反応した」と言う。

さらに、「日銀は当面1%をゴールとして、その先はもっと上げ ていくということだろう。蜃気楼(しんきろう)のような感じで、需 給ギャップが埋まり物価が1%を超えて2%に近づいていくような ことは、なかなか想像できない」と言明。「むしろあるとすれば、日 本に対する悲観論が強まって、円・株・債券のトリプル安になり、物 価がどんどん高まっていく悪夢のシナリオも考えられないことはな い」と語る。

平野氏は「日本の政策立案能力が落ちており、外部環境も悪い。 そうした中で中央銀行に負担がかかっており、日銀は結果として大盤 振る舞いを続けざるを得ない」と指摘。近未来に心地よいインフレを 達成できるめどが立たない中で、日銀が今回とった政策は「非常にデ スパレート(絶望的)な行為だと思う」と語る。そして、「あえて日 銀がある種のルビコン川を渡ってしまったのではないか、というふう に設問すると、私には渡ったようにみえる」と話す。

最も不均衡が蓄積しているのは国債市場

日銀は物価上昇1%を目指して強力に緩和を推進すると表明す る一方、金融面の不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、問題が 生じていないことをその例外条件としている。しかし、政府債務残高 が対名目GDP(国内総生産)比200%を超える状況でありながら、 10年物利回りが1%前後で推移する国債市場こそ不均衡が最も蓄積 した市場ではないかとの問いに、平野氏は「そうだ」と答える。

万一、その国債相場が暴落すれば「国債を大量に持っている金融 機関は逃げようとするだろうが、当然大きな損失が出て、金融システ ムがものすごく不安定になる。株価や、国民経済にも大きな下振れシ ョックが加わり、世の中がパニックになる」と語る。

その場合、「日銀が国債を買うか買わないかと問われれば、それ は買うだろう。中央銀行は危機の時は何でもする。そうなったらおし まいだから、そうならないよう一生懸命時間を買っているが、展望も なく時間を買っているのに近いかもしれない」と指摘する。日銀が国 債の暴落を止められるかどうかは「中央銀行は万能ではないので分か らない。しかし、日銀はそれでも止めようとするだろう」と言う。

外債購入も検討すべき

国債以外に買えるものとして、平野氏は外貨建て資産を挙げる。 「日銀の資産買い入れ等基金は、できることは何でもやるという枠組 みなので、外債だけ線引きする意味はない」と言明。「岩田一政元副 総裁が言われるように、政府と協力して基金を作り、外債を買えばい いではないかという意見も、検討の余地がある」と語る。

その上で「ただ、これも時間稼ぎにすぎない。そのコストもどん どん高くなっている。稼いだ時間の中で日本が何をするのかの方が問 題であり、日銀の一挙手一投足が過度に世の中で注目されことは、日 本全体として本質的な問題から目をそむけることになる」と懸念を表 明。「残念ながら、2月14日の決定はそういう傾向を強めてしまった」 という。

--取材協力:Toru Fujioka. Editors: 小坂紀彦, 淡路毅

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