原発事故の放射能汚染、福島県農民の苦闘は続く-風評被害で輸入増

東京電力・福島第一原子力発電所の 事故から1年以上経ったが、土壌を放射能で汚染された福島県の農民の 苦悩は、除染が進まない中で、今後何年も続きそうだ。風評被害で福島 産の農産物は敬遠されており、失地回復のめどは見通せないままだ。

福島県の農家数は約10万。全国農業協同組合連合会(JA全農)福 島によると、同県の農業被害は原発事故から今年3月1日までに約580 億円に膨らんだ。これは昨年の農業生産額の25%に当たる。

コメ、牛乳、水産物の国の検査が不十分であるとの懸念から、消費 者は福島産を避け、他地域産品や輸入品を購入している。農林中金総合 研究所の研究員、石田信隆氏によると、全国の食品検査の規模は、チェ ルノブイリの原発事故から26年経っているベラルーシで昨年行われた食 品検査のわずか1%。

コンサルティング会社JSCの商品アナリスト、重本貴樹氏は「消 費者の懸念は今後5年以上続くかもしれない。被災地域の農業にとって 深刻な打撃を与えるだろう。農民が減り、農業生産も減少し日本の農産 物輸入が増える可能性がある」とみている。農林水産省によれば、昨年 の日本の農産物輸入額は16%増の5兆5800億円。

福島県庁保健福祉部の金澤賢一主任主査によると、福島県の食品検 査は、コメ、牛乳、肉、野菜などを週に約300検体サンプル調査してい る。汚染された食品が1カ所見つかった地域は県が出荷停止を要請、2 カ所以上では国から出荷停止措置を受ける。

避難命令を拒否

コメ農家の松村尚登さん(52歳)は政府の避難命令を拒否し、福島 第一原発から12キロメートルに住み続けている。昨年試しに栽培したコ メは破棄せざるを得なかった。採れたコメからは1キログラム当た り200ベクレルのセシウムが検出されたためだ。政府の定めた暫定規定 値500ベクレルは下回ったものの、4月以降に導入される新基準の100ベ クレルを大きく上回った。松村さんは放射性セシウムが今後20-30年も 作物を汚染し続けるとした上で、東京電力が自分たちのしたことに責任 を果たしていないと述べた。「東京電力は潰れてなくなればいいと思 う」と言う。

国は食品の安全性を強調するが、昨年は放射能に汚染された埼玉県 産の茶、福島県産の牛肉とコメが市場に出回った。福島県の佐藤雄平知 事は昨年10月、地元産のコメは食べても安全だと述べたが、その後で、 汚染米が見つかった。

厚生労働省輸入食品安全対策室の道野英司室長は、ゼロベクレルや 不検出のものを選びたいという消費者心理は理解できるとした上で、食 品からの被ばくリスクは現状でも「安全性ということで言えば、ほぼ問 題ないレベルまで来ている」と説明した。

環境保護団体グリーンピース・ジャパンの佐藤潤一・事務局長は政 府の不十分な食品汚染検査体制によって、消費者はだれを信じてよいか 分からなくなっていると指摘した。

小売店の自主検査

大手スーパーのイオンの田辺兼人・広報担当によると、同社は原発 事故直後から野菜や肉、魚介類など一般食品の仕入れに際して50ベクレ ルという社内基準を設け、自主検査を順次スタート。昨年11月からはさ らに検査基準を強化し、検査結果を公開している。

東京都江東区で自治体に地域の放射線量の調査などを求めている「 No!放射能 江東こども守る会」の石川綾子代表は、国や市町村の検 査体制について「検査機器の精度などの問題があるので、今の段階では 産地を選ぶしかないと思っている。コメも偽装があるので九州の農家か ら直接契約で購入している」と述べた。

農林中金の石田氏は、ウクライナやベラルーシのように日本でも数 十年間、食品検査を続ける必要があるという。土壌や水に残留している セシウムは、穀物に吸収され、魚類などの生態系に蓄積するためだ。

石田氏は、放射能汚染のない農産物の生産体制をつくることが必要 だとし、汚染が深刻な農地ではバイオ燃料用のひまわりなど食用ではな い植物を植えるのも1つの方法だと語った。穀物の汚染を減らす農法の 開発も必要だと付け加えた。

東京都・新橋にある通販商品直売店の「カタログハウスの店」東京 店では、食品の放射性物質検査機器を店内に展示し実際に使用してい る。北沢基ストアマネージャーによると、福島県の農家を支援するため 約350万円で1台を購入し、昨年8月から福島産のコメや生鮮野菜など を販売するスペースを設けている。

売れ残る福島産

カタログハウス東京店で福島産のトマトを買っていた広瀬克己さん (51)は個人的には「安全性が確認されれば、福島産の食料品をもっと 買いたい」としながらも「実際に福島産のラベルがあると売れ残ってい るスーパーが多い」と語った。

農家の松村さんは自分が住んでいる村について、「富岡はゴースト タウンのようだ。住民はみんな居なくなった。両親も去った。いつ故郷 に戻れるかは分からない」と嘆いた。

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