ニューヨーク10番街で人気は天草産養殖マグロ-ファンドで国際競争力

ニューヨーク10番街の有名レスト ランMORIMOTOでは、熊本県天草の海で育てられ空輸されてきた 養殖マグロが大人気だ。マグロや和牛、トマトなど日本の特産品が国際 競争力を高めている。農水産物の生産・販売力や付加価値の向上のため に動き出した新たな金融ビジネスの存在がその背景にある。

九州の地域ファンド、ドーガン・インベストメンツは年間約7%の 運用益を目指す。投資先の1つがマグロ・ブリ養殖業のブリミーで2010 年1月に4800万円出資した。ドーガンの森大介社長(44)は「マグロ のほかにも黒毛和牛や豚、野菜など九州の農業はポテンシャルが高い」 とみる。総投資額は農水産向け約10件を含め100億円に上る。

ブリミーは天草の沖合にマグロの生簀(いけす)を10基持つ。11 年の出荷数は約1000匹で、約4割をアメリカへ輸出した。浜隆博社長 は「販売先を台湾やシンガポール、香港、ドバイ、EUにも広げたい」 と意欲を見せる。ブリミーでは出荷数は12年に2000匹、13年に5000 匹への拡大を見込み、IPO(新規株式公開)も視野に入れる。

ニューヨークのモリモトでは、ブリミーなどのマグロを月2回、空 輸で仕入れている。同店マネージャーのジェームス・ロバーツ氏は、自 然保護意識の高まりを背景に漁獲規制がある天然マグロより「完全養殖 マグロを選択した」とニューヨーカーから人気の理由を説明する。

牛、豚、鶏は1位

いま、このような農水産物生産などの事業向け金融サービスが日本 国内で広がりを見せている。その中心的な投融資の対象は、海外で拡大 する消費市場向けビジネスの強化や、国内で農業を継続的に育て付加価 値を高めてもうかる事業にしていくことを目指す金融サービスだ。

鹿児島銀行の上村基宏頭取(59)は黒豚や黒毛和牛など「薩摩ブラ ンド」の自ら地元の特産品を売り込みに世界中を飛び回る。ターゲット は香港、中国、台湾、シンガポール、韓国などアジアのアッパー層だ。 同行は6年前に強化策を打ち出し、11年9月末の農業向け融資残高は前 年同月比3.1%増の711億円となり同行の融資全体を押し上げた。

農林水産省によると、10年の鹿児島県の農業産出額は4011億円で 全国4位。肉用牛、豚、鶏では1位の座を独占する。鹿児島県庁畜産課 の杉山昇氏によれば同県では、11年度の黒毛和牛の輸出は5年前の53 トンから過去最高の220トンに拡大すると見込む。輸出先は香港が80% を占める。

鹿児島県で黒毛和牛の生産を手掛ける南九州畜産興業は、年商490 億円、従業員788人の大手食肉製造販売。1カ月に出荷する約100頭分 の牛肉のうち約7%を香港やシンガポールに輸出する。同社は借入金35 億円の半分をメーンバンクである鹿児島銀から調達している。

少子高齢化問題

東京大学大学院の鈴木宣弘農学博士は、「養殖マグロなど高付加価 値の特産品は海外市場で競争できるが、伝統的な日本のコメや穀物類は 大規模生産でコストの低いアメリカやオーストラリアなどとは競えな い」と分析。60キログラムのコメの価格は日本が約1万-1万4000円 に対し、アメリカは約2200円(1ドル=80円換算)だと指摘した。

南九州畜産の鬼丸博文社長は、牛や豚の生産者の大半が65歳以上 で、事業の継続性にリスクを感じ、同社独自の牧場を拡大する構想を練 っている。鬼丸氏は「皮肉なことだが、日本の農業の人口構造はアジア での和牛人気とは対照的」と述べ、少子高齢化の中での新たな金融の仕 組みによる支援を期待している。

10年の日本の農業就業人口260万人は5年前に比べて75万人減少 した。平均年齢は65.8歳。一方、新規の就業者は5万5000人で、39歳 以下は1万3000人。政府は将来の人材確保に、12年度から新規就農者 に年間150万円を最長7年間給付する所得支援策を計画中で、若年層を 中心に年2万人の定着を目標にしている。

政府も生産者と加工、販売業を結び付ける事業を後押しする。12年 度予算に300億円を計上し、関連事業に投融資する第1号ファンドを10 月にもスタートさせる計画だ。ファンドには国や地銀が出資する。農林 水産省によれば、第1次産業の年間生産は約10兆円。これに加工や流 通、飲食業を加えた「6次産業」合計は100兆円規模に上る。

野村と合弁でトマト生産

野田佳彦首相は昨秋、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加に 向け関係国と協議を開始する方針を表明した。TPPは農業を含む全品 目の関税撤廃を原則として目指すもので、協定に参加すればノーガード で国際競争にさらされ、同時に国内での販売拡大も課題となる。

野村ホールディングスは10年9月に野村アグリプラニング&アド バイザリーを設立。西沢隆社長は「生産技術や農業経営など、蓄積した ノウハウを生かし、野村として農業法人などの事業拡大のニーズにこた えていきたい」という。地銀22行との協力のほか全国の大学や自治体 と共同で農業ビジネスの発掘を進めている。

野村は昨年7月に農業法人・和郷と共同で高糖度トマト栽培の合弁 事業を立ち上げた。千葉県に建設した長さ100メートルのビニールハウ スから1月に3.3トンを収穫し、関東を中心に販売した。年間16トン 生産し、売り上げは1500万円で12年度から黒字化を見込む。将来は現 在1棟のハウスを3棟に拡大し、年間60トンの収穫を目指す。

ノウハウをプロデュース

野村証券の支店長経験者ながら今は農作業をこなす野村アグリの 若林滋和氏は「高糖度トマトは売れる商品で利益が出る」と語る。「生 産技術を中国やインドなど売り込むチャンスも十分ある」という。農水 省によれば、ミニトマトの出荷量は10年が9万6400トンで03年比22% 増加、耕作面積も1650ヘクタールから1.2倍に拡大した。

和郷は千葉県香取市で約90戸の農家を集約した農業生産法人。野 村と共同開発のトマトも含め、高付加価値野菜の生産から販売を自主運 営する。年間売り上げは60億円。和郷では農業法人化も含めこのトマ トの生産・販売プラットフォームを全国50カ所にプロデュースしたい 構想を持つ。1カ所当たりの事業規模は2億5000万円を想定している。

千葉銀行も和郷を支援する。同行アグリビジネス担当の石原文人氏 は、和郷の全国展開について「資金面も含めて支援を考えていきたい」 考えだ。石原氏は日本政策金融公庫への出向時代に農業金融を学び、経 営アドバイザーの資格を持つ。千葉銀の昨年12月末の農業融資残高は 80億円と09年比で23%増加した。

この構想では和郷のフルーツトマト生産システムを全国の農業生 産者に提供し、共に地元スーパーなどの販路も開拓する。12年から3年 で全国50カ所に拡大したい考えで、すべて稼働すれば売り上げは年間 300億円が見込めるという。向後武彦副代表はトマトなどを「食文化が 似ていて共通の味覚を持つ東南アジア」などにも売り込むつもりだ。

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