その時現場に駆けつけた男たち-放射能に挑んだ自衛隊、消防

冷却機能を失って次々に爆発した福 島第一原子力発電所。2011年3月17日朝、2機の陸上自衛隊のヘリコプ ターが仙台市の霞目飛行場から現場に飛び立った。任務は、原発真上か らの放水だ。

陸上自衛隊第1ヘリコプター団の隊員9人はわずか1日の訓練を受 けただけ。オリーブ色の全面マスクにヘルメット、戦闘用防護服の上に 鉛製ベストを着け、戦いに挑んだ。福島第一原発事故から1年-。未曽 有の災害現場にいち早く駆けつけ、恐怖を克服し奮闘した男たちが当時 を語った。

「ここでもう1回爆発したらどうなるんだろう。家族はどうなるん だろう」。機上整備員の木村努さん(41)は、任務の遂行の目前、こん な思いが頭をよぎった。それまでヘリからの放水といえば、森林火災の 消火などがもっぱらだった。

現場上空に到達すると、爆発で屋根が吹き飛んだ建屋の骨組みがむ き出しになっていた。放射線を遮断するために鉛などの板で覆われたヘ リの床。外部確認用のハッチからのぞくと「原子炉格納容器かと思うが 黄色い丸い容器が見えた」。事前に見た写真とはあまりにも異なるその 姿に「絶句した」という。

2機のヘリコプターはそれぞれ容量7500リットルの巨大バケツを吊 り下げ、約100メートルの高度から停止せずに3号機建屋に放水した。 約20分の間に2回ずつ、計30トンの海水を投下した。

志願募る案も

「放射能被爆の可能性があるため、放水活動を志願制にするという 提案もなされた」-。福島原発事故独立検証委員会が2月末に発表した 報告書は、ヘリ放水の任務が自衛隊に打診された場面についてこう記述 している。しかし、「自衛隊員からは『隊員はみんな35歳以上で子供も いる。被爆して子種がなくなっても大丈夫』という答えが帰ってきた」 という。

報告書によると、作業開始直前の調査では高度300フィート(91メ ートル)で毎時87.7ミリシーベルトの放射線量が検出されていたが、作 業に従事した隊員の被ばく線量は全員1ミリシーベルト以下に抑えられ た。放水による冷却効果は「一時的なものにすぎなかった」が、一方 で、「より効果があったのは、諸外国とりわけトモダチ作戦を展開して くれた米国に対して、日本がリスクを負って原発事故に対処していると ころを見せたことだと言えるかもしれない」と評価した。

自衛隊ヘリによる放水の前日の16日朝。双葉消防本部消防指令補の 渡部友春さん(36)らが防護服に身を固め、福島第一原発近くの高台か ら3-4号機の状況を見守っていた。午前5時45分に4号機で火災発生 との報を受けての出動だった。

車内の静寂

浪江町にあった消防本部は原発から約8キロの距離にあり避難指示 の対象となったため、約40キロ離れた川内村の出張所に指揮本部を3 月12日夜から移していた。現場に急行する車中では「どう消火するの か、どういう作戦で行くのか」といったことが話し合われた。やりとり がひとしきり済むと、雪の積もった峠道を下る車内に静寂が訪れた。 「みんな少し緊張しているような感じだった」。

ただ「死ぬことは誰も考えていなかった」という。チェルノブイリ 原発事故で、消防士が死を覚悟で任務に臨んだ話は聞いていたが、当時 とは状況が違い、原発事故の際の教育も受けていたためだ。「習ったこ とを守っていれば、被ばくはたくさんしても死ぬことはないだろうと思 っていた」という。「どれだけ被ばくをするのかなという恐怖感はあっ た。放射線は見えないので。でも、戻って来れないかもしれないという 感情はなかった」と渡部さんは話した。

絶対に死んではいけない

渡部さんが所属する消防本部の消防指令長・安倍一夫さん(57) も、放射線に関する知識をしっかりと学んでおくことが重要だと指摘す る。管内に原発が立地する消防本部は「教育を受けているからこそ活動 ができるし、怖い部分も知っている」と話す。

福島第一原発には「放射線量が毎時10シーベルトの場所もある。そ こに1時間いたら確実に死ぬ。20-30分でも死ぬ。そういうことも知っ ておくとともに、低い線量だったら大丈夫ということも知っておかない といけない」と強調した。そもそも「消防職員は絶対に死んでいけない んです。死んでは人は助けられないので。必ず安全に活動しないといけ ない」と語る。

渡部さんら21人の消防隊員たちはこの日、6隊に分かれて原発に急 行するとまず事故対策の拠点となっている免震重要棟に向かった。各隊 の隊長たちが東電職員と対策を練る中、渡部さんらは建物の前に停めた 消防車内で待機した。原発作業員からは車から降りないよう指示があっ たが、現場の状況が気になった渡部さんは車外に出て、4号機の建屋が 見える場所まで歩いた。周囲に屋外に出ている人は1人も居なかった。

火災発生と通報のあった4号機だが、この時は煙や炎らしきものは 確認できなかった。爆風で建屋の屋根が吹き飛ばされていた3号機から は、煙ではなく水蒸気らしきものが上がっていた。渡部さんは「煙であ れば上空に上がっても残るが、このときのものは消えていた」ため、水 蒸気だったとみている。「雪が降った後のきれいな青空だったので、余 計に水蒸気がはっきり見えたのが印象に残っている」という。寒い気候 だったが、「防護服をたくさん着ていたので中は汗だく」だった。

不気味な静けさ

あたりは非常に静かだった。「静かな分、余計に気味悪さがあっ た」と渡部さんは記憶している。その後、放射線量が急激に上昇したこ とから敷地外に退避を余儀なくされた。被ばくが想定される状況での消 防活動は毎時10ミリシーベルトまでと定められているが、この時建屋周 辺では同100-400ミリシーベルトが測定されていた。指揮本部に残って いた消防指令長の安倍さんは、緊急退避を報告する現場からの無線の声 は「非常に緊迫していた」と記憶する。

退避した隊員たちは、原発正門から約1キロ離れ線量の低い地点を 見つけて待機した。そのころにはあたりの町中に人の姿は消え、「すれ 違う車両は、発電所や警察、われわれのような消防関係者のもので、一 般の人には会わなかった」。川内村の指揮本部への帰途、20キロ圏の境 界周辺で、放射線量が最も高かった車両を残し、防護服もその車両の中 に押し込んだ。

川内出張所には通常3-4人分の宿泊設備しかないが、当時は約90 人が泊まりこんだ。気温がマイナス3度。車庫にテントを張ったが、あ ぶれた隊員たちはコンクリートの床の上にダンボールを敷いて体を休め た。

隊員の家族

安倍さんによると、当時125人いた消防隊員のうち約9割が20キロ 圏内に住んでいた。安倍さん自身も浪江町にある自宅を津波で失ってい る。震災発生時、出勤していた安倍さんの自宅には母親が1人で居た が、救出作業に追われ、安否を確認する余裕はなかった。携帯電話を含 め連絡手段はすべて失われていた。

渡部さんは震災当日、休みで原発から約3キロの大熊町の自宅にい た。震度5弱を超える地震の際には隊員は全員集合することになってい た。「発電所で何かあるだろうと思った」渡部さんは、家族の車のガソ リンが満タンか確認し、避難指示が出たら2人の子供と祖父を連れて従 うよう妻に伝えて職場に向かった。

日ごろの訓練時でも原発から3キロ圏が区切りになっていたことか ら、自宅が最初の避難指示の対象になることが想定できた。小さい子供 がいるため、渡部さんは「載せられるものはすべて今のうちに車に乗せ て避難の準備をしておけ」と妻に指示し自宅を後にした。

1週間の音信不通

安倍さんや渡部さんをはじめ、双葉消防本部の隊員たちは1週間近 くにわたって家族との連絡を一切取れなかった。17日になって初めて衛 星電話を家族の安否確認用に使うことを許された。幸い隊員たちの家族 は全員無事だった。渡部さんの家族はこの7日間の間に4カ所を転々と し、初めて連絡がついたときには埼玉の親戚の家に居た。

福島第一、第二という2つの原発を抱えた同消防本部には、防護服 や線量計が備えられ、原発事故を想定した訓練も毎年実施していた。安 倍さんは、訓練を統括していた原子力安全・保安院の職員に「地震を想 定した訓練をしないのか」と尋ねたことがあるという。

地震を想定すれば津波も視野に入れて原発被害を予想することにつ ながる。保安院側の回答は「複合災害の対応は今は考えられない。計画 できない」というものだった。「そこまでいってしまうと、対応できな いということだったんじゃないですか」と安倍さんは推測する。「やっ ぱり原子力発電所の事業者にはおごりがあったんでしょうね」。

「空気を読む」危険

福島原発事故独立検証委員会の北沢宏一委員長は、調査報告書の冒 頭に文章、政府の原子力安全に携わる人間や東京電力関係者などの間に は安全対策が不十分との問題意識はあったと記した。しかし「自分1人 が流れに棹をさしても」との考えがその問題意識を声にすることをとど まらせたと指摘した。

場の空気を過度に読み、組織にとって不都合なことは発言しないと う態度が「安全神話」を作り上げることにつながったという。北沢氏は 「もしも『空気を読む』ことが日本社会で不可避であるとすれば、その ような社会は原子力のようなリスクの高い大型で複雑な技術を安全に運 営する資格はありません」と話す。

安全神話の城下町に暮らした住民の一部は、放射能汚染で自宅に帰 ることが難しくなっている。危険を顧みず原発に乗り込んだ渡部さん も、帰宅は絶望的と考えている。3キロ圏内の自宅は建てたばかり。30 年近いローンが残っている。業務が忙しく東電への賠償申請にすら手を つけられない。

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