世界一危険なサーキットを突っ走れ-スピード狂の「緑の地獄」

タクシー運転手のヨルゲン・ワーグ ナーさんは高級車BMW「M3セダン」を駆って、うなりを上げて走る ドゥカティ製のオートバイ2台と、のろのろ進むスズキ製のハッチバッ ク1台の間をすり抜けていく。片手を軽くハンドルに乗せ、「オートバ イには特に注意が必要だ。危ないから」とアドバイスしてくれる。

そして、今度はポルシェ「911GT3」に狙いを定め、容赦なく追 い越しを仕掛け始めた。私はタクシーの助手席に座っている。急な勾配 を猛スピードで下ると全てが傾いて見える。周囲の森がかすみ、勢い良 く通り過ぎて行く。

ワーグナーさんは普通のタクシー運転手ではなく、われわれが走っ ているのも通常の道路ではない。私は「リング・タクシー」と呼ばれる BMWに乗っている。ここはドイツにある自動車サーキット、ニュルブ ルクリンクのコース「ノルドシュライフェ」。ほんのわずかな料金を支 払えば、世界で最も危険なレース場とされるこのコースをBMWで一周 することができる。

伝説的なF1ドライバー、ジャッキー・スチュワート選手はこのニ ュルブルクリンクで開かれたドイツ・グランプリで3度優勝を飾ってい る。だが、同選手もここでのレースを常に恐れていたと認めている。彼 はこのコースを「グリーン・ヘル(緑の地獄)」と名付けた。

ここで運転するのは私の長年の夢だった。そしてあす、私はチェリ ーレッドのジャガー「XKR-S(550馬力)」のハンドルを握る。前 もって助手席から、運転中に見ることになる風景を体験できるのは極め て助かるし、身の引き締まる思いがする。

アスファルトの迷宮

ニュルブルクリンク・レース場はドイツの西の端にそびえ立つアイ フェル山脈に位置し、ニュルブルクの町に近い。深い森の中にあるこの レース場には、ノルドシュライフェの他にもう一つ「グランプリ」コー スがある。

ノルドシュライフェ(北コース)は全長12.9マイル(約20.8キ ロ)。ヘビのようにうねり、起伏に富む。見通しの聞かない危険カーブ など、時速約225キロで走り抜けるドライバーにとってはまるでアスフ ァルトの迷宮だ。

通称「リング」として知られるこのコースは手ごわい。プロのドラ イバーでも走りのこつをつかむのに数カ月かかる。ノルドシュライフェ は一方通行の有料道路として一般にも開放されている。週に何度か、免 許のあるドライバーなら24ユーロ(約2500円)を支払えば度胸を試す機 会もある。

天国か地獄か

今回の挑戦は、私にとって栄光をつかむチャンスだ。あるいは、屈 辱の瞬間になってしまうかもしれない。私が乗るスポーツクーペ、 XKR-Sはジャガーが通常生産する自動車の中では最速。時速約300 キロまでスピードが出る。ジャガーは、ノルドシュライフェ・コースを 午後いっぱい貸し切り、数人の自動車ジャーナリストを招待して試乗の 機会を与えた。コースにはわれわれだけのため、キャンピングカーを避 けながら運転する必要がないのは朗報だ。ただ、運が悪いことに雨が降 っていた。トラックの表面には酔っ払ったレースファンが描いた落書き がある。塗料は少しでも水分を含むと極めて滑りやすくなる。

ドイツ人レースカードライバーのサッシャ・バート氏が先導車に乗 ってわれわれを導く。彼の説明はこんな感じだ。「トラックは凹凸が多 い。コントロールを失うと逃げ場はなく、壁に激突する可能性が高い。 車道がぬれている場所は、氷上を走るようだ」。そしてにっこりと微笑 むと「大丈夫?」と尋ねる。

われわれ4人はそれぞれジャガーに乗り込み、1列になって先導車 の後に続く。前を行く自動車と全く同じように進んでいく。目の見える 人が見えない人を先導するような状態だ。

興奮の走り

バート氏が無線で指示を出し、われわれはグリーン・ヘルへと上っ ていく。私は3台後ろのジャガーに乗っている。全員がプロのすぐ後ろ を運転するチャンスに恵まれるよう、一周するごとに先導車の後ろの車 が列の最後に回る。6マイル進んだところで、有名なコーナー「カルー セル」と呼ばれる忌まわしい箇所に出くわした。左カーブの端にコンク リート製の排水溝がある。インストラクターは無線で「左のタイヤを排 水溝に落とせ。ただし、ゆっくりとだ。そうすれば自動車は跳ね上がり 右側の安全な柵に乗り上げる」と指導する。

言われた通りにしたが、ジャガーは不安定に傾き、タイヤは鉄道レ ールの上を走っているかのように進むばかりだ。コーナー出口のところ でエンジンを吹かすと、XKR-Sははじけ出た。信じられないほど面 白い。今度は私が先導車のすぐ後ろを走る番だ。長い直線コースを猛ス ピードで突っ走る。曲がりくねった丘や見通しの悪いコーナーを走り抜 け、カルーセルやS字カーブを飛ぶように走る。私は興奮状態だ。リン グは最高だ。

急ブレーキ

そして私は、列の後ろに下がった。先導車が見えなくなる。走路の どちら側にいればいいのか分からない。私の車のタイヤがカーブをかす める。見通しの利かない頂上部分にたどり着いた時、急カーブが目の前 に迫っているのに気付き、急ブレーキをかけた。すごく迫っていた。こ れがリングの最も恐ろしいところだ。

ラップが終了し、われわれはピットに引き揚げた。ノルドシュライ フェでの80キロ余りの走行をわれわれは生き延びた。ジャガーの幹部が 歩いてきてこう言った。「こんなコース、世界中探してもほかにないで しょう?」。

私は汗で額にはりついた髪を整えながら「確かに」と答えてから、 「まあ、いいんじゃない」と語った。

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