バンカーから転身の英小説家、容赦ないトレーダーの世界語る

バンカーから小説家に転身したアレ ックス・プレストン氏はロンドンのカフェでラッテをすすっている。時 刻は月曜日の午前10時を少し回ったところだ。2010年5月に金融街シ ティーを去ってから、どれほど人生が変わったか思いにふけっていた。

「ずっと良く眠れるようになった」とプレストン氏はつぶやく。 「お金以外にも信じられないほど魅力的な部分があった。でも心の内で はとても惨めな思いをしていた。子供たちの顔をあまり見られなかった からだ。年次リポートの内側に挟んでいつも本を読んでいた」。

帰宅してからは毎晩小説を書いた。最初の著書「This Bleeding City」が出版されたのは、カーライル・グループのレバレッジド・ファ イナンス部門でトレーディングの世界責任者を務めていた時だった。

この小説は、赤ん坊の息子をロックして室内が高温になった自動車 の中に置き去りにしたことを忘れてしまうヘッジファンドアナリストの 物語だ。

「湧き出るような感覚だった」と振り返る。プレストン氏は英オッ クスフォード大学卒の33歳。シティーで8年間働いた。ABNアムロで は投資バンカーとして勤務。もともと、2年間働いて資金をため、天職 と信じる道に進むつもりだった。それは、文学だ。

「常に書きたいという願望にとらわれていた。でも、当然うまくい かないし、日常に飲み込まれてしまう」。

プレストン氏は銀行業界に渦巻く欲望に魅力を感じていたことも認 める。情け容赦ない競争から最初の小説のインスピレーションを得た。

人の内面を描く

「資産担保証券やCDO(債務担保証券)などについて無味乾燥な 解説をするノンフィクションの本はたくさんあった。当時、その陰で人 々がどのような状態だったかを描く本はなかったように思う。人々を殺 すのはCDOではなくてトレーダーのような気がした」と語る。

過去の勤務経験は2作目の小説 「The Revelations」にも影響を及 ぼしている。この作品は、ロンドンに住む友人同士の4人が「ザ・コー ス」と呼ばれるカリスマ的な宗教活動にのめり込んでいく物語だ。その うちの1人が姿を消すと、スリラー小説の様相を帯び始める。

着想はキリスト教への実際的な入門コース「アルファ・コース」に 基づいている。その本部は偶然にもわれわれのいる場所から道路を隔て た向かい側にあるホーリー・トリニティ・ブロンプトン教会にあった。 プレストン氏は少年聖歌隊に所属していたこともあったが、学生時代は 無神論者だった。2005年に友人と一緒にこのコースに通ったことがあ る。

当時、プレストン氏は既にシティーで勤務しており、アルファの活 発なメンバーや少なくとも一度はコースに参加したことのある人が周り に多くいた。自分自身が信者になることはなかったが、魅力は感じた。

「バンカーにとっては非常に魅力的だ。このコースにとってもバン カーは極めて魅力的だろうと思う。バンカーたちは収入の10%を支払う からだ。シティーはとても抽象的な世界だ。数字や通貨記号に囲まれて いる。そして、極めてよそよそしい世界だ。間違いなく何かカルト的な ものがある」と述べた。

(アンダーソン氏はブルームバーグ・ニュースの芸術・娯楽部門の 批評家です。この記事の内容は同氏自身の見解です)

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