日銀が陥った国債購入の「あり地獄」、将来大きな禍根-内海元財務官

日本格付研究所の内海孚社長はブル ームバーグ・ニュースのインタビューで、日本銀行の先月の追加緩和 を「あり地獄」に例えて、「日銀は自らを動きの取れない方向に追い込 んでいる」と述べた。その上で、財政規律喪失や国債市場のバブル化 と崩壊など、将来大きな禍根を残す可能性があるとの見方を示した。

内海氏は1989-91年に大蔵省(現財務省)の財務官を務め、国際 金融情報センター理事長を経て現職。1日行ったインタビューで「白 川方明総裁はバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長と金融 緩和競争をやっているか、単に追随しているようなものだ。バーナン キ議長が何をやっているかみれば、日銀が何をやるか分かると海外の 人も言い始めている」と語る。

その上で「今回の決定で円安・株高となり、短期的には成功した と思うし、それはそれで結構だが、中長期的には非常に大きな問題を 残すことになる」と指摘。「日銀が国債を買っていれば財政赤字はどう にかなるではないか、ということで、財政規律は当然緩む。日銀はど んどんあり地獄に入っているように私には見える」という。

FRBは1月25日、長期的な物価目標として2%の物価上昇率を 明示。これを受けて、日銀にデフレ脱却へのより強い姿勢を求める声 が高まった。日銀は先月14日の金融政策決定会合で、当面、消費者物 価指数(CPI)の前年比で1%を目指し、それが見通せるようにな るまで強力に金融緩和を推進していくと表明。その具体的な手段とし て、新たに10兆円の長期国債を買い入れることを決定した。

進むも地獄、退くも地獄

日銀が2001年3月の量的緩和の一環として長期国債の購入を始め て10数年経つ。購入額は当初、月4000億円、年4.8兆円にすぎなかっ たが、現在は月3.3兆円、年40兆円に膨れ上がっている。内海氏は「日 銀は緊急措置として非伝統的な政策の先鞭(せんべん)をつけたが、 かくも長く続けたため、やめることができなくなった」と語る。

さらに「中央銀行が長期金利に介入して長期金利が低く抑えられ ると、金融機関にとって収益の源泉であるスプレッド(金利差)が縮 小するので、金融機関には非伝統的な手段は早くやめてもらいたいと いう気持ちがあったと思う」と指摘。しかし「ここまで来ると日銀が 買い入れをやめると国債が下落して膨大な評価損が発生するので、続 けられても地獄、やめられても地獄という状態になっている」という。

消費税率引き上げをめぐる論戦が続く国会では、景気の停滞と物 価の下落が長く続いていることに対し、日銀へのいら立ちの声が強ま っている。白川総裁は連日のように国会に呼ばれ答弁に立たされてい るが、NHKで全国中継された2月7日の参院予算委員会では、やじ が乱れ飛び、答弁をいったん中断せざるを得ないほどだった。

かたくなな組織が日本には必要だが

内海氏は「日銀法改正で独立性を強めたにもかかわらず、なかな か独立性が強まったとは思えない。独立性だけが正しいと言っている わけではないが、どこか頑固なくらい則(のり)を守ろうとする組織 が日本には必要だし、それがあるとすれば日銀だと思うが、今は政治 家のペースに巻き込まれ過ぎている」と語る。

先進国で最悪と言われる日本の財政状況。それにもかかわらず、 長期金利は1%を下回る水準で推移しており、日銀の国債購入に追随 するように、民間金融機関も国債保有額を膨らませ続けている。日銀 が先月29日発表した民間金融機関の資産・負債によると、1月末の国 内銀行の国債保有高は166.7兆円と過去最高を記録した。

内海氏は「国際的に発言が注目される人たちの間から、何となく 日本売りみたいな雰囲気が出てきている。国債のバブル崩壊だけが単 独で来るのではなく、その時は円安・株安・債券安のトリプル安とい う形で日本売りになる」と語る。原子力発電の代替で石油と天然ガス への依存度は非常に高まっている。「今までは円高恐怖論ばかりだった が、ついこの間1ドル=120円だったことがあるわけで、今120円にな ったらエネルギーコストの上昇で大変なことになる」と話す。

次の標的が日本だったら

内海氏は一方で、現在最大のリスク要因とされている欧州ソブリ ン問題については、鎮静化に向けて「一歩一歩進んでいる」と評価す る。その上で「ユーロ圏に対する市場の攻撃が少し収まってきて、次 の標的はどこかというとき、それが日本だった時に政策的に取れる手 段はない。その時が一番怖い」と危機感を示す。

消費税をめぐる国会論争も混迷を深めている。内海氏は「消費税 率引き上げがうまくいかないことが分かり、日本の財政には救いがな い、深刻化する一方だというイメージが広がった時の怖さを想像した らよい」と指摘する。「租税収入が歳入全体の50%にもならないという 財政状態なのは、世界の先進国ではどこにもないのだから」という。

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