【FRBウオッチ】バーナンキ博士が演じる「ジキルとハイド」(上)

バーナンキ米連邦準備制度理事 会(FRB)議長は、フェデラルファンド(FF)金利予測の公表や インフレ目標の導入など政策の道具立ての透明性を高める方向で尽力 しているが、政策の真の狙いを明確にしておらず、不透明感が強い。 政策手段の説明を増やす一方で、真の狙いを隠す真意を探る。

もともと連邦準備制度は、いまから100年ほど前にウォール街 の主力銀行幹部と米財務省高官、議会の大物議員が秘密裏に会合して 練り上げた中央銀行構想を基礎に設立された。この密会が行われたの はジョージア州大西洋岸沖合いに浮かぶジキル島だ。

二重人格者を題材にした小説「ジキル博士とハイド氏」を連想さ せるこの島は政財官の三位一体により創設された官民ハイブリッド型 の連邦準備制度の起源にふさわしい。物語に登場する「ハイド (Hyde)氏」には「隠す(hide)」が暗示されており、バーナンキ 議長が政策の真の狙いを明かさないことと二重写しになる。

大恐慌の研究家として知られ、金融史にも造詣の深いバーナンキ 博士は、議長就任後に初めてジキル島を訪れた2009年5月11日、 「ジキル島の名は米連邦準備制度の歴史を通じて響き渡ってきた。ジ キル島こそ連邦準備制度の起源のひとつである」と謳いあげた。 (「オバマ発金融危機は必ず起きる」朝日新聞出版、第6章を参照)。

紆余曲折を経て連邦準備制度が発足するのは、ジキル島会合から 4年後の1914年。その100周年にあたる2014年の遅くまで、事 実上のゼロ金利政策が継続されそうになったのは、バーナンキ議長が 主導する超低金利政策の時間軸延長の賜物だ。

ゼロ金利時間軸は最長5年

同議長が時間軸の延長を主導したのは、FOMCの超低金利政策 長期化への強い決意を市場に刷り込み、金融緩和策の効果を高める狙 いがある。FRBが配布した資料には、FOMCメンバー17人のゼ ロ金利解除(初回利上げ)予測の年を示す5本の棒グラフで構成され る表がある。5本の棒グラフは、一番左から2012年、2013年、 2014年、2015年、2016年とゼロ金利解除が予想される年を示す。 そして棒グラフの高さは、それぞれ10目盛りからなり、1目盛りが 当該年にゼロ金利解除を予想するメンバー1人を表す。

それによると、2012年の棒グラフは3目盛りの高さで、ゼロ金 利解除を予測するメンバーは3人。13年も同じく3目盛りで3人。 14年が一番多く5人、15年が4人、16年が2人となっている。バ ーナンキ議長はこのグラフを説明するに当たって、2012年から順を 追って説明するのではなく、最も遠い16年から話し始めた。図らず も議長がゼロ金利の長期化に前のめりになっていることを裏付けた格 好だ。

「ハイド氏」の演技で真実を吐露

そしてバーナンキ議長は、こうした分かりやすい方法で、メンバ ーのゼロ金利解除シナリオと、インフレ目標を明示した狙いについて、 「異例の低金利がFOMCメンバーに支持されていることを示し、時 間軸に対する市場の信頼感を高めることにある」と明言した。議長は 記者会見の冒頭で対話の狙いについて、「家計や企業の理解を高める」 ことを挙げながら、記者からの質問に答える中で、実際には「市場」 に伝達することが狙いであることを図らずも示すことになった。

バーナンキ博士はジキル博士を演じるのは巧みだが、ハイド氏を 演じるのは苦しい。こうして、問わず語りに真実を吐露していくわけ である。従って、同議長の発言を細大漏らさず記録し、分析していけ ば、その真意は透けて見えてくる。

バーナンキ議長は1月25日の記者会見で、大学教授時代から唱 えてきたインフレ目標の導入に成功する。2002年のFRB理事就任 から10年かけて所期の目的を達成した。もっとも、この悲願達成ま でに同議長は大きな譲歩をしている。

それはインフレ目標に使われる指標として、個人消費支出(PC E)の総合指数を採用したことである。バーナンキ議長は理事を務め ていた2005年3月の議会証言で、インフレ目標について問われ、 「変動の大きいエネルギーと食品を除いたコアPCE価格指数で1- 2%上昇が心地よいと思う」と答えていた。

インフレ目標「2%」の狙い

今回、インフレ目標としてPCE総合価格指数のレンジではなく 「2%」と決め打ちしたのは、恐らく追加金融緩和をより容易にする 狙いが隠されているのだろう。

25日のFOMC会合後に公表されたメンバーのPCE価格指数 予測によると、今年第4四半期に前年比で1.4-1.8%上昇(中央値) と、2%の目標を下回る。追加緩和の重要な要件の一つが既に満たさ れている。

一方で、連邦準備法により物価安定とともに義務付けられている 「最大限の雇用確保」については、バーナンキ議長は「ハイド氏」に なり切って、真相を隠しているようだ。しかしハイド氏の演技は苦し く、真実が透けて見える。議長は「雇用の最大化」について、会見冒 頭に声明を読み上げる形で、「おおむね金融以外のファクターで決ま る」と指摘した。

目的化する追加緩和

議長は「最大限の雇用確保」の数値目標化は困難だとして、FO MCメンバーの長期失業率予測で代替すると宣言。インフレ率と雇用 最大化という「これらの目標は相互補完的だ」と言い切った。その上 で、「インフレ率が目標を下回り、失業率が極めて緩慢なペースで低 下する状況が続く場合は、われわれの枠組み論理に従えば、追加措置 の方法を探るべきだということになる」と言明した。

現状では、インフレ目標の達成が真の目的ではなく、追加金融緩 和が目的化していると見たほうが実態に近いだろう。ましてや「雇用 の最大化」は「おおむね金融以外の要因で決まる」と断言しており、 FOMCにはそれを実現する力はない。「最大限の雇用確保」が実現 したと仮定したときの自然失業率について、メンバーの予測中央値は

5.2-6.0%とされている。今年の予測中央値は8.2-8.5%と8% 台で、なお極めて高く、インフレ目標、失業率予測から見ても、追加 緩和を強く示唆している。

超金融緩和のリスク予測が必要

バーナンキ議長が率いるFOMC主流派は追加緩和への臨戦態勢 を敷いていると見て間違いなさそうだ。あとは経済統計の裏付けを待 つばかりである。そもそも、異例の低金利は「少なくとも2014年遅 くまで正当化される可能性が高い」と、明示的な時間軸を1年以上も 引き延ばしたのは大幅な追加緩和と言えよう。

際限のない金融緩和が目的化しているだけに、大きな副作用が積 み重なっていく。金融政策で動かし難い失業率の予想を提示するより も、歴史的に例のない異例の金融緩和によるリスクの予測の方が、健 全な経済の達成に貢献できるのではないだろうか。

(FRBウオッチ の内容は記者個人の見解です)

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