日銀が外債購入の可能性を模索、財務省と激論に-2001年下期議事録

日本銀行は31日午前、2001年 7-12月に開いた金融政策決定会合の模様を記録した議事録を公開し た。IT(情報技術)バブル崩壊や不良債権問題、米同時多発テロ事 件などさまざま問題が降りかかる中、日銀は量的緩和政策の拡大を余 儀なくされたが、その効果に対する懐疑の声が強まると同時に、外債 購入案が新たな一手に浮上。難色を示す財務省と激論が交わされた。

同案で議論の口火を切ったのは須田美矢子審議委員。01年7月12、 13日会合で「一段の金融緩和と言ってもいろいろな方法が考えられる が、現在の枠組みの下では当座預金残高の目標値の増大というのが素 直な方向だと思う。しかしこれを少々増大する程度ではその効果は限 られている」と指摘。「物価の下落を阻止し、物価の安定を図るため には、まずは円安に頼らざるを得ないのではないか」と述べた。

日銀は00年8月、政府の反対を押し切ってゼロ金利政策を解除し たものの、世界的なITバブル崩壊の波に飲み込まれ、翌01年3月、 日銀当座預金残高を操作目標とする量的緩和政策に踏み切った。しか し、日銀内部ではその効果に対して引き続き懐疑論が根強かった。

須田委員は8月13、14日会合で「外国為替の購入は1つの選択肢 であり、財政節度の制約はない。デフレ圧力の緩和という目的に関し ては最もストレートな手段である」と問題提起。中原真審議委員も外 債購入について「非伝統的な金融政策手段の総動員も1つの想定はし ておく必要があるのではないか」と賛同した。

一度は伏せられた外債購入の議論

日銀はこの会合で、当初5兆円だった当座預金残高目標を6兆円 に拡大。併せて長期国債買い入れ額も月「4000億円」から「6000億 円」に引き上げた。さらに、9月11日の米同時多発テロ事件を受けて 同月18日会合では、流動性需要の高まりに対応するため、当預残高は 「6兆円以上」と青天井の目標に切り替えた。

この間、市場への影響に配慮したためか、外債購入をめぐる議論 は1カ月半後に公表された議事要旨には記載されなかったが、中原伸 之審議委員が10月11、12日会合で「是非、外債の購入の開始を検討 してほしい」と要請。同月29日会合で「いろいろ最終的に詰めること もあると思うが、日銀法33条に掲げている通常業務の範囲内で毎月定 額の買い切りオペを外債についても行う」ことを提案した。

これに対し、植田和男審議委員は「外債を購入したらどうかとい うのは、場合によっては皆さんの頭の中にある話だと思う。仮に法的、 あるいはその他の状況を考えた上でできるのであれば考慮に値する案 かもしれない」と発言。中原真委員も11月15、16日会合で「直観的 に、1つの政策手段として考慮に値する」と同調した。

「1000円札と1万円札の両替に過ぎない」

三木利夫審議委員も「健全な金融政策が限界を迎えつつある」中 で、外債などを活用した資金供給を「今から検討していく必要がある だろう」と発言。量的緩和政策の効果などをめぐり日ごろから中原伸 之委員と意見が対立することが多い山口泰副総裁も「私は、今日のと ころは中立的に考えている」として議論を見守る姿勢を示した。

日銀から外債購入待望論が一気に強まった背景にあるのは、量的 緩和政策の効果に対する懐疑論の強まりだった。植田委員は「これ以 上流動性を供給することができたとしても、何回も言っているが、そ れにあまり意味があるとも思えない」と言明。短期国債をいくら購入 してマネー供給を増やしても「1000円札と1万円札の両替に過ぎない、 というような極端な言い方もできるかと思う」と述べた。

ここで外債購入をめぐる論点を整理したのが、中央銀行研究会で 1998年施行の新日銀法策定に携わった須田委員。メリットとして①国 債と異なり日銀券などとの代替性が低く当座預金を供給しやすい②長 期国債購入と違い財政規律をめぐる市場参加者の懸念を刺激する恐れ がない③株式や社債と比較して中立性を確保しやすい-と述べた。

財務省が大きな壁に

一方、問題点としては④現在、短期の円資金を供給する上で外債 購入を取らざるを得ない状況なのか⑤そもそも外債購入は日銀法で認 められるのか⑥諸外国の通貨当局の理解を得る必要があるが、その際 は財務省の協力が不可欠である-と指摘。その上で「私は、日銀によ る外貨ないし外債購入について、今回非常に重要な問題を提起してい ただいたと思っている」と述べ、中原伸之委員に謝意を表した。

こうした日銀政策委員らの声に対し、会合に出席していた竹中平 蔵経済財政政策担当相は「今日は外債購入の話が出たが、選択肢をで きるだけいろいろと広げて、政策に関する工夫を出す非常に重要なチ ャンスであろうかと思う」と歓迎の意を表したが、大きな壁として立 ちはだかったのが、為替介入政策を担っている財務省だった。

同省の藤井秀人総括審議官は11月15、16日会合で、日銀法第40 条第2項で為替相場の安定を目的とする売買は財務省の指示で行うと 限定していることを挙げて、「この法律上の観点から相当いろいろな 面で問題があるというように考えている」と述べ、難色を示した。11 月29日会合でも日銀政策委員と同氏の間で激しい議論が続いた。

財務省に対し「論理的に一貫せず」と反論

藤井氏が「短期資産を中心とするオペの実体経済に与える影響は 限定的」として、「金融調節にあたり、新たな工夫を講じることを含 め、経済により効果のある政策を幅広く検討していただきたい」と述 べたのに対し、山口副総裁は「やや論理的に一貫しない」と反論。

「流動性を徹底的に供給すべしという議論をなさるのであれば、 手段はあらゆる手段を動員するということが論理的な帰結になると思 うし、その手段の選択は日銀に任せていただくほかない」と述べた。 しかし、12月8、9日会合で、中原委員が法律上の解釈について「財 務省に文書による見解を求めるとか、法制局に見解を求めるというこ とも検討すべきでないか」と述べたものの、財務省の反対を機に、日 銀内の外債購入をめぐる議論は急速に下火になっていった。

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