スイスのスキーリゾート、ダボス で開催中の世界経済フォーラム(WEF)年次総会に参加している資産 家やバンカー、政治家がこの会議から一つの洞察を引き出すとすれば、 それは、西洋文明は短期的利益と長期的利益のバランスを取るという点 において破滅的失敗の瀬戸際にあるということだろう。

ダボスには世界のエリートたちが集結し5日間にわたって講演や会 議、カクテルパーティーが開催されている。欧州の市場混乱は若干緩和 され、米経済も予想より健全さを取り戻しているように見える。しかし ドイツのメルケル首相が25日、ダボス会議で指摘したように、世界の リーダーたちは2008年に始まった金融危機から学んだ教訓に従って行 動しておらず、その危機は実際にはまだ終わっていない。

米国の政治家たちはもっぱら短期的な利益に重点を置いており、そ れは長期的には不利益につながりかねない。09年の銀行救済と、十分 だったとは言えそうにないあらゆる景気刺激策は本格的な経済不況回避 の一助となり、数百万人の米国人を経済的痛みから守ることにつながっ た。しかし、これらの政策の費用は支払われなければならない。大統領 選挙が近づき銀行業界のロビー活動が完全に復活する中、米国は財政赤 字の抑制や引き続き脆弱(ぜいじゃく)な金融システムの改革で、前進 できそうにない。昨年の財政協議では10年間で2兆ドル以上を削減する ことになったが、必要な削減額のほんの一部でしかない。

一方、欧州では、最も影響力を持つメルケル独首相は長期的な利益 に重点を置き、それが短期的な不利益につながっている。同首相とイデ オロギーを同じくする欧州中央銀行(ECB)の当局者はユーロ圏17 カ国の財政赤字抑制に向けた財政協定を推し進めている。これは立派な 目標だ。しかしその前に、経済的に困難な状況に陥っている国々が実際 にどの程度支払い能力があるかという試算や、欧州の銀行の資本増強、 支払い能力のある政府への悪影響を阻止する信頼性の高い金融ファイア ウオール(防火壁)の構築など、緊急に取り組むべき課題がある。その ために、不透明感が市場をまひさせ、世界経済を圧迫し、ユーロは崩壊 する恐れがあるとの見方が広がっている。そうなれば、メルケル首相の 長期的計画は見当違いということになるだろう。

政府への依存

米国と欧州が直面している問題は、同じ現象に起因している。金融 業界のエリートや投資家、国民は、政府に依存し過ぎているため自身の 行動の結果起こる事態から自分たちを守ることができなくなっている。 また、政府が提供するサービスの全てのコストを負担しようとしてこな かった。最も顕著な兆候は、先進国のソブリン債が第2次世界大戦後以 降では例がなかったほどに積み上がっていることだ。国際通貨基金 (IMF)は今週、先進国の債務残高の国内総生産(GDP)に対する 比率の平均が13年までに110%を上回り、将来の経済成長の深刻な足か せになるとの見通しを示した。

この状況を変えるのは極めて困難だろう。社会は誰が財政的負担を 背負うのかを決定しなければならない。社会的不均衡が拡大し、米国で は民主党と共和党、欧州ではドイツとギリシャの政治的分極化が目立つ 中で、この取り組みは複雑なものになりそうだ。

どの社会的集団もこの問題を単独で解決することはできない。将来 の退職者たちはかつて約束された額より年金が少なくなることを受け入 れなければならないだろう。バンカーたちは利益や報酬を押し上げてい た政府支援をあきらめる必要がある。増税もしくは小さな政府、あるい はその両方を受け入れなければならない。プランは既に俎上(そじょ う)に載せられている。米国では4兆ドルに上るシンプソン・ボールズ 委員会の財政赤字削減案、欧州ではユーロ圏共同債の創設などだ。 これは正しい方向への具体策となろう。

ダボスに集まった政財界のエリートには、私利私欲を退け、経済的 繁栄を維持するために不可欠な問題の解決に自身の立場に応じて取り組 む多くの理由がある。話し合いしかしない選択をすれば、失望は深く激 しく広がることだろう。

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