【コラム】「日本が模範だなんて」クルーグマン教授大反論-ペセック

多くの人がとっくの昔に決着した と考えていた問題をめぐって、熱い論争が突如巻き起こった。日本経 済が世界にとって取るに足らない存在になるかどうかという問題だ。

発表されたばかりの統計では、昨年の日本の貿易収支が31年ぶり の赤字に転落した。少なくともこの事例が意味することは、膨れ上が る債務の穴埋めに利用してきた巨額の家計貯蓄を今度は貿易赤字対策 に使わなければならなくなるかもしれないということであり、これは 不吉な兆候だ。

日本が無用の存在になるようことはないと、アイルランドのジャ ーナリスト、エーモン・フィングルトン氏は言う。同氏は最近、米紙 ニューヨーク・タイムズに「The Myth of Japan’s Failure(日本の失 敗という神話)」と題した論説を寄稿した。失敗どころか日本は世界が 模倣すべきモデルだという同氏の説があまりに大きな反響を呼んだた め、ノーベル経済学賞受賞者でNYT紙コラムニストのポール・クル ーグマン教授は反論を展開した。同教授はアジア第2の経済国日本に はほとんど魅力を感じていない。これにフィングルトン氏が再反論し た。

どちらが正しいのか。私はどちらかと言えばクルーグマン教授寄 りだ。あまりに膨大な債務と低過ぎる成長、多過ぎる高齢者、少な過 ぎる新生児という日本が持つ毒物の組み合わせは、日本政府が早急に 手を打たない限り暗い未来をもたらすだろう。

しかしながら、フィングルトン氏が正論を述べている部分を見つ けることは重要だ。日本がある意味で理想的社会である部分だ。

日本化も悪くない

信じられないほど安全で清潔、効率的で確実性が高く、外国人に は驚きの尽きない場所だ。結構平等主義の国であり、生活水準は世界 でも最高水準で、平均寿命は世界最長。どこへ行ってもインフラは整 っている。さらに、日本料理は世界一だ。

米国がある意味で、いつの日か日本になれるものならなりたいと 考えていることも指摘しておく必要がある。「日本化」はあたかも世界 の終わりのように言われている。失われた数十年、経済を衰退させる 膨大な負債水準、永久に続くゼロ金利、金融の混乱、刹那的な諦めの 感情。こられはどれも事実だが、懐疑主義者の予想に反し日本は決し て崩壊しない。

犯罪が急増することもなく、ホームレスが街にあふれることもな い。アラブの春のような社会の不安定化は決して起こらない。勤労者 と企業はただ適応し、貯蓄で食いつなぐ。日本は「どうにかやってい く」という概念に全く新しい意味を与えた。

米国に同じことができるだろうか。私は大いに疑わしいと思う。 20年間の経済停滞を日本が乗り切れる鍵は、約15兆ドルの家計貯蓄 だ。米国民の多くは収入が途切れれば2カ月と生き延びられないが、 日本人は全く違う。

見えない繁栄

しかしフィングルトン氏の正解はここまでだ。同氏は1995年に 「Blindside: Why Japan Is Still on Track to Overtake the U.S.

Bythe Year 2000(邦題:見えない繁栄システム―それでも日本が2000 年までに米国を追い越すのはなぜか)」という本を出している。だが今 日では、日本の将来についての強気派にとっての盲点は、昨日うまく 行ったやり方が明日もうまく行くと彼らが考えていることだ。

1990年ごろの資産バブル破裂以来、政策当局者らは戦後のブーム を生きながらえさせることに必死になってきた。何年もの間、評論家 たちは日本のいわゆる「ゾンビ」企業のことを心配していたが、本当 のゾンビは日本経済の基本戦略だ。

日本の成長を生み出しているのはただ、世界最大の政府の借金と 中央銀行が供給するコストゼロのマネーだ。日本株式会社を生かして いるのはその活力ではなく、経済のステロイドだとクルーグマン教授 は論じる。日本には大規模な規制緩和と女性の労働力の活用、移民の 受け入れなどが必要だが、日本の政治家はそのいずれもしていない。

アキレス腱

変化を嫌う風潮は依然として根強い。これが日本の「アキレス腱」 だ。オリンパスの不祥事は仲間内の関係に守られた縁故主義がいまだ に生き残っていることを示したし、福島第一原発事故での東京電力の 対応は世界経済の常識から外れた日本の危険な上意下達ぶりを露呈し た。日本のジャーナリズムは弱腰で、放射能レベルなど政府や大企業 が好まない質問をする記者は排除されかねないので大方はおとなしく している。

それでも、中国の存在がなければ日本はあと数年、ユニークなま までいられただろう。しかし、豊かになろうとする13億人のエネルギ ーが、それを不可能にする。アジアの新興国がコスト高の日本市場を 侵食する中で、デフレは日本を去らないだろう。

欧州の次にやってくる債務危機を考える時、投資家は米国や中国 に目を向けがちだ。日本国債が売られることを想定した取引はあまり 利益が出ていない。しかし今年、日本は不吉な節目に達した。1月9 日の成人の日、20歳を祝ったのはわずか120万人と、1970年の半分に なった。人口減少は、国内総生産(GDP)の2倍を超える12兆ドル 規模の債務の返済を難しくする。

ノーベル経済学賞をもらっていなくても、国民がいなくなってし まえば、国がデフォルト(債務不履行)することくらいは理解できる。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック 氏はブルームバーグ・ニュースのコム ニス トです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE