【コラム】誕生したての指導者に転換を迫るこれだけの圧力-ペセック

ミャンマーは世界に民主化へ の努力をちらつかせているが、これに関連して興味深い問題提起 の一つは北朝鮮の誕生したての指導者、金正恩氏もミャンマーと 同様の試みを実行してみたくなるのではないかというものだ。

正恩氏はミャンマー情勢をよく吟味し、「金王朝」の存続につ いて考え直しているかもしれない。北朝鮮では正恩氏の父、故金 正日総書記が国を率いた17年間に少なくとも200万人が餓死し、 経済は破綻している。

アジアで北朝鮮に次いで最悪の体制と言えるミャンマーのテ イン・セイン大統領はわずか数カ月の間に、大国との関係修復、 クリントン米国務長官の訪問、制裁解除に向けた協議、米ゼネラ ル・エレクトリック(GE)などの企業からの投資打診と次々に 成果を挙げた。同大統領は政治犯の釈放と、国が新たな道を進む と公約することでこれを成し遂げた。6200万人の国民の平均日収 は2.20ドル(約170円)でしかない。

ミャンマーの突然の政策転換は北朝鮮の変革のモデルとなる ばかりか、北朝鮮に変革を促す可能性もある。

ただその前に、幾つかの試金石が待ち構えている。テイン・ セイン大統領がミャンマーのゴルバチョフ(旧ソ連共産党書記長) となる期待はあるものの、レーガン元米大統領が旧ソ連との核軍 縮交渉で用いた「信頼せよ、されど検証せよ」を実行すべき正当 な理由も存在する。民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏が どれだけ早期に再び政府に迎えられるかや、政治犯釈放とメディ ア規制解除の時期がリトマス試験紙となる。

はるか遠方の惑星

北朝鮮の今後はミャンマーよりも予測が難しい。チャーチル 元英首相は旧ソ連を「謎の中の謎に包まれた謎」と表現したが、 北朝鮮はいわば、最も高性能の天体望遠鏡でも捉えられない遠方 の惑星だ。

ミャンマーと北朝鮮の比較には限界がある。ミャンマーは最 も厳しい軍事体制下でも、北朝鮮ほど非常識なことはなかった。 報道によると、先月の金総書記死去に際し、信念を持って喪に服 さなかった市民の一部を強制収容所に送り込んだという。

しかし北朝鮮に加わっている圧力を分析することは意味があ るだろう。

圧力の一つは、まったく予想外な方面から降りかかってきた。 いわゆる「アラブの春」により北朝鮮の財政は考えられている以 上にひっ迫している。カダフィ政権時代のリビアは北朝鮮製ミサ イルを定期的に購入していた。またシリアは、民主化の波が押し 寄せている中東・北アフリカの各国とともに長く北朝鮮の主要輸 出市場だった。そしてこれに、資源に恵まれたミャンマーの自由 化の兆候が加わった。

ミャンマーに手を差し伸べたオバマ米政権は、ミャンマーと 北朝鮮の軍事的な結び付きが早期に終結することを期待している。 そうなれば正恩氏の懐具合はいっそう苦しくなり、豪勢な生活に 慣れた軍のトップを懐柔するための資金が不足するからだ。

中国の後ろ盾

さらに中国の後ろ盾の問題がある。中国は、感謝の念を知ら ず突飛な行動を取る隣国を支えることにますます消極的になって いる。中国は、北朝鮮の手助けよりも景気過熱の回避など国内問 題への対処で手いっぱいの状態だ。

北朝鮮が、米国に擦り寄るミャンマーに中国がいら立ってい ることに注目しているのは確実だ。

こうした全ての要素が北朝鮮にどのように働くかは予測が困 難だ。28歳前後とみられる正恩氏についても1990年代にスイスの ベルンで教育を受け、米プロバスケットボール協会(NBA)と マイケル・ジョーダン選手の熱心なファンだということ以外、ほ とんど情報がない。

残された道

しかし正恩氏は、父の経済運営のやり方は長くは持たないこ とを知るべきだ。挑発を交えて世界を脅し、食料と石油を手に入 れるという戦略は長期的に見れば無力だ。海賊行為や通貨偽造、 武器売却に頼るやり方も同じだ。パキスタン、イラン両国への核 技術の売り渡しについても、国際的な包囲網が狭まっている。

その結果として資金が不足すれば、正恩氏に残された分野は ただ一つ、外交だ。通常の駆け引きの類いではなく、本当に世界 に向け国を開くのだ。北朝鮮の銀行で長年要職を務めた後に脱北 したバンカー、チェ・セウン氏は、正恩氏が海外企業の進出を解 禁するとの見方を示した。

実際、米国はいつから北朝鮮の孤立化を目指すようになった のだろうか。制裁を数十年続けてもキューバのフィデル・カスト ロ前国家評議会議長を指導者の座から下ろすことができなかった のに、同じ戦略が北朝鮮に通用するとどうして考えるのか。融和 政策が答えではないが、他のアプローチの余地はある。その一つ は、北朝鮮に対して軍事力で脅すのではなく、資本主義の浸透を 通じて攻撃することだ。

正恩氏はミャンマー情勢を見て、急進的な考えを抱いている かもしれない。もしそうなら、世界と北朝鮮はもっと住みやすい 場所になる。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏はブルームバーグ・ニュースのコラ ム ニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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