ヘッジファンドの覇者ハワード氏-用心深さと電光石火の退却術が強み

1980年代の終わりごろ、名門 証券会社ソロモン・ブラザーズ(当時)の若き債券トレーダーだっ たアラン・ハワード氏がインドに出張したとき、同僚は現地の水を 飲まないようにアドバイスした。出張から戻ってみると、トレーデ ィングデスクは同氏がフランス産ミネラルウォーターをケース単位 で買って積み上げた経費の話で持ちきりだった。当時の同僚が明ら かにした。

ロンドン生まれのハワード氏(48)は、このミネラルウォータ ーを飲み水としてばかりでなく入浴、ひげ剃り、洗髪にも使ったの だと笑った。

326億ドル(約2兆5100億円)規模の巨大ヘッジファンド会 社、ブレバン・ハワード・アセット・マネジメントの共同創業者と なった今も、ハワード氏はこの用心深さを失っていない。元同僚ら によれば、ジュネーブの同社のトレーディングデスクでハワード氏 は毎日、テールリスクやブラックスワンなど、わずかな可能性のリ スクの心配に余念がない。

2011年には同氏のこのリスク回避が奏功した。264億ドル規 模のブレバン・ハワード・マスター・ファンドの10月31日まで 10カ月の成績は堂々のプラス10.8%となり、ブルームバーグ・マ ーケッツ誌の成績上位100ヘッジファンドの20位に入った。

計4ファンドがランクイン

ほかにも同社から3ファンドが、大型ファンドの上位100にラ ンクインした。17億ドル規模のブレバン・ハワード・アジア・マス ター・ファンドはリターン7.2%で31位、ブレバン・ハワード・ マルチストラテジー・マスター・ファンド(13億ドル)が5.5%で 同率43位、クレジット・カタリスツ・マスター・ファンド(20億 ドル)は3.2%で同率74位だった。

マスター・ファンドは10カ月の収益力でも5位。ブルームバ ーグがまとめたデータによれば、同ファンドはブレバン・ハワード に概算で6億3780万ドルをもたらした。

25年のキャリアの中で、ハワード氏はその用心深さによって数 多くの危機を乗り越えてきた。1994年の債券市場の波乱から1998 年のロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の事実 上の破綻、そして2008年の金融危機などがそうだ。

マスター・ファンドは03年4月の運用開始以来、暦年で成績 マイナスの年はない。設立以来のシャープレシオ(リスクに対する リターン)1.96は、リスク調整後ベースでS&P500種株価指数 の4倍を超えるリターンを上げたことを意味する。

「驚くべき退却の素早さ」

ソロモンでハワード氏と働いたゾーブ・サチー氏は、ハワード 氏は「危険を察知した時、自身の見解を押し通すことを恐れない。 退却の素早さは驚くべきものがあった」と話す。

ユーロ圏の一部で国債利回りが急上昇し、株価が急落した2011 年、ヘッジファンド業界の成績は低迷した。ブルームバーグのデー タによれば、1-10月の成績は平均でマイナス2.8%。マスター・ ファンドのように景気見通しに基づき通貨や国債、デリバティブ (金融派生商品)に投資するマクロ戦略のファンドはマイナス

3.3%だった。

ソロモンでの元同僚の1人によれば、ハワード氏は「他の運用 者らが苦戦する年に最も好成績を上げる」。「並外れて競争心が強 い」のだという。

ブレバン・ハワードの11年の成功は主に、マクロ経済に関す る悲観的な見通しによるものだと、ロンドンに上場するクローズド エンド型ファンド、BHマクロのイアン・プレンダーリース会長は 言う。同ファ ンドはマスター・ファンドにのみ投資している。他の 投資家が回復加速を予想している中で、ハワード氏は急減速、ある いはリセッション(景気後退)の二番底すら想定していた。

先進国の利下げを予想

新たな景気の下降局面に対応して先進諸国の主な中央銀行が金 利を引き下げるだろうとの結論に達したハワード氏は、マスター・ ファンドで米国債と英国債、ドイツ国債を積み上げた。

プレンダーリース氏によれば、同ファンドは「利回り低下で利 益がでるようなポジションを組んだ」。

ブルームバーグのデータによれば、10年物米国債の利回りは 11年10月31日に2.11%と、年初の3.33%から低下していた。 8月だけを見ても、マスター・ファンドは6.2%の収益を上げた。

ブレバン・ハワードの元トレーダーの1人は「ハワード氏は逆 張りが得意だ」と語る。「大勢の意見に影響されるときは、その逆 を行くという形でだ」という。

逆張りとは限らず

ブレバン・ハワードは常に流れに逆らっているわけでもない。 ハワード氏は10年6月に、他のヘッジファンド運用者に追随する かのようにロンドンからスイスへと拠点を移した。英政府が高所得 者への増税の計画を発表したからだ。今のブレバンのオフィスはジ ュネーブの高級ショッピング街からすぐの場所にある。ハワード氏 の妻はフランス人で、一家はしばしばジュネーブの近くで休暇を過 ごしている。

ハワード氏はこの記事のためのインタビューの依頼を断った。 同氏は1986年にインペリアル・カレッジ・ロンドンで化学工学の 修士号を取得し、同年にソロモンに加わった。東海銀行(現在は三 菱UFJフィナンシャル・グループの一部)で短期間勤務した後、 結局クレディ・スイス・ファースト・ボストン(当時)に移り、同 社でロンドンの自己勘定債券トレーディング責任者になった。03年 に退社しブレバン・ハワードを設立。

ブレバン・ハワードは昨年10月、マスター・ファンドの運用 資産を250億ドル前後に保つため、約20億ドルを返還すると投資 家に伝えた。クローズドエンドのBHマクロおよびブレバン・ハワ ードの6ファンドに投資していたBHグローバルは対象外。

戦術的な投資

ブレバン・ハワードの強みは景気予測に基づく投資ばかりでは ない。60人余りのトレーダーを中心にロンドンからニューヨーク、 ワ シントン、サンパウロ、テルアビブ、香港に拠点を置く同社は素 早い動きで市場の一時的な非効率性から利益を上げることも得意と する。

米国と韓国の株価ボラティリティに目を付け、バリアンススワ ップと呼ばれる商品に投資したのはその一例だ。投資会社サリエン ト・パートナーズの投資責任者、リー・パートリッジ氏はブレバ ン・ハワ ードについて、「大きなテーマでのドラマが終わってしま うと、今度はより戦術的な機会へと乗り換える能力がある」と評価 した。

BHマクロの2010年の報告によれば、同年のハワード氏のマ クロ投資には3つの主要テーマがあった。マクロ・ファンドは1- 3月に短期の欧州債の下落に賭け、7-9月はユーロを空売り、10 -12月は年限5年以下の米国債に強気の取引をした。

電光石火のスピード

これらは3つとも利益が出なかったが、ハワード氏が外国為替 を中心に戦術的手腕を発揮したことにより通年で約1%の利益を確 保することができたと報告は指摘している。

特定の取引に加えて、ブレバン・ハワードはリスク管理にも強 みがある。ハワード氏は自ら市場の危険な展開を嗅ぎ付け、電光石 火の スピードで損切りに動く。

ソロモンでの同僚で、現在はルシダス・キャピタル・パートナ ーズで事業開発責任者を務めるサイモン・メドウズ氏は、「ハワー ド氏は最終損益に徹底的にこだわる」として、「あるポジションに しがみ つくことはしない。すぐに気が変わると言えるが、新しい別 のものにすぐに目を向けることができるという意味でこれは強みだ」 と話した。

ハワード氏はトレーダーらに対し高い実績を求める。トレーダ ーらは、どの市場でどんな商品を取引し、どれだけの資金をリスク にさらすことが許されるかについて、書面で指令を受ける。利益を 上げたトレーダーはその利益の一部を報酬として受け取れるほか、 場合によっては取引できる金額も増える。資産が目減りしたトレー ダーは運用額を減らされたり、戦術変更やリスク低減化を命じられ ることもある。

ヘッジファンド業界で生き抜くコツ

損失が巨額、あるいは長期にわたる場合は「休止」を命じられ、 辞任や解雇につながる場合もある。

ブレバン・ハワードの広報担当者によれば、従業員の出入りは 同業他社に比べれば少ない。いずれにせよ、パートリッジ氏ら投資 家にとって従業員の入れ替わりはむしろプラスだ。ブレバン・ハワ ードは「うまく行っていないことがあれば素早く行動する。これは ヘッジファンド業界で生き抜くコツのようなものだ」と同氏は話し た。

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