ポールソン氏とヘッジファンドの蜜月の内幕-住宅金融救済を事前伝達

2008年7月21日のことだった。 ヘンリー・ポールソン米財務長官(当時)はニューヨーク市マンハッ タンの3番街にあるヘッジファンド、イートン・パーク・キャピタル・ マネジメントのオフィスでエレベーターを降りた。当時、市場の恐怖 感は高まりつつあった。4カ月前に米証券会社ベアー・スターンズは 1株当たりわずか10ドルで米銀JPモルガン・チェースに身売りした ばかりだった。

住宅価格急落と記録的な差し押さえの中で、注目は新たな震源に 集まっていた。ファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)とフレディマック (米連邦住宅貸付抵当公社)だ。両社を合わせた住宅ローン担保証券 などの債券発行残高は5兆ドル(約390兆円)だった。ブルームバー グ・マーケッツ誌1月号が伝えた。

ポールソン長官は両社への与信枠を設定し、財務省に両社の株式 を購入する権限を付与する計画を議会で通そうとしていた。一方で、 同氏は数日前の上院公聴会で、政府に新たな権限を付与することで実 際にその権限を使った介入の可能性は逆に低下するだろうと述べてい た。

「バズーカ砲があり、それがあることを人々が知っていれば、そ れを取り出すような状況に陥る公算は小さい」というのが同氏の説明 だった。

信頼のシグナル

米財務省の記録によると、7月21日の朝、イートン・パークとの 会合前にポールソン氏は米紙ニューヨーク・タイムズの記者とエディ ターらに会っている。翌日の同紙の記事は、連邦準備制度理事会(F RB)と米通貨監督庁(OCC)がファニーメイとフレディマックの 帳簿を精査していると報じ、その結果は市場に対し信頼のシグナルを 送るだろうとのポールソン氏の発言を伝えた。

しかし、イートン・パークでの会合では、ポールソン氏のメッセ ージは全く違っていたと、会合に参加したファンド運用者が明らかに した。サンドイッチとパスタサラダを食べながら、ポールソン氏はあ る情報を、それによって利益を上げられる人々に開示した。

会議室のテーブルを囲んだのはヘッジファンド運用者とその他の ウォール街の幹部ら十数人だった。少なくとも5人は、ポールソン氏 が1999-2006年に最高経営責任者(CEO)と会長を務めたゴールド マン・サックス・グループの出身者だった。イートン・パークの創業 者、エリック・ミンディッチ氏のほか、ローン・パイン・キャピタル の創業者、ステファン・マンデル氏、TPGアクソン・キャピタル・ マネジメントのディナカー・シン氏、オクジフ・キャピタル・マネジ メント・グループのダニエル・オク氏ら、そうそうたるメンバーが顔 をそろえていた。

シナリオ

会合に参加したこの運用者によると、市場の混乱に関する形ばか りの議論の後、話題はファニーメイとフレディマックに移った。ポー ルソン氏(当時62)は両社を「公的管理」下に置くシナリオについて 説明した。住宅市場での巨額損失にもかかわらず、両社が事業を継続 できるように政府が両社を接収する案だった。

ポールソン氏は、そのシナリオの下では政府支援機関(GSE) である両社の株式とさまざまな優先株は事実上無価値になると説明し た。

運用者は、ポールソン氏がそのような具体的な情報を明らかにし たことに驚愕(きょうがく)したが、米財務省がこの計画を実行するこ とについてほとんど疑問の余地はなかったと振り返った。こうしてこ の会合に参加していた運用者らはその情報に基づいて取引する絶好の 機会を得たのだった。

証拠

運用者が会合後にそのような取引を実行に移した証拠は何もない。 会社別の空売りのデータは公開されている資料からは得られない。

また、法律学者らによれば、ポールソン氏も内部情報に当たるも のを開示したことでいかなる法にも違反していない。

当時、ファニーメイとフレディマックに関するうわさが市場を駆 けめぐっていた。政府支援機関の使命は住宅ローン債権を銀行から買 い取り証券化して保有するか販売することだ。銀行はこれによって得 た資金で新たな住宅ローンの融資を実行できる。

08年半ばにはもう、返済遅延と差し押さえが急増していた。同年 1-6月でGSE2社は合わせて54億6000万ドルの純損失を積み上 げていた。両社は配当を減らし、保有する住宅ローン担保証券で巨額 の評価損を計上した。

ウォール街

ウォール街は戸惑っていた。UBSのアナリスト、エリック・ワ ッサーストロム氏が7月10日にフレディマックの株価目標を28ドル から10ドルに引き下げると、翌日にはシティグループのアナリスト、 ブラッドリー・ボール氏がGSE2社株の「買い」の投資判断を確認 するという具合だった。ポールソン氏がファンド運用者らに語った時 点で、GSE株は上昇の最中だった。ファニーメイ株は4日で約2倍 になっていた。

ミズーリ大学カンザスシティー校のウィリアム・ブラック准教授 (経済学・法学)は、なぜポールソン氏が米財務省の計画をファンド 運用者らに伝える必要を感じたのかが理解できないと述べた。

サンフランシスコ連邦住宅貸付銀行(FHLB)の法務顧問だっ た同准教授は「政府の規制当局者として、公になっていない市場情報 を市場参加者に伝えるということは絶対にしない」として、「この情報 開示には何の法的根拠もなかった」と語った。

パターン

一方、シカゴに拠点を置く金融コンサルティング会社、タバコリ・ ストラクチャード・ファイナンスの創業者、ジャネット・タバコリ氏 は、この会合はまさにいつも通りのパターンだと言う。

「これは縁故資本主義以外の何物でもない。たいていの人はこう いうものをよく目にしている」と同氏は述べた。

会合の内幕について語った運用者は、コーヒーを飲んだ後に退出 し、自分の弁護士に電話をかけたという。弁護士がすぐに出した結論 は、ポールソン氏の会話は米証券取引委員会(SEC)が「公になっ ていない重要な情報」と分類されるものだということだった。弁護士 はファニーメイとフレディマック株の取引を直ちにやめるようアドバ イスした。

その7週間後、両社の取締役会は新たに設立された米連邦住宅金 融局(FHFA)の「公的管理」下に入ることを決めた。接収は土曜 だった9月6日付で実施され、翌週の月曜に市場が開くと両社株は1 ドル未満に下落した。問題の会合の日の株価はファニーメイが14.13 ドル、フレディマックが8.75ドルだった。さまざまな優先株は最大で 85%の価値を失った。

重大な問題

現在シカゴ大学の上級研究員であるポールソン氏は、スポークス マンを通じてコメントを拒否した。会合に参加したことが分かってい る金融機関の幹部らもコメントを控えた。GSOキャピタル・パート ナーズの共同創業者、ベネット・グッドマン氏のスポークスマンは、 同社を保有するブラックストーン・グループは市場に対して微妙な情 報が議論されたとは考えていないと述べた。

ミネソタ大学の法学教授、リチャード・ペインター氏は、ポール ソン氏はヘッジファンド運用者に、彼らが毎日探し求めている情報を 与えたと指摘。「政府にはいろいろな情報があり、ヘッジファンドはそ れを手に入れようとしている。対処が必要な重大な問題だ」と語った。

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE