福島原発の吉田所長:病気を押して陣頭指揮か-心労で悪化の見方

東京電力福島第一原子力発電所の 吉田昌郎所長(56)は3月11日の東日本大震災以降、8カ月間、ずっと 病気を抱えたまま事故収束に向けて陣頭指揮を執り続けていた可能性が あることが30日までに分かった。

4月に福島第一原発内で吉田氏にインタビューし、その後も電話な どで連絡を取っていた民間シンクタンク独立総合研究所の青山繁晴社長 がブルームバーグ・ニュースに明らかにした。同氏は内閣府の原子力委 員会原子力防護専門部会の委員も務めている。

青山氏は4月22日、吉田氏と面会した際、事故対応についての実務 的な内容のほか、体調などについても質問した。「吉田さんは4月の段 階で体調が悪いと言っていた。主として疲労だが、ちょっと病気もある と話していた」という。休日に帰京する際には通院していることも青山 氏に明かした。青山氏は「さすがに病名までは聞かなかったが、病気が 事故後の放射線被ばくと関係がないというのは本当だと思う」と話し た。

青山氏は、吉田氏が冷温停止の達成時期などを含んだ工程表を一方 的に政府に押し付けられたことに納得ができず悩みを抱えていたとみて いる。作業工程は現場の作業員の意見をボトムアップ的に集約して作成 し、それに対してトップである発電所長が責任を持つべきというのが吉 田氏の考え方だという。「そういう考え方を貫いている人だから、勝手 に上から下ろして、しかも責任も取らないということに対して非常に不 満が強かった」と語った。現場の作業員の考えが無視されているという 意識が、吉田氏の疲労を増幅させていたという。

東電は、吉田氏の入院先、病状などについて個人情報なので一切明 らかにできないとの立場を取っている。

心労で病気が悪化か

近畿大学の伊藤哲夫教授(放射線生物学)は、被ばくの身体への影 響は急性のものと遅発性のものの2種類に分けられると指摘。急性のも のは「被ばく後すぐに影響が出るので、今回はこの可能性を否定で きる」と話す。一方で、遅発性のものでは白血病、がん、白内障などの 発病につながる可能性が懸念されるが、「どれも数年から10年、あるい は20年経ってから出てくるもの。5年程度経っていれば話は別だが、 いまの時点では、絶対に被ばくと因果関係のあるものではないと言え る」と述べた。

伊藤氏も、病気の原因は心労からくるものではないかとの考えに同 調する。「事故以来ずっと陣頭指揮をとったことによる心労。元々あっ たものを持っていて、それが心労で急激に加速したというような理由が 考えられる」との見解を示した。

3月12日に始まった1号機への海水注入の判断をめぐっては、東電 本社は「首相の了解が得られていない」として、いったんは中止を決断 した。そういった本社の判断に対し、吉田氏は独断で注入を継続し原子 炉の冷却を進めた。中止の決定に従わなかったことから、東電は吉田所 長に対し口頭で注意した。

憧れの目

注入を止めていた場合には発電所で死者が出るような事態になった 可能性もあった。青山氏によると、作業員の間には吉田氏に対して「自 分達の命を救ってくれた人」、「下の意見をよく聞き、上に対してはお かしいところはおかしいとはっきり言う人」という印象が生まれていた という。4月に発電所訪問時、作業員が吉田氏を見る目は老若を問わず 「本当の憧れの目だった」と振り返った。

吉田氏が28日の退任発表に合わせて出した文書では「震災以来一緒 に仕事をしてきた皆さんとこのような形で別れることは断腸の思いです し、ご迷惑をおかけすることになり心よりおわびいたします」と謝罪。 さらに「私も治療に専念し一日も早くまた皆さんと一緒に働けるようが んばります」との決意を示していた。

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