【コラム】ユーロの終わりがやってくる-Pブーン、Sジョンソン

投資家は先週、欧州の政治家 に厳しいメッセージを突きつけた。ドイツの10年債入札で3分の1 以上が売れ残ったのだ。メッセージは明らかだ。ドイツに逃げ込むの はもはや安全ではない。

2008年に世界を飲み込んだ金融危機以来、投資家は信用リスク に注目しドイツ債を購入。ドイツ財政は健全との評価から、同国は低 金利を謳歌してきた。しかし市場の焦点は通貨リスクに移った。イン フレ率は上昇、ユーロは崩壊しユーロ建てのあらゆる債務を投資家が 疑問視するに至るかもしれない。

なぜならば、2008年まで投資家はユーロ圏のソブリン債と銀行 債のリスクがゼロで、決してデフォルト(債務不履行)しないと考え ていた。このため、欧州の銀行は欧州中央銀行(ECB)からの低コ ストの資金を調達し、国債を購入すれば確実に利ざやを稼げた。

しかし世界中で与信環境が引き締まり、問題が顕在化した。ギリ シャは過剰債務を抱え、アイルランドでは借り入れにあおられた住宅 バブルが崩壊。ドイツの銀行ですらレバレッジを高めていることが分 かった。投資家は当然、信用リスクに見合う上乗せ利回り(プレミア ム)が必要だと考え、利回りが上昇した。

ギリシャとアイルランド、ポルトガル、スペイン、そしてイタリ アは巨額の短期債務を低金利で借り換えられない事態に直面した。欧 州の大手銀も状況は同じだ。これらの国も銀行も、合理的なリスクプ レミアムを払えば現在の規模の債務負担に長くは耐えられない。

思い込み

欧州の政治家の多くや国際通貨基金(IMF)当局者、そして頼 みの綱のテクノクラート政権を率いるイタリアのモンティ首相はギリ シャのパパデモス首相は、このリスクプレミアムを素早く低下させる ことが可能だと信じ込んでいる。財政赤字を削減し構造改革を進め、 銀行にそこそこの資本を注入すれば、再び市場での調達が可能になる と思っている。しかし実は、これらの国が近いうちに資本市場で資金 調達できると考えるのは現実的でない。

例えば、アイルランドは国民総生産(GNP)の133%の債務 と、銀行システムに絡むさらに約100%の偶発的ライアビリティを 抱える。これほどの債務負担を抱える国は、仮に年間デフォルト(債 務不履行)リスクが5-10%だと市場に納得させたとしても、実質 金利が高止まりし、投資不足と銀行の脆弱性が何十年も続くことにな るだろう。

そこでフランスは米国や英国とともに、ECBの支援に期待する。 ECBがすべてのソブリン債と銀行債を支えると約束することを政治 家たちは「バズーカ」を持ち出すと呼び、待ち望んでいる。

ドイツが最も恐れるシナリオ

いかなる通貨でも、構造問題を覆い隠すために大量に増刷されれ ば、その通貨への信頼は失われる。ECBによる大量の国債購入は信 用リスクを低減するが、ユーロの為替相場下落のリスクを高める。さ らにいったんECBが国債購入に乗り出せば、高債務国は財政調整の 努力を放棄するため、ECBは赤字を埋めデフォルト(債務不履行) を防ぐために国債を買い続けることになりかねない。そうなれば賃金 と物価は1970年代の米国でのように上昇するだろう。これはドイツ が最も恐れるシナリオだ。

投資家は長期的なインフレに備えて、ドイツ債を売り始めるだろ う。イタリアやスペインのように信用リスクの高い国の債券の投資家 は、ECBがいつか国債購入をやめる日に備え、保有国債をECBに 売るか、満期時に換金するだろう。ECBの「バズーカ」が高債務国 の競争力を回復させるわけではないので、厳しい緊縮策と抜本的な財 政改革の必要性はなくならない。

ドイツの利回りは上昇し、大半の銀行と周辺国はECBの資金に 依存し、信用・為替の両リスクプレミアムはなくならない。市場は最 終的に、きっぱりと欧州に背を向け、実現可能な解決策もない中でシ ステム全体が崩壊、インフレと債務再編の嵐が吹き荒れるだろう。

「バズーカ」を拒否すれば

ドイツの信用力に問題はないが、問題を抱え近いうちに価値が大 幅下落する公算の大きい通貨でその債券は発行されている。一方、ド イツが「バズーカ」を拒否して欧州の財政負担を、例えばユーロ共同 債のような形で負担した場合は、為替リスクは低下するがドイツの信 用格付けはリスクにさらされる。

通貨切り下げは成長に寄与するが、これに伴うインフレは多くの 国民を苦しめ、債務再編は扱いを間違えば大混乱を引き起こし得る。 幾つかの国はユーロ圏を離脱せざるを得ないだろう。痛みのない解決 策はない。

最終的に欧州に共通通貨圏は残るかもしれないが、より数少ない メンバー国で構成され、財政統合のより進んだものになるだろう。ド イツが弱いメンバーをユーロ圏から追い出すか、あるいはドイツを中 心に何カ国かがユーロを離れて自分たちの通貨を作るかもしれない。 ユーロ圏は将来再び拡大できるかもしれないが、それは政治・経済・ 財政の統合がもっと進んでからだ。

悲劇が待ち構えている。欧州の政治家は恐らく、市場が大混乱を もたらし行動を迫るまで微動だにしないだろう。無秩序が混沌へとエ スカレートしないよう、政治家が密かに準備していることを祈ろう。 (ピーター・ブーン、サイモン・ジョンソン)

(ピーター・ブーン氏はサリュート・キャピタル・マネジメン ト社長でピーターソン国際経済研究所の非常勤上級研究員でロンド ン・スクール・オブ・エコノミクスの上級客員研究員です。サイモ ン・ジョンソン氏はMITスローン・スクール・オブ・マネジメント の教授でピーターソン国際経済研究所の上級研究員、ブルームバー グ・ビューのコラムニストです。このコラムの内容は両氏自身の見解 です)

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