【寄稿】なぜクレディ・スイスとUBSには分割が良策か-クラー

スイスの2大銀行、クレデ ィ・スイス・グループとUBSからは最近、投資家に有難くない ニュースが幾つか出ている。両行とも四半期決算は投資家を失望 させたほか、クレディ・スイスはプライベートバンク顧客をめぐ り米当局との間に問題を抱え、UBSはいわゆるならず者トレー ダーによる損失事件があった。

両行ともほぼ同様の対策を発表した。債券分野でコストと人 員、リスク資産を一段と削減する策だ。両行とも統合的な事業モ デルを堅持し続けると表明している。しかしこれは、信頼を回復 する方法として正しくない。

統合モデル、いわゆるワンストップ銀行のモデルは現代の現 象だ。これは投資銀行と個人向け銀行が1つの屋根の下に並存す るという意味だが、それだけではない。経営陣、システム、資金 調達、顧客サービスがどれも、規制の許す範囲で統合されるとい うことだ。コスト面の効率性を高め資金を有効利用することが目 的とされる。

これにはそれなりの利点がある。リテール(小口金融)事業 は低コストの資金をもたらし、これを投資銀行、特に資本を多く 必要とする債券事業に活用することができる。好採算のウェルス マネジメント事業からの余ったキャッシュフロー(現金収入)は 投資銀行拡大によって増大する資本ニーズを満たすことに使え る。

システムやオペレーションでのコスト効率も高まる。アジア など一部の地域ではリテールと投資銀行サービスをセットで売 り込むことが可能だ。富裕層や一部の機関投資家に対してトレー ディングとコーポレートファイナンス助言を組み合わせて提供 できる。

問題

しかしそこには問題もある。リテール事業からの預金や富裕 層からの預かり資金を、自己勘定取引も含めた投資銀行活動の原 資にする点だ。

これはつまり、不安定性が高く事故の起こりやすい投資銀行 事業から、リテールおよびウェルスマネジメント部門にリスクが 輸入されるということだ。リテールやウェルスマネジメント事業 の顧客は自分たちの金について慎重だ。ところが、部門間の資金 融通やプライベートバンク利益による資本強化は投資銀行のリ スク意欲を、時には愚かしいほどのレベルまで高める。さらに、 経営の複雑さが増し透明性が低下する。これらは、質の悪いガバ ナンス(企業統治)の象徴だ。

世界中で事業が拡大し富が創造されている好況期には統合 型は良いモデルだ。利点と欠点のバランスは利点の方に傾く。し かしシステムが崩壊し投資銀行が集中治療室入りすると、隠れて いたこのモデルの負の部分が表面化する。

不安

顧客、監督当局、国民、リテール部門の従業員は、ホールセ ール(大口)事業からどの程度のリスクが、安定性で勝るリテー ル事業に移転されているのだろうと不安を感じ始めている。この ような状況では、永続的なベースで信頼を回復するには投資銀行 をリテールとプライベートバンク部門から切り離すしかない。

統合モデルは知的な観点からは依然として優位かもしれな い。現在の経営陣がこのモデルに固執するのはこのためだろう。 しかし顧客と国民に受け入れられるためには、このモデルは時代 遅れだ。統合モデルを捨てることは今や、信頼の問題だ。

これは、スイスの2大銀行が投資銀行部門を売却すべきだと いうことではない。世界的なウェルスマネジメント会社は自社の 顧客層にサービスを提供するため自前の投資銀行が必要だ。その ような機能がなければ、プライベートバンクとしての能力もすぐ に低下するだろう。クレディ・スイスとUBSは投資銀行をスピ ンオフ(分離)し、統治と資金、資本面で独立した別部門とすべ きだ。

原点回帰

投資銀行の経営陣と従業員が高いボーナスを得るのは株主 にとっての経済価値を創造した場合に限定すべきだ。こうして、 バランスシートは縮小し、トレーディングポジションは総じて担 保やヘッジによって保証されるようになるだろう。全体として、 投資銀行の業務は顧客への助言と顧客のためのトレーディング、 資本市場での引き受けに限定され、投資銀行というもののあるべ き姿に戻るだろう。

分離が望ましいもう1つの理由は、クレディ・スイスもUB Sも、国内ばかりでなく米国とロンドンで事業を展開しているこ とだ。英銀行独立委員会(ICB)は個人向けと投資銀行の分離 を求めているし、米国ではいわゆるボルカー・ルールが預金金融 機関による自己勘定取引やプライベートエクイティ(未公開株) ファンドおよびヘッジファンド保有を禁じている。

スイス当局は現在のところ分離は求めず、危機の際に「シス テム上重要な」部分を切り離せる計画の策定だけを求めている。 しかしスイスの規制も徐々に強化され、クレディ・スイスとUB Sはある時点で、米、英、スイスの当局の要請の中で分離以外の 道がないとの認識に至るだろう。

好機

それなら、今が好機だ。銀行株は純資産額とほぼ同水準で取 引されている。投資銀行の未来に大きな期待を寄せている人もほ とんどいない。スイスの銀行が統合された投資銀行の経営に優れ ていると考える人もいない。今分離を発表すれば、銀行は市場に よって罰せられるよりも、報いられる公算が大きい。 (ピーター・クラー)

(クラー氏は、元UBS会長で現在は独立戦略アドバイザー です。同氏はUBS株を保有しています。この寄稿は同氏自身の 見解を示したものです)

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