エクレストン王国に陰り、テレビ放映権中心の事業モデルは時代遅れか

自動車レースの最高峰、フォーミ ュラーワン(F1)を30年にわたり牛耳ってきた資産家、バーニー・ エクレストン氏の神髄は総合制御だ。

ロンドンを本拠とするフォーミュラワン・マネジメントの最高経 営責任者(CEO)として同氏は、主に欧州だけで行われていた小規 模なシリーズを、複雑な構造を持つ40億ドル(約3100億円)ビジネ スに育て上げた。レースは今や世界18カ国で行われ、平均的な日曜の レースを約5000万人がテレビ観戦する大イベントだ。事業の年間売上 高は10億ドルに上る。

しかしこのところ、このエクレストン王国は揺らぎ始めている。 81歳の同氏は複数の戦線で防戦を余儀なくされている。ドイツでは6 年前の売却をめぐる贈収賄事件の容疑者とされた。訴追はされておら ず、同氏は容疑を否定している。

フェラーリやマクラーレンなどのチームはエクレストン氏がF1 を時代に合わせて改革することを怠っていると批判し、離脱して別シ リーズを立ち上げることを検討している。これらのチームにF1への 所属を義務付ける契約は2012年を境に失効する。

エクレストン氏の支配に対する最大の脅威は買収かもしれない。 総合メディアグループ、米ニューズ・コープと、アニエリ一族が所有 する投資会社エクソーは、投資会社CVCキャピタル・パートナーズ (ロンドン)が保有するフォーミュラワン株63.4%を、チャンネル諸 島ジャージー島に籍を置くデルタ・トプコ社を通して取得しようとし ている。

買収の意欲高い

ニューズ・コープは傘下の新聞社による電話盗聴事件で英当局か ら追及を受けているが、フォーミュラワン買収を断念するつもりはな いと、事情に詳しい関係者2人が述べた。440億ドル相当を運用する CVCはフォーミュラワンのほか、旅行かばんメーカーのサムソナイ ト・インターナショナルなど53社に投資している。

エクレストン氏によると、CVCが過半数株を保有したことで同 氏は1990年代後半のような商業的利用権への100%コントロールは失 ったが、経営に関しては完全な自治を保持してきた。

とはいえ、同氏の持ち分は今や、元妻のスラビカさんより少ない。 娘のタマラさん(27)とペトラさん(23)の母親のスラビカさんはファ ミリートラストのバンビーノ・ホールディングスを通じて8.5%を保 有している。身長188センチで元夫より背の高いクロアチア人のスラ ビカさんとエクレストン氏は2009年に、24年間の結婚生活に終止符 を打ち英国で協議離婚した。

ドライバーに伯爵や王子の時代

漁師の息子として生まれたバーナード・チャールズ・エクレスト ン氏は28歳の時にF1の世界に入った。当時はレーシングカーにスポ ンサーの名前はなく、ドライバーはスペインの侯爵やタイの王子だっ たりした。

優勝3回のジャック・ブラバム氏のチームを1971年に買収したエ クレストン氏は当時フォーミュラワン・コンストラクターズ・アソシ エーションと呼ばれていたレース用品を管理する組織のトップとなり、 1981年にF1レースのテレビ放映権のコントロールを国際自動車連 盟(FIA)から得た。

フォーミュラワンの将来がテレビ放映権の販売にかかっているこ とを見抜いたのはエクレストン氏の重要な商業的直感だった。このモ デルは後にサッカーで、イングランドのプレミアリーグが手本にした。

エクレストン氏のF1との出会いから半世紀以上たった今、将来 についての疑問の方が過去の栄光よりも大きくなってしまった。イン ターネットを利用してF1に新しいファン層を呼び込むよりも年間5 億ドルほどの収入をもたらすテレビ放映圏に固執する同氏のビジネス モデルは時代遅れだと、チームは不満を募らせる。

チームには収入の半分

テレビ放映権以外のF1の収入源は、主にレース開催地の都市や 国が支払うスポンサー料で、この収入は2010年に5億3500万ドルだ ったと、ロンドンの業界調査会社、フォーミュラ・マネーが概算して いる。

約10億ドルの年間収入のほぼ半分はチームのものになる。チーム はエクレストン氏にごまかされたように感じていると、英クランフィ ールド大学教授(事業戦略専攻)で「Performance at the Limit: Business Lessons From Formula 1 Motor Racing」の著者、マーク・ ジェンキンス氏は話す。

モスリー元FIA会長は、頭の回転の速さがエクレストン氏の支 配を維持してきたと指摘する。エクレストン氏は「後ろから回転ドア に入っても先に出てくる」と元会長は言う。

しかし、エクレストン氏の支配に陰りが見えることは否めない。 かつての盟友モスリー氏は2009年にFIA会長を退き、フェラーリチ ームのトップだったジャン・トッド氏が後任に就いたが、ジェンキン ス氏によればエクレストン氏はトッド氏との関係がそれほど良くない。

エクレストン氏は今でも自分こそがF1を率いる最適任者だと強 調する。人々から受ける信頼は厚いとして、「信頼を育てるには多くが 必要だ」と語った。

同氏を運転席からどかせようという動きがある中で、引退して車 を降りてしまうことも考えないわけではないという。やめることはあ り得るが、フォーミュラワンの新しいオーナーが自身の後継者を探す のは決して手伝わないとエクレストン氏は言う。「それはフランク・シ ナトラが自分の代 わりの歌手を探すようなものだ」と同氏は述べた。 (アレックス・ダフ)

(アレックス・ダフ氏はブルームバーグ・ニュースのマドリード 支局の欧州スポーツ担当記者です)

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