【FRBウオッチ】発進秒読みのQE3ロケット、株高推進は不発か

米連邦準備制度理事会(FRB) は金融政策が限界に近づくなかで、市場とのコミュニケーションを重 要な政策手段とし、中でもバーナンキFRB議長による記者会見を最 重要イベントと位置付けている。

FRBは連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーが経済予測を 策定する年4回の会合の後に議長会見を設定、4月から開始した。今 月2日のFOMC後の記者会見が3回目だった。バーナンキ議長は席 上、約20人の記者から質問を受けたが、その中で住宅ローン担保証 券(MBS)購入に関する質問に対してだけ、「喜んでお答えしたい」 と、喜々として応じた。

MBS購入は市場では量的緩和第3弾(QE3)と呼ばれる。F RBは住宅ローン引き下げと同時に株高とドル安を狙っているが、ド ル安は例外として、この戦略の勝算は大きくない。

バーナンキ議長らFRBの執行部は、QE3への意思を市場に刷 り込むため、まず10月20日にコロンビア大学での講演予定が入っ ていたタルーロFRB理事に先兵役を任せた。同理事は席上、「MB Sの購入は金融政策の選択肢として検討の価値があると考える」と、 大規模資産購入再開への動きを金融当局者として初めて明らかにする。

さらに同理事は「連邦準備制度がMBS購入を再開すれば、投資 家による株式などの他の資産購入を促し、住宅ローン金利に低下圧力 が掛かるだろう」と述べ、住宅金利引き下げに加えて、株高による景 気浮揚を狙っていることを明確にした。

政権と一体化

タルーロ理事の後、11月1、2両日のFOMC会合にかけてイ エレンFRB副議長とFOMCの副議長を務めるダドリー・ニューヨ ーク連銀総裁らがMBS購入を相次いで示唆していた。FOMC終了 後の声明にMBS購入を盛り込めなかったのは、追加緩和に否定的な 3人の地区連銀総裁に配慮したからだろう。

さらに、短い声明文よりも、議長会見で詳しく説明したほうが好 ましいとの判断もあったはずだ。イエレンFRB副議長はかつて、市 場に刷り込ませるためには、FOMC声明よりも議長発言の方が効果 的だと語っていた。

一方、オバマ大統領は10月24日に住宅ローン借り換え促進策 を打ち出しており、政権と中央銀行が一体化している。もっとも同政 権の住宅ローン借り換え促進策は、大統領に就任した直後の2009年 2月から実施されてきたが、ほとんど効果は上がっていない。

今回はこの措置の適用範囲を拡大し、期間を延長するもので、救 済策の基本構造はこれまでと変わらない。住宅市場関係者の多くも、 これまでのオバマ政権や金融当局の政策が失敗に終わってきたため、 ほとんど期待していない。4400億ドル規模の「雇用対策」が共和党 の反対で実現できないことから、政権自ら実行できる「住宅市場対策」 に打って出て、国民にアピールする戦術に過ぎない。

MBS購入計画の真相

金融政策の限界に直面するバーナンキ議長らFOMCの主力メン バーは、米国債購入は政府の財政赤字ファイナンス策とみる共和党議 員の反対が強いため、政権の住宅対策に合わせてMBS購入に動いた ようだ。そして住宅市場の活性化とともに、株価押し上げとドル相場 の押し下げを狙っている。株価について見れば、量的緩和は株価を上 昇軌道に乗せるロケットに例えることができる。そしてQE3は「第 3段ロケット」と言えよう。同議長はニューヨーク株式市場が上昇局 面にあった今年春に、「株高は大規模資産購入の成果の一つだ」と、 誇らしげに語っていたものだ。

しかし仮に今後、株高がある程度進んだとしても、実体経済がつ いてくる可能性は低く、QE2の時と同様、株価は再び下落に転じる ことになりそうだ。

QE株式バブル

ニューヨーク株式市場は2007年10月に史上最高値を示現した 後、大恐慌以来で最悪の景気後退を背景に急落、2009年3月9日に 大底を打つ。そしてこの真っ暗闇の中で、FOMCはその9日後の3 月18日に米国債とMBSの買い切りを柱とするQE1に踏み切る。

このQE1に支えられる格好で、ニューヨーク株は上昇局面に転 じた。これがQE第1段ロケットだ。この株価上昇の波動は13カ月 後の2010年4月23日にS&P500種が1217を付けたところで、 いったん調整局面に入る。そして、この調整局面の完了は、バーナン キ議長のQE2予告とぴたりと一致する。

議長は同年8月27日にカンザスシティー連銀主催の年次シンポ ジウムで、「FOMCは、必要と判断すれば、非伝統的手段を通じて 追加の金融緩和策を講じる用意がある」と表明。同議長の発言を合図 にして、ニューヨーク株は第2段の上昇波動に乗る。そして、議長の 予告通り、その2カ月後にQE2が決定されると、株価は一段と上げ 足を速めた。QE第2段ロケットはさらに高度を上げることができた。

上昇局面はまさにQEバブルの様相を呈していた。そして、今年 6月末でQE2が終了するとともに株価が下げ足を速め、8月上旬に 大きく値を崩す。バーナンキ議長らFRB執行部は対応を迫られるが、 手詰まり状況の中、「異例の低金利を少なくとも2013年半ばまで維 持する可能性が高い」という時間軸の明示にとどめた。

株価は底値圏を離脱

次いで9月21日のFOMCで、オペレーションツイストが決ま る。共和党の有力議員4人がFOMCの前日に連名で、資産購入の拡 大に反対を表明。追い詰められたバーナンキ議長は量を追加すること を避けて、保有米国債の償還期間を延ばすという苦肉の策だったが、 株価押し上げには力不足は否めない。

そこで、バーナンキ議長らFRB執行部はQE3の再開を模索し 始め、政権の住宅市場対策と符節を合わせて、MBS購入再開にたど り着いたわけだ。FRB高官がQE3を示唆し始めた10月下旬には 株価は底値圏から離脱する動きを見せ始めている。

「最後の審判」

ただし、実体経済は雇用市場を中心に構造が劣化しており、マネ ーの注入で、改善できるものではない。QE第3段ロケットも株価を 本格的な上昇軌道に乗せるのは難しいだろう。

もう一つの狙いであるドル安は、ドル増刷と財政赤字の拡大と相 まって実現する可能性が高い。もっともドル安に伴うインフレ圧力と 国家債務膨張は副作用が大きく、実体経済に対する負の効果が正の効 果を上回る時が訪れるだろう。そして、歴史が示す通り、「最後の 審判」は大方の予想よりも早く起こるものだ。

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