時速320キロのスピード狂社長が狙う次の買収先-サンミゲルのアン氏

食品・飲料製造を中心に多角経営 を展開するフィリピン企業、サンミゲルのラモン・アン社長は、マニ ラにある本社8階の会議室で来社した人々とあいさつを交わす。地味 な黒いスーツと白ワイシャツに赤のネクタイ姿。腕には200ドル (約1万6000円)のチタン製セイコー。

アン社長(57)は、創業121年のビールメーカー、サンミゲル の多角化を進め、売上高でフィリピン最大の上場企業に育て上げた。 もっと高価な腕時計を身に付けることもできるはずだが、セイコーを 持つのには訳がある。自分の時計を誰かにプレゼントできるよう、同 じ物を10数個持っているのだ。「自分の時計を外してプレゼントす れば、贈られた人の記憶に強く残る。相手はそれをずっと大切に持っ ていて『この時計は友人のラモンからもらったものだ』と話すだろう」 と説明してくれた。ブルームバーグ・マーケッツ誌12月号が報じた。

アン社長は人に感銘を与え、しかも利益につながる手法を常に模 索してきた。13歳の時に日本製の自動車エンジンを修理し、150% の利ざやを取って販売。1980年代初めにマニラの自動車レースサー クルでサンミゲルのエドゥアルド・コフアンコ会長の子息マーク氏と 知り合い、会長の信頼を得た。

アン社長は現在、100台を超える自動車を保有し、そのコレクシ ョンはアジア最高峰の1つに数えられている。お気に入りは1964年 製のオープンカー「ACコブラ289FIA」。これは、英自動車メー カーのACカーズが製造し、米国のレーシングカー専門家、キャロ ル・シェルビー氏が復元したものだ。「最速のマッスルカー(力の強 い車)だ」と語り、最も気に入っている上位10台を走り書きしなが ら、コブラはかつて高価ではなかったと振り返った。

GDPの5.4%

アキノ大統領が成長に向けてフィリピン国民を鼓舞しているよう に、アン社長もサンミゲルで買収した企業をさらに発展させていくと いうアプローチを推し進めている。マルコス元大統領と対立後、 1983年に暗殺された父の遺志を継ぐアキノ大統領は、最大年8%の 経済成長を目指す。国内総生産(GDP)は2010年に7.6%増加し、 少なくとも1999年以降で最高の成長率を達成した。

サンミゲルの売上高はフィリピンの10年のGDPの5.4%に相 当し、同社はアキノ大統領の目標達成の鍵を握る企業となっている。 07年初め以降、24件の買収で既に総額48億ドル以上を投資。同国 の石油精製最大手ペトロンの経営権を英資産運用会社アシュモア・グ ループから購入したほか、08年には同国の電力小売り最大手マニラ 電力の株式27%を取得した。

昨年にはオーストラリアのインドフィル・リソーシズの株式

10.1%を4000万ドルで取得。インドフィルは世界最大規模の未採掘 の金・銅鉱床の1つとされるタムパカン・プロジェクトの権益

37.5%を保有している。アン社長はこのほか、炭鉱会社3社も買収 した。

修羅場

急速な事業拡張を進める間、アン社長は当局との交渉で修羅場を くぐってきた。フィリピン証券取引所は10年11月、サンミゲルが 株式の10%以上を上場するという基準を満たしていないとして同社 を指数構成銘柄から除外。サンミゲルは増資と転換社債の発行を実施 し、今年9月12日に指数構成銘柄に復帰した。10月10日時点での 比重は4.4%。同社の株価は、アン氏が社長に就任した02年3月以 降、2倍以上に上昇している。11月3日の終値は111.9ペソ。1月 3日にはピークの185ペソに達した。

フィリピン証券取引所はサンミゲルの発表文書の内容についても 疑問を投げ掛けた。当局者は1-9月に同社に対し32回にわたって 書簡を送付し、メディアで発表したM&Aなどの関連事項の情報開示 の明確化を要求した。サンミゲルの競合企業で、時価総額でフィリピ ン2位のフィリピン・ロング・ディスタンス・テレフォン(PLDT) がこの間に受け取った問い合わせは6件。同期間中、フィリピン取引 所はサンミゲルに対し罰則は科していない。同取引所は上場企業に対 し、情報をメディアに発表する前か、あるいは同時に取引所に開示す ることを義務付けている。

ベンツ「300SLR」

アン社長は、サンミゲルはフィリピンの証券取引所と証券取引委 員会の規制を順守していると説明。「常に規則に従っている」と主張 する。

次なる買収の標的を見つけることを除けば、1954年製のメルセ デスベンツ「300SLR」を購入するのが夢と、アン社長は語る。こ の高級車は、9台製造されたが現存するのは8台で、うち2台は国際 的な博物館に所蔵されている。メルセデスベンツを製造するドイツの ダイムラーによると、他6台は全てメルセデスベンツ社が保有してお り、売り物ではないという。

SLRはフランスのルマンで1955年に実施されたレースで、運 転していた同国のピエール・ルヴェー選手と観客82人が死亡すると いう自動車レース史上最悪とされる事故を起こしている。アン社長は 「この自動車は当時としては速過ぎ、進化し過ぎていた」と指摘する。

はやる気持ちを抑えられない時、アン社長はポルシェかフェラー リを時速約320キロで飛ばすことがあるという。アン社長がハンド ルを握り、急速に事業を拡張するサンミゲルがトップでゴールする企 業にふさわしい透明性を示すことを、投資家は期待している。

参考画面: 翻訳記事に関する翻訳者への問い合わせ先: 東京 堀江 広美 Hiromi Horie +81-3-3201-8913 or hhorie@bloomberg.net Editor:Akiko Kobari、Yoshito Okubo 記事に関する記者への問い合わせ先: Yoolim Lee in Singapore at +65 6212-1581 or yoolim@bloomberg.net; Cecilia Yap at +63-2-789-7022 or cyap19@bloomberg.net 記事に関するエディターへの問い合わせ先: Yoolim Lee in Singapore at +65 6212-1581 or yoolim@bloomberg.net; Cecilia Yap at +63-2-789-7022 or cyap19@bloomberg.net

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