【書評】元ゴールドマンのクオンツ物理学者、ウォール街の偽善嘆く

なぜ納税者が金持ちバンカーを救 済しなければいけないのか。ウォール街のクオンツ(数学的モデルを 使って市場分析や投資を行う専門家)がこの質問を受けた時にどんな 感情を抱くだろうか。当惑、幻滅、肩身の狭い思いを感じるとは考え にくい。

しかし、ゴールドマン・サックス・グループでクオンツファイナ ンス責任者を務めた素粒子物理学者、エマニュエル・ダーマン氏は違 う。

同氏は新著「Models.Behaving.Badly(モデルズ・ビへービング・ バッドリー)」で、「システムの偽善に恥ずかしくなる」と書いてい る。なぜ米国の住宅ローン危機中に金融モデルが役に立たなかったの か、なぜクオンツたちがモデルのもっと賢い使い方を学ばなければな らないのかを説明する、学問的ながら楽しく読める一冊だ。

「リスクを取らずに成果が出せると思うな、損失の可能性なしに 利益が得られると考えるなとわれわれはかつて教えられてきた」にも かかわらず、「今は縁故資本主義、利益は個人のもの、損失は社会で共 有という現状、企業助成政策などを甘受している」と著者は嫌悪感を 隠さない。

多くのクオンツたちと異なり、ダーマン氏は2007年に各種モデル が無力だったことは驚きでないと言う。危機の中で破綻したリーマ ン・ブラザーズ・ホールディングスのあるストラテジストの言葉を借 りれば「1万年に一回しか起こらないとされていた出来事が3日連続 で起こった」からだ。

シンデレラの靴

同紙によれば、人間の気まぐれな行動に基づいたモデルを設計し ようとすることは、「シンデレラの継姉の足を無理やりガラスの靴に 押し込もうとするようなもの」で、「不可欠な部分を切り落とさなけ れば入らない」のだという。

だからといって、モデルを設計することが時間の無駄だというこ とではなく、モデルは謙虚さと常識を持って使わなければならないと いうことだと同氏は説明する。

コロンビア大学教授のダーマン氏は、回顧録の「物理学者、ウォ ール街を往く―クオンツへの転進」で知られる。新著では理論物理学 の栄光と経済学の混沌を見比べる知の旅に読者をいざなう。

本著の中心は「卓越したもの」と「不完全なもの」についての2 章だ。この2章で著者は量子電磁力学と市場は効率的だという仮説と を比較する。

悪魔的な手品

著者は「効率的市場モデル」と名付けたものについて、きょう分 かっていることに基づいて明日の市場の動きを予測することはできな いという現実を前にエコノミストらがでっち上げたものだと言う。現 在の価格は既に利用可能な全ての情報を織り込んでいるのだから、市 場より先を行く予測は不可能だという考え方だ。しかし、体系的に株 価を予測する試みの失敗を、そのようにして株価予想が不可能だとい う前提に置き換えることは、悪魔的に賢いエコノミストの手品だと同 氏は指摘している。

一方で、著者は自分と同じ人間という生き物への共感を示し、 「人はそれぞれの行動に責任があると見なされなければならないが、 人がある行動を取るのを避けられないことも認識されなければならな い」と書いている。

ゴールドマンの旧友たちのことを考えながら書いたのかと思いた くなる一節だ。(ジェームズ・プレスリー)

(プレスリー氏はブルームバーグ・ニュースの書評家です。この 書評の内容は同氏自身の見解です)