あるヘッジファンド専門家の乳がんとの闘いの記録-米テレビ番組批評

2008年当時、39歳だったヘッ ジファンドコンサルタントのディー・ディー・リックスさんは、慈善オ ークションで米ロックバンド、エアロスミスのスティーブン・タイラー さんと同じステージに立って歌う権利を40万ドル(現在のレートで約 3000万円)で落札するほど自由に使える収入があった。

米ニューヨーク市マンハッタンのアッパー・イーストサイドにある 1400万ドルのマンションで息子2人と住み、使い道に困るほど所得が あったと振り返る。

心を打つ米ケーブルテレビ局HBOのドキュメンタリー「The Education of Dee Dee Ricks」(仮訳:ディー・ディー・リック スの教育)の冒頭で、リックスさんは「がんに侵されていることが分か った」と語る。このドキュメンタリーは、彼女の進行度ステージ2の乳 がんとの闘いと米国の医療保険制度の不平等に対する憤りの高まりを描 く。

リックスさんは息子たちの思い出になるよう自分の姿をビデオで撮 影することにした。勇敢にも病魔との闘いの細部を徹底的に映し出して いる。両方の乳房切除手術を受ける前、乳房を抱えてカメラに向かい、 悲しげにこう言う。「長い間、これが嫌いで変えたいと思っていたけど ああ、これでもうなくなってしまうのね」。

手術から1カ月後、請求書が届き始める。手術が保険の適用される 制限時間を超えたため、2万6000ドルを自己負担することになった。 支払うことはできるが、支払えない人はどうするのだろうと思った。

リックスさんは保険に未加入の乳がん患者に医療サービスを提供す るハーレムにあるラルフローレンがんセンターを訪ねた。資金繰りに苦 しむ同センターのために250万ドルを集めることを決意した。そこで、 最終ステージに入るまで診断を受けていなかった乳がん患者、シンシ ア・ドブソンさん(43)と出会う。

傷痕と副作用

2人の女性は強い絆で結ばれ、このドキュメンタリーは富裕層と貧 困層に分断された米国の格差社会の実態をあぶり出す力強い事例を提供 している。

監督はネットワーク局で勤務した経験のあるジャーナリストのペリ ー・ぺルツ。2人の女性の治療経過を約1年間にわたって追い、傷痕や 副作用も隠さない。リックスさんがスカーフを脱ぎ、髪の毛のなくなっ た頭部をあらわにした時、下の息子は大げさに笑ってみせた後、「もう 一度かぶって。もう一度」とつぶやく。

リックスさんが医療保険制度の不公平に初めて直面して感じた憤り は少し純朴過ぎるような印象を受けるが、魅力的で楽観的なドブソンさ んが長期にわたって医療制度から放置されていたために犠牲を払う姿を 目にすると、リックスさんの怒りと悲しみを分かち合わないではいられ ない。

「The Education of Dee Dee Ricks」はHBOでニューヨー ク時間27日午後8時半に放映される。

(エバンス氏はブルームバーグ・ニュースの芸術・娯楽部門の批評 家です。この記事の内容は同氏自身の見解です)

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