「悪魔と手を結び」原発を故郷に、木川田東電元社長-LNGも先鞭

福島県伊達市梁川町。宮城県との県 境に近い山舟生小学校では8月末、2学期の始まりを控えて校庭を約

1.5メートル掘り起こす除染作業が急ピッチで進められていた。東京電 力・福島第一原子力発電所から60キロメートル離れたこの場所でも、 毎時0.6マイクロシーベルトの放射線量が計測された。

約100年前にこの山あいの小学校に入学した駆けっこの得意な少年 は、約半世紀後には東京電力の社長に就任し、同社最初の原発を福島県 に建設することを決めた。東電の「中興の祖」として知られる故木川田 一隆氏だ。

木川田氏は、この町で医者を営む家の三男坊として生まれた。その 生家の向かいに今も住む八巻長蔵さん(83)は「みんな非常に優秀な一 家だった」と話した。長男は医者、次男は陸軍少将と秀才兄弟として有 名だったという。

木川田氏が亡くなってから30年後、生家から数百メートル離れた街 道沿いには「東電は放射能汚染物質を持ち帰れ。この地に持ち込ませる な!」と書かれた看板が立っていた。八巻さんは「故郷を良くしようと 信じて、木川田さんは木村守江元知事と一緒に原発を福島に持ってきた のだろう。でも、結局は故郷を駄目にしてしまったのは非常に残念だ」 と話す。

県内には事故が起きた福島第一原発のほか、福島第二原発もあるが 八巻さんは「原発が2つできたといっても、福島県の全体が潤ったわけ じゃない」と嘆く。

潤ったのは浜通りだけ

福島県は、福島市など比較的人口の多い町が並ぶ「中通り」を中心 に、阿武隈山地を隔てた沿岸部の「浜通り」と、奥羽山脈を隔てた「会 津」の3つの地方に分けられる。原発で潤ったのは浜通りだけだと八巻 さんは感じている。中通りに位置する伊達市では、原発建設に携わった 人や原発作業員になった人はあまりいない。「こんなことになるなら、 もう原発はやめてもらいたいよ」と本音を明かした。

1926年に東京帝国大学経済学部を卒業した木川田氏は、第2志望だ った東京電燈に入社。入社後10年間は、国内外の電気事業の調査や電力 料金問題などに取り組んだ。戦争中は発電所と送電設備が日本発送電に 統合され、東京電燈など首都圏の配電事業各社も関東配電会社に統括さ れた。50年11月に連合国最高司令官総司令部(GHQ)の政令によっ て、政府が管理していた電力会社は民営・分割化されることになった。

八巻さんは50年12月に亡くなった木川田氏の母ヌサさんの墓掘り に加わって以来、3年前まで木川田家の墓を守った。しかし、木川田氏 とはヌサさんの葬式を最後に会うことはなかった。

八巻さんは60年代初め、当時PTAの会長をしていた山舟生小学校 への寄付を木川田氏に依頼するため、東京都三鷹市に住んでいた木川田 氏の長兄を訪ねた。「その場で一隆さんに電話をしてくれてね。山舟生 の人間が行くからと伝えてくれたんだけど、1分の暇もないと断られ た」という。最終的にはPTAに3万円が届けられた。

最初は原発に反対

61年2月に東電社長に就任した木川田氏は同8月に、福島県大熊 町と双葉町にまたがる用地を取得する方針を決定した。八巻さんが木川 田氏を訪ねたのは、東電が福島第一原発の建設に向け大きくかじを切っ た時期だった。八巻さんは「木川田さんは最初は原発に反対だったと聞 いている」と話す。

「ドキュメント東京電力」を書いたジャーナリストの田原総一朗氏 も木川田氏が当初は原発反対の立場だったと指摘する一人だ。田原氏は ブルームバーグ・ニュースとのインタビューで、「初めの頃、木川田氏 は原子力を悪魔だと言った。悪魔と手を結ぶんだと言った」と語る。田 原氏はその木川田氏が原発を自分の故郷に持ってきた背景には、何か問 題が起きたときに最終的に民間に付けを回すような官僚や政治家には任 せられないという信念があったとみている。

田原氏は「戦前、戦争中は電力は国有だった。国が仕切っていた。 国対民間の戦いがあった」と指摘。「木川田さんがもし東電で原発を導 入しないとすると、政府が導入していた。そうすればまた国営になる。 どちらが主導権を取るかという戦いだった」との見方を示した。

田原氏は、福島第一原発事故で、今後10-20年の間、原発の新設は 難しくなると予測した。原発立地地域は従来、原発周辺の半径3キロ、 4キロを指していたが、今回の事故で20キロの警戒区域内だけでなくそ れより外の地域でも人が住めなくなる可能性が出ており、原発立地地域 の概念が根本から覆されたためだ。「今後は半径20キロや30キロの地域 の人々からの賛成を取り付けなくてはならなくなってしまった。しか し、それは不可能だ」と話した。

電力会社、プラントメーカー、監督官庁、大学教授、マスコミなど 原発推進者らのコミュニティである「原子力村」について、立教大学の アンドリュー・デウィット教授(政治学・財政学)はインタビューで、 「議論の中心は原発が競争力のある経済に低コストで信頼できるエネル ギーを供給できるというものだった」と指摘した。

デウィット教授は、「福島第一原発事故でコストが膨れ上がったた め、その議論は急速に説得力を失っている。原子力村は解体しつつあ る」と語った。

代替はLNG

田原氏は、当面、原子力の代替となるのは液化天然ガス(LNG) とみている。実際、日本の電力会社はLNGを燃料に利用する火力発電 の依存度を急速に高めている。財務省の統計によると、8月のLNG輸 入量は前年同月比18%増加し、過去最大の755万トンに達した。

電力会社の液化天然ガス利用の先鞭(せんべん)をつけたのも、実 は木川田氏だ。日本に初めてLNGが到着したのは69年。東電が世界 で初めてLNGを火力発電燃料として使った。

日本動力協会の桝本晃章会長(東電元副社長)は「コストが高いと いうことで、LNGの導入には木川田氏以外、取締役会の全員が反対だ った」と明かす。桝本氏は「大気汚染がすでに電力業界の中で問題にな りつつありLNGが1つの解になった。確かにコストは高かったが、木 川田さんの決断が正しかったことは歴史が証明している」と語った。

田原氏は「文明は全て綱渡り。例えば医学が発達し、ウィルスを殺 せるようになると、さらに強いウィルスが出てくる」とし、福島第一原 発事故を新しいエネルギーを見つける「イノベーションの機会とすべき だ」との考えを示した。

--記者:岡田雄至、佐藤茂、渡辺千咲、スチュアート・ビッグス、 ユーリ・ハンバー、ジェイソン・クレンフィールド、宮崎真、稲島 剛史 --Editor:Takeshi Awaji, Eijiro Ueno, Kenzo Taniai

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