【書評】ピークオイル理論を否定-エネルギーの論客ヤーギン氏の新著

エネルギーに関する壮大な著書 「The Quest」(仮訳:探究)の終盤で、ダニエル・ヤーギン氏は19 世紀フランスの無名の人物、サディ・カルノー氏を紹介している。

ナポレオン軍の幹部の息子だったカルノー氏は、英国軍がナポレオ ンに勝利した主因の1つは「エネルギー、特に蒸気エンジンを駆使でき たことだ」と確信した。同氏は1824年、このテーマに関する研究をま とめた「火の動力、およびこの動力を発生させるのに適した機関につい ての考察」を出版。ヤーギン氏はこの研究について「人間のエネルギー 利用法に関する最初の体系的な分析であることはほぼ間違いない」と指 摘している。

ヤーギン氏はカルノー氏の後継者として30年以上にわたって、こ の分かりにくくさまざまな思惑が渦巻くエネルギー問題に関して明快な 分析を発表してきた。中東諸国が石油禁輸措置を取り、米国のエネルギ ー安全保障をめぐって常に不安感がつきまとうようになった1973年に ヤーギン氏は頭角を現した。

業界や複数の政府のコンサルタントを歴任し、現在は米調査機関I HSケンブリッジ・エネルギー研究所(CERA)の会長を務めてい る。また、著作を通じてより広い読者層に自身の見解を表明し続けて いる。

最も有名な著作は、石油業界の歴史を描きピュリツァー賞を受賞し た「石油の世紀-支配者たちの興亡」。「The Quest」はある意味、 その続編だが同じ水準にあるとは言えない。この新著は長過ぎ、脈絡も 説得力を欠いている。

さらに心配なことに、ヤーギン氏は英BPなど石油市場の主要企業 に対して過度に寛容に思える。BPは2010年にメキシコ湾で発生した 原油流出事故の渦中にあった企業だ。08年に過熱した原油市場バブル に関する部分では、相場がさらに高騰すると予想したアナリストらは本 文には登場せず、脚注に付記されている。ヤーギン氏のビジネス上の利 害が著述内容と相いれないのかもしれない。

ピークオイル理論

それでも「The Quest」で展開されるヤーギン氏の博識と洞察は 一読の価値がある。例えば、ガスと原油の生産は近くピークに達し、そ の後、急速に減少すると主張する「ピークオイル理論」は誤りだと指摘 している(この理論は08年の相場高騰の一因となった)。同氏による と、このような懸念は以前にも浮上したことがあったという。「世界で 原油が枯渇するのはこれが初めてではない。5回目だ」。

ヤーギン氏は、業界が需要拡大に対応していくことができると確信 している。IHS・CERAが油田約7万カ所で実施した調査で「世界 の原油が枯渇しつつあるわけではないのは明らかで、全くそういう状態 ではない」ことが分かったとしている。

ヤーギン氏によると、供給は増加しており減少してはいない。これ は新規の油田発見によるものではなく、さらに重要な供給源があるから だ。それは、既存の油田での追加的な発見だ。同氏が示唆する大きな問 題は、原油が埋蔵されているかどうかではなく、政治情勢が巨額投資を 促進できるかどうかだ。今後25年間の需要を満たすには8兆ドル(約 610兆円)の投資が必要との試算もある。

ピークでなく横ばい

ヤーギン氏は、世界の生産は急減するのではなく向こう20年間で 約20%増加する可能性が高く、将来のイメージは「ピークではなく横 ばいの方が適切」と結論付ける。20年後はそう遠くない将来に思える が、同氏はシェールオイルなどの新たなエネルギー源が発見され横ばい 状態がさらに続くと予想している。

この著作を貫くメッセージは心強い。確かに世界はエネルギー需要 を満たし気候変動に対処する方法を見いだすという途方もない挑戦を強 いられている。しかし、人間の知恵が希望をもたらす。

ヤーギン氏は米ミッチェル・エナジーのジョージ・ミッチェル氏に よる粘り強い試行錯誤に関する逸話を取り上げている。同社のこの作業 が、ここ数年間、米国の天然ガス供給を変革したシェールガス革命を巻 き起こした。「永続的な不足が潤沢な供給への道を開いた」とヤーギン 氏は指摘する。

ヤーギン氏は「物事はひどく間違った方向に進むこともある」と警 告する一方で、「イノベーションのグローバリゼーション」が「新たな 解決策を見いだす洞察と知恵を刺激する」と期待する。「石油は人々の 心の中で発見される」という古い言葉がある。ヤーギン氏はエネルギー をめぐる難問の解決策もいずれ人々の心の中で発見されると確信してい る。(スタンリー・リード)

(リード氏はブルームバーグ・ニュースの記者です。共著に「In Too Deep: BP and the Drilling Race that Took It Down.」 があります)

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