メルケル首相が冒す政治生命リスク-不人気なギリシャ政策への対応で

ユーロ圏の救済策拡充に取り組 むドイツのメルケル首相は、2013年の総選挙で敗北し3期目を続投で きないリスクを冒している。

債務危機対応策の拡大を求めるオバマ米大統領をはじめとする世 界各国首脳からの圧力に屈し、メルケル首相は23日の欧州首脳会議 で、与党キリスト教民主同盟(CDU)の支持者に不人気な政策を支 持せざるを得ないとみられる。ギリシャで始まった危機はイタリアや フランスといったユーロ圏の主要国をも揺さぶっている。

調査団体フレンズ・オブ・ヨーロッパ(ブリュッセル)の責任者、 ジャイルス・メリット氏は電話インタビューで、「メルケル首相の次 のステップは有権者を説得することだ」と語る。「ドイツのメディア はギリシャ人の怠惰ぶりについて大衆紙の論調で繰り返し報じており、 それがドイツ人の精神に深く根付いてしまった」とみている。

メルケル首相が有権者への説明を怠れば、政界で自滅したドイツ のシュレーダー前首相の二の舞いを演じそうだ。前首相は減税や社会 保障縮小を盛り込んだ経済政策「アジェンダ2010」を打ち出したが、 社会民主党(SPD)の党員脱退を招いた。この政策はその後、国内 景気を浮揚させたが、前首相は退陣を避けられなかった。次期総選挙 は2013年9月に予定されている。

カーネギー国際平和財団欧州センターのディレクター、ヤン・テ シャウ氏はインタビューで「メルケル首相にとってアジェンダ2010 の時のような状況だが、事態は前首相よりはるかに深刻だ」と語る。 前首相が抱えていた問題は景気低迷で、有権者に比較的説明しやすか ったが、ギリシャや欧州の銀行危機を分かりやすく説明するのは「メ ルケル首相にとっては極めて困難だ」というのだ。

怒りの矛先に

「ギリシャやその救済に関して、野党を含む他の主要政党がメル ケル首相を支持しているにもかかわらず、国民の怒りの矛先はメルケ ル首相に向けられている」とテシャウ氏は分析している。

広報会社ブランズウィック・グループの経営アドバイザー、カー ル・グラーフ・フォン・ホーヘンタール氏はインタビューで、「シュ レーダー前首相は議会で支持基盤を失ったが、メルケル首相は今のと ころなんとか維持している」と指摘。「メルケル首相は時間稼ぎに努 めている」とし、支持基盤を失えば、同首相は「2013年に敗北を喫す る可能性がある」とみる。

シュレーダー前首相は自らの政策が一部SPD党員の反発を招き、 議会の不信任決議につながったと、回顧録で書いている。05年9月の 総選挙で前首相が敗北する前の03年と04年には、同党の党員脱退が 8万人に達していた。

問題は有権者

ただメルケル首相にとって究極的な問題は議会ではなく有権者だ。 有権者は、債務危機対応をめぐってCDUや連立与党の自由民主党 (FDP)に厳しい判断を突き付けている。

テシャウ氏はメルケル首相について、「シュレーダー前首相のよ うな、改革に対する妥協を許さない姿勢」を必死で避けようとしてお り、「慎重で着実なアプローチや、ユーロ債務危機がすぐに解決する ことはないとの指摘」をみると、生き残りを賭け、前首相のようにな らないことを目指しているという。

研究機関アメリカン・アカデミー・イン・ベルリンのゲーリー・ スミス所長は、メルケル首相が控えめなアプローチを取っているのは 「シュレーダー前首相を見てきたからだ」と話している。