【コラム】ウォール街の「1%」にアジアの20億人が怒る:ペセック

不動産は場所が肝心だと言うが、 デモにも同じことが言える。

東京に土曜日に集合して「ウォール街を占拠せよ」デモを行う際、 歓楽街の六本木よりも分かりやすい場所は他にあった。東京証券取引 所がある日本橋や、政治の中心地である永田町、またはホームレスが たむろする上野などで始めてもよかったはずだ。

だが、活動家はそういった場所ではなく、流行に敏感な人や、ス トリッパーややくざ、外国人やバンカーなどが集う快楽主義のるつぼ である六本木を選んだ。それもただのバンカーではなく、おしゃれな 六本木ヒルズで働くゴールドマン・サックスのバンカーだ。何百人も の活動家の間に「拝金主義反対」や「金持ちを剥製にしろ」などの看 板が見えたが、私が一番気に入ったスローガンは20代の女性が掲げ ていた「吸血イカを止めろ」だ。

「吸血イカ」とはゴールドマンのことを指している。同社はロー リング・ストーン誌の2009年の記事で「人類の顔面を覆いつくす巨 大な吸血イカ」と表現されていた。アジア人にとってゴールドマンは、 良くも悪くも投資銀行の代表であると同時に、少数の手に富を集中さ せる原因となった銀行と政府の癒着の代名詞だ。

こういった感情が平等主義の日本にも伝わっているということは、 それが広がりを持っていることがわかる。同じような志を持つデモが オーストラリア、香港、インド、ニュージーランド、フィリピン、韓 国、台湾でも起きている(シンガポールで計画されていたデモは警察 に阻止された)。

ニューヨークから遠く離れた場所で起きているこの怒りの高まり を無視できる人は、自らの責任でそうすればよい。「ウォール街を占 拠せよ」デモの焦点や目指すものを明らかにしようとする人は、アジ アで次のようなことを発見することになる。それは、貧富の差の拡大 は、資本主義や民主主義の原則そのものを脅かしつつあるということ だ。

偏るアジア

アジアの発展は偏る一方だ。経済は年率5-7%で成長している が、富の分配はバランスが取れているように見えない。富裕層と政治 的なコネのある人がますます多くの富を手にする一方で、その他の人 は取り残されたように感じている。世界が再びリセッション(景気後 退)に向かっている中、貧富の差は広がりつつある。

アジアは今世紀半ばには欧州と同じぐらい豊かになるかもしれな い。欧州の生活水準が下がっているわけではなく、アジアが繁栄して いるからだ。アジアが実際にその状態に到達するためには、貧困問題 に取り組み、すべての人に経済的なチャンスを与え、腐敗に立ち向か い、教育や医療を改善し、起業を促進しなければならない

「1%」の人々

言うまでなく、アジアの富裕層は現状維持を好む。アジアの富裕 層のほとんどは株価と不動産価格の上昇で富を築いた。デモ参加者は バンカーの巨額のボーナスに怒りを示しているが、アジアの新富裕層 はボーナスがさらに増えればいいと思っている。このように、デモ参 加者が「1%」と呼ぶ少数の人々が増え続けるボーナスに満足してい れば、何も問題はないはずだった。

だが、景気減速により事態は変わってきた。08年に欧米の過度 のレバレッジや無責任な政策が金融危機を引き起こし、アジアの市場 や生活水準にも悪影響が及んだことについて、まだアジア人の怒りは 収まっていない。

事態がヌリエル・ルービニ氏やナシム・タレブ氏らの悲観主義者 が予想するほど悪くなれば、アジアは食品やエネルギーの価格上昇で 所得が減少、失業は増加し、社会不安に直面するかもしれない。

「99%」の人々

一方、日本のメディアは、今回の土曜日のデモには反原発の要因 があったと説明した。福島第一原子力発電所では放射性物質漏れが続 き、東京電力は相変わらず無力であるため、確かに原発に反対する人 も参加していた。だが、真実はいわゆる「99%」の人々が格差是正を 求めているということにある。

日本はこれまで平等主義のメッカだと自負してきたが、それもデ フレの悪化、公的債務の増加、高齢化、中国の競争力向上などを受け て、急速に変わりつつある。政府は8月の調査で、労働者の4割近く を非正規社員が占めると発表した。彼らは賃金が低く、雇用の安定も 限られる。

中国の環境破壊や列車衝突事故と、日本の原発危機、インドの政 治機能不全、インドネシアの資源枯渇、フィリピンの洪水との共通点 は「腐敗」だ。アジアではどこで公的部門が終わり民間部門が始まる のか区別するのが難しいが、ウォール街と米連邦政府の関係もこれに ますます似てきた。場所が変わっても、根源的な問題は変わらないの だ。

重要なのは、本当の意味での説明責任や透明性のほか、99%の 人々の発言力が増し、それらの人々により多くの富を分配する措置だ。 「ウォール街を占拠せよ」デモを無視しようとする人は、20億人また はそれ以上のアジア人が全く逆の態度であるということを考えてみる べきだ。(ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏はブルームバーグ・ニュースのコラム ニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)