歴史をつくれ、震災宮城は日本の縮図、復興で再生モデルを-村井知事

「優遇策がありますので、 土地がなくならないうちに是非」-。宮城県の村井嘉浩知事はこの夏、 震災からの日本再生をテーマに都内で開かれたシンポジウムで、集ま った企業幹部に県への進出を訴えた。

震災後、避難所で暮らす人がゼロになるまで酒を一滴も飲まな いと決意した村井氏。避難所生活の解消など緊急の対策に取り組む一 方、県のセールスマンとして東京に出張を繰り返している。目指すの は単純な企業誘致ではない。未曽有の打撃を受けた県を、新しい日本 経済のモデルとして再生させることだ。

日本経済はバブル崩壊後、新たな成長の道を見失った。名目国 内総生産(GDP)は20年前の1991年とほぼ同水準で、世界2 位の経済大国の座は中国に譲り渡した。日経平均株価は89年の4分 の1程度に低迷、跳ね上がったドル円相場は、外需頼みの企業を脅か している。経済産業省によると、10年の全国の工場立地件数は786 件で、1967年の調査開始以来過去最低。

閉塞状況の打破の処方せんは、これまで何度も有識者らから提 案されてきた。しかし首相が次々に代わりリーダーシップが安定しな い中、既得権の壁も厚く、実効はほとんど上がっていない。地方分権、 規制緩和、手厚く保護されている農業協同組合や漁業協同組合の既得 権の見直し、法人税減税-。村井氏は、これらを本気で実行に移そう としている。

中でも難題は第一次産業の改革だ。村井氏は震災を機にこれま で壁が厚かった漁業への民間資本参入を促し、新しい産業として発展 させることを考えている。農業も経営の大規模化などを目指す。もの づくりでも、優遇税制などにより自動車やハイテク関連産業の誘致を さらに進め、都市計画法の緩和で工場用地の開発も促進する。復興は、 20年度までの10年間を「復旧期」「再生期」「発展期」の3段階 に分けて進める。

全国に共通

JPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストは、村井氏が 取り組もうとしているのは、「東北地方だけでなく全国に共通する問 題」と指摘する。「計画の基本的な経営哲学は開かれた経済」であり、 「今までの既得権にしがみついていると、誰も勝者は残らず全員が敗 者になってしまう」と語る。

名古屋市立大学経済学部の外谷英樹准教授は、東日本大震災が 起きてしまった以上、今後どうそれをどう復興に結び付けるかが重要 だと言う。厳しい状況の中ではさまざまなニーズがあり、それが起爆 剤となって経済発展につながっていくとみている。

村井氏は大阪府の出身。84年3月に防衛大学校を卒業、陸上 自衛隊幹部候補生学校に入校、東北方面航空隊に入隊しヘリコプター のパイロットになった。転機となったのは92年。政治にいらだちを 感じ、松下政経塾に入塾。95年から宮城県議選に自民党から出馬し 2期務めた後、05年に知事に無所属で当選、09年には7割を超え る得票率で再選された。

衰退を象徴する構造

知事に就任すると直ちに企業誘致に取り組んだ。既存企業の法 人税に上乗せする「みやぎ発展税」を創設し、これを財源に誘致企業 の法人税や固定資産税を減免。この結果、トヨタ自動車系列のセント ラル自動車の工場や、車両用バッテリー生産のパナソニックEVエナ ジーなど自動車関連企業の誘致に成功した。

とはいえ、経済低迷と人口の高齢化という日本の衰退を象徴す る構造を抱えていることに変わりはない。県の資料によると、09年 度の県総生産(速報)は名目で前年度比1.4%減の8兆816億円と 3年連続のマイナス成長。うち農林水産業などの第一次産業は同

4.0%減と2年ぶりのマイナスとなった。

県北端に位置する気仙沼市はかつて、日本一の水揚げ高を誇る カツオ漁や遠洋マグロ漁の基地として栄えた。市のウェブサイトによ ると、99年に290億円あった魚市場の水揚げ高は、マグロ漁獲規 制などで10年には225億円まで落ち込んだ。

高齢化、財政悪化

高齢化も著しい。国勢調査によると、75年に約13人に1人 だった65歳以上の人口が30年後の05年には5人に1人まで増加 した。村井氏が政府の復興構想会議に提出した資料によると、08年 の養殖など海面漁業の就業者は、50歳以上が73%、60歳以上が 47%をそれぞれ占めている。

財政状態も厳しい。税収や地方交付税など歳入が伸びない一方、 高齢化に伴う社会保障関係経費などが増え続けている。県財政課の資 料によると、県債残高は97年度に1兆円の大台を突破、09年度に は約1.5兆円まで膨らんでいる。

1995年の阪神淡路大震災では元の状態に戻すのに10年かけ た結果、神戸港の設備は復活したものの活気は戻らなかったと村井氏 は言う。10年の間に韓国や中国の港の利用が進んだためだ。だから こそ復興には「新しいものをつくり上げるんだという考えで臨んでい る」と強調する。

村井氏は「円高を直すのは難しい。でも労働環境を変えるとか、 税金を下げるとか、政府でできることはいくらでもある」と指摘。復 興計画で特区制度を大いに利用し、宮城県で成功例を一つ生むことで、 「問題点を一つひとつ改善する」糸口をつくりたいと語る。

特区制度

特区制度は、小泉純一郎内閣が03年4月、「構造改革特区」 を採用した。しかし、政策研究大学院大学の福井秀夫教授は、意味の ありそうな社会実験的な案は「所管官庁に弾き飛ばされた」という。 特区は全国に広がったものの、実現したのは「重箱の隅を突くような ものばかりだった」と総括する。

宮城県の特区は成功するのか。地元の反発は強い。漁業特区は、 漁協が優先権を持つ漁業免許を民間企業も公平に取得できるよう特例 を設け、生産・加工・販売まで一貫した競争力を付けようという狙い がある。これに対し、宮城県漁協は6月21日、漁村に不要な混乱を 持ち込むとして、約1万4000人の反対署名を携え撤回を迫った。

反発と期待

気仙沼漁協の高橋亮輔組合長も「うまくいかないと思う」と悲 観的だ。漁業は度重なる漁獲規制などで衰退し、利益が出ない「ひん 死の状態」。利益を追求する企業の進出は期待していないと言う。全 国20万人の漁業従事者が生きていけるように、「穏やかな暮らしが できる程度の漁業」を取り戻したいと話し、「今回は、国にインフラ 含め全てやってくれと言いたい」と述べる。

水産庁は国際的な漁獲枠削減を受け、98年度に続き08年度 にも国内のマグロはえ縄漁船を減船した。水産庁の中井忍かつお・ま ぐろ漁業企画官によると、許可数ベースで08年度に663隻あった 漁船数は、10年度には296隻となった。

気仙沼漁港から400メートルほど離れた小高い丘にぽつりと 一軒、津波を免れた寿司屋がある。小野寺登さん(58)は店を始め て31年。20-30メートル先が全て泥に埋もれた「想像のつかない 闇」の中、震災後43日目に営業を再開した。「自然相手の漁業が、 特区を設けて良くなるかは疑問だ」と言うが、妻の実木枝さんは「企 業が入れば地元の雇用も生まれるし、いろんな選択肢も増えるかもし れない」と期待を寄せる。

若い人

全長80メートルの大型漁船が自宅の目の前に漂着した文房具 店経営の村上信子さん(62)は復興案に賛成だ。夫婦で避難所暮らし を続けているが、外からの企業が入ってくれば賃金も上がり、若い人 が地元に残るようになると考える。

村上さんの父親は船乗りだった。60-70年代にかけ「3カ月 も海に出れば600万-1000万円持ってきた」という時代で、「マ グロ御殿」と呼ばれる赤瓦や黒瓦の豪奢な入母屋造り邸宅を建てるの が一人前の証しだったという。同じ避難所にいた理容店経営の斎藤末 子さん(63)は、「10年20年かかるか分からないが、健康で長生 きして再び綺麗な気仙沼をみたい」と笑顔で語った。

東日本大震災による宮城県の被害(9月末現在)は、死者 9430人、行方不明2092人。震災直後は県内の沿岸地域を中心に 32万885人が避難所で生活を強いられ、9月末でなおその数は 1594人。

批判を受けても

若いころ、自衛隊ヘリから眼下の宮城県を見て、「発展してい く地域」と感じたという村井氏。「批判を受けてもやるべきことはや る」と強気だ。「政治主導というのは、国民の批判を受けてでもこう するんだと、だからついてきてくれということ。私たちの小さな自治 体で限られた財源でも、リーダーが思えばいろいろやれる」と強調し た。

国政の場で規制改革に取り組んで実現の難しさを知る後藤祐一 衆院議員(民主)は、構造改革特区でできなかったことが復興特区で はできるかもしれないと言う。壊滅した地域の復興にかける地域の意 気込みは「説得力が全然違う」。「被災地がやりたいと言っているこ と」は止められないとみる。

政府は、復興特区の創設などを盛り込んだ復興法案や復興庁設 置法案を、今月下旬にも召集する臨時国会に提出する予定だ。

--取材協力:藤岡徹、松山かの子、John Brinsley、広川高史 Editors:Kenzo Taniai, Hideki Asai

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