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戻りたいが生計のめど立たず-高放射線量の飯舘村からの避難民

「老人たちはここに戻ってきたいと 思ってるよ。でも、若い人たちや子供がいる家は放射能が心配で、村に は帰ってきたがらないだろうね」。福島県飯舘村に一時帰宅していた原 田高子(80)さんは、村の将来にこう不安を募らせた。

飯舘村は福島第一原子力発電所から20キロメートル圏の「警戒区 域」の外側にありながらも放射線量が高いために「計画的避難区域」と して指定され、約6000人の村民のほぼすべてが避難する村だ。

福島市や郡山市などがある「中通り」と呼ばれる地域と、南相馬市 など「浜通り」をつなぐ県道12号線には、自衛隊や復興を支えるトラ ックなどの車両が頻繁に行き交う。両地域を分断する阿武隈山地の高地 部に入ると、車の往来とは対照的に、カーテンや障子が締め切られ人気 の途絶えた飯舘村の家並みが街道沿いに現れる。

原田さんは4月、娘家族と一緒に村が借り上げた福島県伊達市のア パートに避難した。震災発生時までは自宅裏の牛舎で約100頭の牛を飼 育していたが、5月末までに県の指示で牛をすべて処分した。

原田さんにとっては、家族で営む事業を再開できるかどうかが目下 の最大の懸念だ。「県内では子牛の相場は昨年より10万円ぐらい安く1 頭30万-40万円。飯舘村に戻ることができれば、畜産は再開したいと 思う。でも、牛が育った後に出荷できるのか、ここで育った牛を買って くれる人がいるのかね」と話す。

一時帰宅した9月9日時点で、原田さんの自宅敷地内の放射線量は 毎時3マイクロシーベルト。これは年26ミリシーベルトに相当し、国 際放射線防護委員会(ICRP)が示す平常時の線量限度の年1ミリシ ーベルトを上回る。

相馬野馬追

飯館村から沿岸部に向けて30分ほど車を走らせると、南相馬市に 出る。同市の南部3分の1は福島第一原発から20キロメートル圏内に あり、立ち入りが制限された警戒区域に指定されている。さらに3分の 1が30キロメートル圏内に入っており、「緊急時避難準備区域」に指定 されている。

約1000年の歴史を誇る「相馬野馬追」で知られる南相馬市は、原 発だけでなく津波の被害も受けた。同市観光交流課の坂下拓也副主査に よると、7月末に開催されたこの祭りの来場者数は約3万7000人と、 約20万人だった昨年を大きく下回った。

坂下氏は、放射能への不安だけでなく、祭りに利用する甲冑(かっ ちゅう)や約100頭の馬が津波で流された結果、「祭りの規模自体が大 きく縮小したことも響いた」と指摘した。通常は約500騎が並ぶ行列が 80騎に減った。同市には世界大会が開かれるほどのサーフスポットや海 水浴場もあるが、昨年7-8月は8万4000人だった海水浴客も今年は ゼロだったという。

除染効果

地震発生時に福島第二原発で放射線管理の仕事に従事していた宮 口さん(54)は下の名前を明かさないのを条件に被災の様子を語った。 それによると、南相馬市小高区の自宅は津波に襲われ、同居の両親も失 った。「家と両親を失い仕事どころではなくなったため、そのまま仕事 は辞めてしまった」という。現在は閉鎖された中学校の校舎を利用した 同市内の避難所に暮らしながら、仮設住宅の当選を待っている。

今後警戒区域内の各地で政府による本格的な除染が始まる。宮口さ んは「まだ原発がむき出しの状態で、放射性物質の放出が止まっていな い中で、除染を始めてもどれだけ意味があるのか。完全にふたをした状 態でやらないと意味がない」と否定的だ。

津波に流された自宅は海岸から約50メートルに場所にあったため 将来警戒区域指定が解除されても、同じ場所に戻れるとは考えていない という。宮口さんは「自宅のある場所には戻れないかもしれないが、大 きな町で息苦しい生活するつもりもなく、南相馬市にとどまりたい」と 話した。

リスク

南相馬市観光交流課の坂下氏によると、同市の警戒区域内から避難 した住民の間には、「いずれは戻りたいという声と、小さい子供がいる 家庭からは戻りたくないという声も上がっている」という。

放射線の影響を研究するためチェルノブイリに滞在しているサウ スカロライナ大学のティモシー・ムソー教授(生物科学)は、取材に対 し電子メールで回答。福島住民の帰宅に「簡単な解決策はない」と指摘 し、汚染された地域に戻れるかどうかは「受け入れ可能なリスクとの兼 合いの問題だ」とみる。

チェルノブイリでは1986年の原発事故後、半径30キロメートル圏 内の立ち入りが禁止された。事故発生から25年たった今でも居住禁止 区域として残されているが、約300人が区域内に戻って生活している。

ムソー氏はチェルノブイリでの経験から「福島県から伝えられてい るレベルの放射線量に被ばくしている人の中には、いずれ何らかの影響 が出る人たちが出てくるだろう」との懸念を示した。

--取材協力:宮崎真、稲島剛史、渡辺千咲 Editors:Takeshi Awaji, Eijiro Ueno, Kenzo Taniai, Hideki Asai

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