【コラム】ユニクロの「下着モデル」が日本株式会社を救う-ペセック

「日本株式会社」の将来を担うの は、自動車やカラーテレビ、産業用ロボットではなく、下着だとい うことが明らかになりつつある。

中国が日本を抜いてアジア最大の経済国となり、米アップルが タブレット型コンピューター「iPad(アイパッド)」を発売した 2010年よりかなり前、日本は世界のトップに立つことを運命付けら れている国だと自ら想像していた。日本に並ぶ技術力を持つ国はな く、銀行は強く、羨望(せんぼう)の的だった自動車産業は他国の お手本となり、企業幹部らは米複合会社ゼネラル・エレクトリック (GE)を率いていたジャック・ウェルチ氏と競い合った。

デフレと政治の停滞で流れが変わり、先週ついに振り出しへと 戻ってしまったようだ。日本は、米経済誌フォーブスのアジアのト ップ企業50社番付で初めて圏外に落ちた。この番付に入ることは常 に国の威信にかかわる問題だった。経済は弱っているのかもしれず、 リーダーは不在で人口は高齢化している。それでも日本には素晴ら しい企業があるのではないか。そんな期待も音を立てて崩れ去った。

だが絶望している場合ではない。古臭くなった主要産業の先を 見据えて、世界経済の力学の中でいかに繁栄するかを学ぶ必要があ る。私はユニクロに注目したい。

日本株式会社を支配している長老たちは、衣料品アジア最大手 ファーストリテイリングの子会社であるユニクロの拡張するブラン ド力をなかなか評価しようとはせず、何かを学ぶことができるとは 認めようとしてこなかった。安い中国の労働力に依存する安価な衣 料品を生産する国ではなく、技術大国であることを好んだ。しかし、 最近の日本では斬新なアイデアを結集して活用することが可能にな り、財務面でも目的が手段を正当化するようになっている。フォー ブス誌の日本の長者番付では、ファーストリテイリングの柳井正社 長が2位となった。

柳井社長の成功から学べる教訓は明白だ。つまり、将来の市場 は日本の国外にあり、日本型経営を支配する国内主義がデフレの原 動力になっているということだ。

日本の下降傾向

柳井社長は最近、日本は20年間にわたって下降傾向にあり、重 大な局面にいると述べた。その状況で彼が計画しているのは、世界 各地で毎年200-300店を開店することだ。

日本株式会社は「ガラパゴス・シンドローム」に陥る運命にあ るのかもしれない。日本は、現状打破につながるような高機能の小 型電子機器を次々と開発しているが、事業展開は国内市場に限られ ている。マーケティングの観点から見ると、携帯電話メーカーはチ ャールズ・ダーウィンがエクアドル沖で遭遇した固有種のようなも のだ。高度に進化しているが他地域の製品とは全く異なっている。

日本企業は、1980年代の苦い経験から海外での大規模な事業展 開に及び腰になっている。当時は自信過剰になっていた。ニューヨ ークのロックフェラーセンターやカリフォルニア州のペブルビーチ ゴルフコースの買収は、経済力の誇示が目的であり、理にかなった 投資だったとは言えない。

戦略的海外展開

今後の海外展開は、当時より戦略的な意味合いの濃いものにな るだろう。円相場は過去2年間で約16%高騰している。日本は市場 シェアと利益を拡大し国内で新規雇用を創出する必要があるため、 円高は国際的なM&A(企業の合併・買収)を加速させるだろう。

柳井氏から学ぶべき点は他にもある。その1つは単刀直入にな ることの必要性だ。私が話したことのある企業幹部たちは、ユニク ロに否定的だ。「ギャップの日本版だ。大したことはない」とか、日 本は着実に高級品市場を動かす必要があるのに、ユニクロは経済の 底辺で競争しているといった反応が多い。

しかし、柳井社長はデフレが循環的現象ではなく長期的なもの であることを理解している。何もせずに消費者物価が突然上昇し、 成長が回復するのを願うのではなく、小売業の世界を塗り替えよう としている。

「カイゼン」

さらにユニクロは、目に見える以上にアパレル業界に製品の改 良を重ねる「カイゼン」を取り入れた。汗を逃す効果のある下着は、 東京やニューヨークなど世界各地で粘りつくような夏の暑さに苦し む人々にとって天の恵みだ。これを、日本の経済成長の「下着モデ ル」と呼ぼう。

他にも旧弊な日本の伝統を打ち破った動きがある。それは、日 本では非常に珍しい英語による会議だ。ファーストリテイリングは 年功序列の雇用に固執していない。優秀なら26歳でも採用されるチ ャンスがある。業界のルールに反する可能性があっても競合他社か らの人材の引き抜きに二の足を踏むこともない。外国人スタッフの 割合を増やしたり、最先端の広告会社の起用にも積極的に取り組ん でいる。

企業の社会的責任(CSR)活動にも一段と真剣なようだ。小 口融資活動でノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏と協力 し、バングラデシュで布地製造会社を創設する活動に参加。同国で は実現しにくい女性の財政的な独立を支援している。3月に発生し た東日本大震災の後では、いち早く多額の寄付を行った。

もちろん、ユニクロは完璧な企業ではない。混迷する世界の経 済環境では、事業拡張が過度になるリスクが常にある。同社の運命 は、カリスマ経営者である柳井社長(62)の存在と固く結び付いて いる。柳井社長があす身を引けば、この先どうなるか分からない。

それでも、デフレや自然災害、人口減少という今の状況下で、 日本がどうすれば成長を続け、世界市場の景観を変えることができ るかという1つの例にはなっているだろう。かつて世界のトップに なることが運命付けられていると思っていた国からもっと多くのこ とを世界は必要としている。 (ウィリアム・ペセック)

(ペセック氏はブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。 このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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