白井日銀委員:あらゆる手段検討、不確実性は非常に高い-単独会見

日本銀行の白井さゆり審議委員は 15日、ブルームバーグ・ニュースとの単独インタビューで、金融政策 運営について「さまざまなリスクを織り込んで8月に金融緩和の強化 を打ち出したが、今後も不確実性が高いので、注視していく」と述べ た上で、「必要とあらば、今後も、あらゆる手段をオープンに考え、 必要な対策を打っていく」と表明した。

白井氏は元慶応義塾大学総合政策学部教授で、4月に日銀審議委 員に就任。報道機関とのインタビューは就任後初めて。白井氏は欧州 と米国の景気について「減速感がやや強まっている」と指摘。先行き も「不確実性が非常に強い」と述べた。特に欧州の債務問題について は「為替・金融資本市場を通して、日本だけでなく世界に影響を及ぼ している。投資家のリスク回避姿勢が非常に強まっている」と述べた。

米国経済については「住宅市場の低迷が長く続いており、家計の バランスシートの調整には時間がかかる。そういう状況で借金を返済 しているので、なかなか消費につながらない」と指摘。また、「雇用 が増えないし、雇用があっても賃金が伸び悩んでいるので、なかなか 消費の方に回らないという背景がある」と語った。

先行きは「原油価格がひところに比べれば比較的安定しているの で、この状態が続けば、家計の購買力にはプラスに効く面はあるが、 株価の動向やオバマ大統領が発表した景気対策の行方にも左右される ので、緩やかに成長はすると思うが、下振れリスクはある」との見方 を示した。

欧州全体で不安定な状況に

欧州に関しては「周辺国は財政再建をやっている途上だが、なか なか市場の信認が得られず、国債金利が高騰している。その結果、金 融機関や企業の資金調達コスト上昇につながり、実体経済への影響も 出かねない状況だ」と指摘。「最近はそれが周辺国の問題にとどまら ず、周辺国に多額の投融資をしている欧州主要国の金融機関に対する 懸念が高まっており、欧州全体で不安定な状況がみられる」と述べた。

国内経済については「欧米で減速感が強まるなどネガティブな材 料が多い中で、日本は東日本大震災で影響を受けた生産と輸出が非常 に早く回復している。鉱工業生産は7月の段階でほぼ震災前の水準に 戻った」と指摘。「外需もまだ堅調なので輸出は増えており、設備投 資と個人消費も持ち直している。企業や消費者のマインドも比較的回 復しているものが多い」と述べた。

日本経済の下振れリスクも

先行きは「堅調な海外需要が続き、復興需要が本格化してくれば、 緩やかな回復経路に復していく」としながらも、「下振れリスクもあ る」と述べた。日銀は先月4日、財務省の円売り介入と合わせて、2 日間の予定だった金融政策決定会合を1日に短縮。資産買い入れ等基 金を40兆円から50兆円に拡大する追加緩和に踏み切った。

市場では引き続き追加緩和観測が根強い。エコノミストの間では、 具体的な候補として、①資産買い入れ等基金の増額②同基金の買い入 れ対象国債の残存期間(1-2年以内)の長期化③補完当座預金制度 適用利率(0.1%)引き下げ④長期国債買い入れ額(月1.8兆円)の増 額⑤時間軸(実質ゼロ金利継続の公約)の強化⑥同基金の買い入れ対 象に外貨建て資産を加える-などが挙がっている。

白井委員は「少なくとも私自身は、さまざまな手段に関して、こ れは絶対だめだと最初から切り捨てているものはない。世の中にはい ろいろな手段があり得るかもしれない。あらゆる手段を常にオープン に見ていきたい」と言明。具体的には、①短期、長期の効果と副作用 の比較考量②市場の価格形成メカニズムの維持③日銀の財務の健全性 -の3点を頭に入れた上で「取り得る政策を取っていく」と述べた。

国債引き受けは歴史の教訓からの逸脱

与党内には国債の日銀直接引き受けを求める声もある。白井氏は 「一般論として、中央銀行が国債を引き受けるということは望ましく ない」と強調。「現在、幸い国債を非常に円滑に発行できているが、 海外の投資家も日本の国債を買うような時代に、日本だけが歴史の教 訓を踏まえて形成された基本原則から逸脱することがどういう意味を 持つのか、国内だけでなく世界的な視点で見ていく必要がある」と語 る。

白井氏は「多種多様な政策を次々打ち出しているのにもかかわら ず、なぜ日銀に対する理解が深まらないかと言うと、マクロ経済学の 教科書に起因する2つの理由がある」と言う。1つは、教科書が前提 としている、中央銀行が自由に当座預金を操作できるという考えだ。

白井氏は「当座預金残高は3月末に42.6兆円と史上最大規模に達 したが、現在30兆円前後に減っており、日銀が金融を引き締めている という批判がある。しかし、当座預金が増えたのは企業や金融機関が 予備的な資金需要を非常に高めたためで、その後減っているのは、市 場に安心感が出てきたためだ」と指摘。「日銀当座預金の残高の減少 をもって、金融緩和が足りないという主張は明らかに誤解だ」という。

明日への不安がデフレの背景

もう1つは、中央銀行が日銀券と当座預金からなるマネタリーベ ースを増やすと、貸し出しが増えていくという考え。白井氏は「日本 だけでなく一部の主要国でも、中央銀行がマネタリーベースを増やし ても、なかなか貸し出しが増えないという現象が起きている」と指摘。 欧米ではバランスシート問題が背景だが、日本では明日への不安から、 企業も家計が投資や消費を控えていることが背景にあると語る。

白井氏はその上で「日銀はこれからも強力な金融緩和を推進して いくが、その強力な緩和の効果を高めるためにも、皆が明日の社会が 良くなると思えるような対策が必要だ」と強調。成長分野への資源の 投入や、女性や高齢者が働きやすい環境作りが不可欠だと訴えた。