ゴールドマン解雇されヘッジファンド中枢へ-スカラムーチ氏の処世術

アントニー・スカラムーチ氏は5 月の夕べ、ラスベガスのベラージオホテルのプールサイドパーティー に出席していた。客たちの間をかき分けながら歩いていると「ムーチ だ」と誰かの声が上がる。

ハーバード・ロー・スクールを卒業したがニューヨーク州の司法 試験に2回失敗し、1991年にゴールドマン・サックス・グループを解 雇された同氏は、望み通りのものを手に入れていた。それは資産残高 が2兆ドル超に膨れ上がったヘッジファンド業界のホスト役だ。

スカラムーチ氏はヘッジファンド業界会議、スカイブリッジ・オ ルタナティブス・カンファレンス(SALT)の創設者で主催者。年 1回の会議は米国の運用者や投資家が集う業界最大の催しだ。5月の 3日間、1750人以上の投資のプロたちが集まり、スティーブン・コー エン氏、レオン・クーパーマン氏、ケネス・グリフィン氏ら業界のス ターたちの英知に耳を傾ける。

プロたちはニューヨーク・ジェッツのヘッドコーチ、レックス・ ライアン氏のスポーツ談義を堪能し、コリン・パウエル元米国務長官 やブラウン前英首相から地政学的知識を学ぶ。ブルームバーグ・マー ケッツ誌10月号が報じた。

初日を締めくくるプールサイドのパーティーではカクテルドレス 姿の若い女性たちがエア・ホッケーを楽しみ、向こうでは男性がドミ ニカ製の葉巻をふかしている。ドリンクを楽しみ、ローストポークに かぶりつく客たちの間を、曲芸やパントマイムの芸人や道化師が練り 歩く。

「神様がくれた才能」

スカラムーチ氏(47)は自分が演出した祭りに酔いながら言う。 「信じられるか。人間は神様がくれた才能を使わなくちゃだめなんだ。 自分の場合それは人と付き合う才能だった。こういう仕事をするため に生まれてきたんだ」。

スカラムーチ劇場の開幕だ。2年前の同氏は、ニューヨークのフ ァンド・オブ・ヘッジファンド、スカイブリッジ・キャピタルの名も ない運用者に過ぎなかった。しかもそのスカイブリッジは金融危機の 影響で破綻寸前だった。それでも同氏は素早く立ち直り、臆面も無く 自分を売り込む能力や影響力を持つ人物と関係を築く才能を武器に、 ヘッジファンド業界の中央舞台へと突き進んでいった。

友人にはジャンク債の帝王だったマイケル・ミルケン氏や映画「ウ ォール・ストリート」の監督、オリバー・ストーン氏らがいる。今年 の会議で基調演説したのはブッシュ前米大統領だった。

新階層「マスアフルエント」

スカラムーチ氏がプロモートしている投資モデル、ファンド・オ ブ・ヘッジファンドは信用危機以来、資産と信頼を失っている。しか し同氏は、住居を除いた資産10万-100万ドルを持つ「マスアフルエ ント(大衆富裕層)」と呼ばれる新たな投資家層を開拓したいと考えて いる。

富裕層の投資傾向を分析するスプクトラム・グループによると、 米国のマスアフルエント3600万人のうち、ヘッジファンドに投資して いるのは3%に過ぎない。しかしこのところの株式・債券相場の大変 動を考えると、資産を増やすために空売りや裁定取引など洗練された 手法に頼りたいと考えるマスアフルエントが増えるだろうと同氏はみ ている。

シティのファンド・オブ・ヘッジファンド部門を吸収した2010 年7月1日以降、スカイブリッジには10億ドルの新資金が流入した。 ウィンドウォード・キャピタル・マネジメントの創業者、ロバート・ ニコラス氏は「客を呼び込むのは成績ではない。セールスとマーケテ ィングだ」と言う。中流層の上辺であるマスアフルエントに、リスク の高いファンド・オブ・ヘッジファンドを売り込むのはたいへんな苦 労だが、これこそまさにスカラムーチ氏が天分とする才覚だ。