屋台料理を愛するインドのバフェット氏、信念は「買うよりも築く」

ムケシュ・アンバニ氏は、小さくま とまったりはしない。何せインド一の富豪だ。彼の企業リライアンス・ インダストリーズは、ゼロから造り上げた製油所としては史上最大級 の施設を運営している。昨年は地球上で最もぜいたくな私邸の一つに 引っ越した。

27階建てのその邸宅は、温泉や屋上ヘリポートのほか、50人が一 度に鑑賞できる映画館まで備えている。全て、この邸宅の住人である アンバニ氏と妻、3人の子供、母親のたった6人のための施設だ。

アンバニ氏(54)の影響力はインド国内外に広がっている。ブル ームバーグ・マーケッツ誌10月号が、世界の金融で最も影響力のある 50人に関する特別号で同氏を取り上げた。リライアンスは時価総額で インド最大級の企業で、ポリエステル生産では世界首位。同氏とその 家族は、リライアンス株の45%余りを保有し、その価値は9月7日現 在で267億ドル(約2兆700億円)に上る。

米銀バンク・オブ・アメリカ(BOA)は3月に、アンバニ氏を 非常勤取締役に起用した。BOAが取締役会に米国以外の人材を招い たのは初めてのことだ。

休むことを知らず行動するアンバニ氏は、慈善団体のリライアン ス財団を通じて、インド国内に新たな大学やエンジニア養成校を設立 することに力を注いでいる。

現金保有高

アンバニ氏は、世界中の資産運用会社を引き付ける。特に弟アニ ル氏との経営権をめぐる悪評高い争いが決着してからは、それがます ます顕著になった。ブルームバーグのデータによると、リライアンス のバランスシート上の現金保有高は年末までに160億ドル超となる見 込み。非金融業では世界30位以内に入る規模だ。

インディア・キャピタル・ファンドで3億3500万ドルの運用に携 わるジョン・ソーン氏は、「世の中の動きを分かっている世界の投資銀 行家は皆、彼の電話番号を持っていて連絡している」と話す。同ファ ンドはリライアンス株を保有。アンバニ氏はこの件についてコメント を控えている。

リライアンスは高成長を維持するインド経済において比類のない 役割を担っている。石油・ガスから小売り、バイオテクノロジーまで 幅広い事業を展開するリライアンスは、同国の株価指標センセックス 指数の10%を占める。年間売上高は580億ドルで、同国国内総生産(G DP)の3.6%に相当する。

割安感のある企業が狙い目

アンバニ氏が招集する年次株主総会には数千人が集まる。米資産 家ウォーレン・バフェット氏の懇談会のようだ。直近の総会での話題 は、増配の是非からリライアンスが出席者に無料で提供したアイスク リームの質まで多岐にわたった。

バフェット氏と似ているのは、タウンホール形式の会合だけでは ない。アンバニ氏はバフェット氏同様、買収に際しては常に割安感の ある企業のみを狙う。これまで対価を払い過ぎたことはない。

ただ、今年の総会に際しては頭の痛い問題が幾つかあった。リラ イアンスの株価は年初から9月7日までの間に21%下落。コタク・イ ンスティチューショナル・エクイティーズのアナリスト、サンジーブ・ プラサド氏(ムンバイ在勤)は、投資家はリライアンスがガス生産目 標を達成できない可能性を懸念していると指摘する。同社は生産押し 上げのため、2月に英石油会社BPと提携し、石油・ガス鉱区の一部 権益を72億ドルでBPに売却した。

すしやワインでなく

アンバニ氏を知る人たちは、愛国心に満ちた高邁(こうまい)な 大志を抱いた人物だと評する。

プライベートエクイティ(PE、未公開株)投資会社ブラックス トーン・グループのインド部門会長で、アンバニ氏の親友でもあるア キル・グプタ氏は、「皆が『インドではこれはできない』と言えば、彼 は『可能なことを自分が証明してみせる』と考え、それを他の誰より もうまく成し遂げたいと考える」と評する。

アンバニ氏は、インドの一部ビジネスエリートと異なり、欧米の 著名人らの生活スタイルに夢中になることはない。しばしば英語でな く、母国語であるグジャラート語を話す。すしよりも南インドの屋台 を好み、ワインには詳しくない。ニューヨークへ行けば、好きなカー キ色の服を手に入れるため百貨店のメーシーズを訪れる。

グプタ氏が初めてアンバニ氏に会ったのは1979年、米スタンフォ ード大学の経営学修士(MBA)課程在籍時だった。アンバニ氏は同 課程を修了していない。最初の1年が終わると、父親のディルバイ氏 に呼び戻され、ポリエステル工場建設の監督役を命じられた。それは、 リライアンスのトップになるための通過儀礼だった。同社は、アンバ ニ氏が生まれた翌年の58年に、香辛料の販売会社としてスタートした。

攻勢

ディルバイ氏が2002年に死去した後、アンバニ氏はリライアンス の経営をめぐって弟のアニル氏と確執を繰り広げた。グループは05年 に約半分に分割され、アンバニ氏は精製や石油化学、石油・ガス、繊 維を、アニル氏は通信や資産運用、娯楽、電力などの新規事業を担当 することになった。

両氏は互いの領域で競争しないことで合意したが、10年にその合 意を解消。アンバニ氏は通信業界に戻り、同年6月にはインドでワイ ヤレスブロードバンドサービスを提供する権利を持つインフォテル・ ブロードバンド・サービシズを10億ドルで買収した。

アンバニ氏は金融サービス業にも攻勢をかけている。今年3月に は米投資会社DEショー・グループとインド合弁会社を設立。6月に は、印ブハルティ・エアテルと仏アクサ・グループの保険合弁2社の 株式の計74%をブハルティから取得した。

買収には慎重

一方、海外進出ペースはより緩やかだ。破綻した石油化学会社ラ イオンデルバセル・インダストリーズの取得に失敗。カナダのオイル サンド会社、バリュー・クリエーション買収ではBPに競り負けた。 ただ、その後は米国のシェールガス鉱区の権益を取得するなどしてい る。

アンバニ氏を知る人は、同氏がリライアンスの現金を使って買収 をする際には極めて慎重になるとみている。グプタ氏は「彼は概して、 買うことでなく築き上げることの正当性を信じている」と話す。

アンバニ氏が築くものはどんなものでも、人々に強い印象を与え る。ムンバイの街並みやインド、そして世界にも一層、その印象を深 く刻みつつある。

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