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「年寄りは放射線被害少ない」-シニア行動隊が福島原発の現場へ(1)

「若い人より年寄りの方が放射線の 被害が少ない」。こんな思いに突き動かされ、住友金属工業でプラント のエンジニアリングなどを担当していた山田恭輝さん(72歳)らが60歳 以上の世代からなる行動隊を結成した。事故収束が難航している東京電 力の福島第一原子力発電所の安定化のため現場作業に加わる予定だ。

ウェブサイトやミニブログ「ツイッター」などを通じてシニア層の 協力を募ったところ、山田さんのもとには20日時点ですでに369人の志 願者が集まっている。元プラント技術者や元大学教授らシニア世代5人 が7月初めにも福島第一原発に足を踏み入れ、行動隊を本格的に送り込 むための事前調査を実施する。

視察には、山田さんのほか福島第一原発の設計にも携わった東芝O Bや、プラントのプロジェクト管理の経験もある千代田化工OB、放射 線管理士、エックス線を使って金属の性質を研究していた元大学教授の 4人が参加する。現役を引退しているものの、それぞれの分野で豊富な 知識と経験を持つ面々だ。

近畿大学の伊藤哲夫教授(放射線生物学)によると、細胞分裂が盛 んに行われる子どもと比較すると高齢者の場合には細胞分裂の頻度が低 く、その分だけ放射線への感受性が低いという。細胞は放射線が当たる ことで傷つけられるが、ダメージを受けたまま修復されない細胞が分裂 を続ける子供より、高齢者の方が影響は少ない。

「原子炉は無茶苦茶になっている」

山田さんは5月26日に細野豪志首相補佐官や東京電力幹部と本社で 面会。視察に備えて、放射線管理区域内で作業するために必要な放射線 管理手帳申請の手続きなどに入った。6月6日には海江田万里経済産業 相とも会談。山田さんは「現場では深刻に人手が足りておらず、お願い しますと言われた」と話す。

東京電力広報担当の森嘉紀氏によると、山田氏は5月下旬に同社原 子力設備・管理部の山下和彦部長と面会した。森氏は「復旧の力になっ ていただくことはありがたいと思っている。現在、現場のニーズにマッ チするかどうか、前向きに検討している」と話した。

3月11日の東日本大震災直後に津波が電源設備を襲い、福島第一原 発は冷却機能を失った。山田さんは「技術屋の仲間らと話をしていても う原子炉が無茶苦茶になっているというのはかなり早くから想定できて いた。それなりにちょっと勉強していた人間には、これは駄目だという のが分かった」と語る。

昔の左翼仲間も

山田さんは1957年に東京大学工学部に入学。社会科学研究会に所属 し「知らなかったイデオロギーの話に触れて左翼かぶれ」になり、59年 に広島で行われた原水爆に反対するデモにも参加した。

福島第一原発で進展する危機を目の当たりにし、山田さんは3月下 旬、昔の左翼仲間や元同僚、友人ら数十人に宛てた電子メールで、シニ ア世代の行動隊立ち上げについて相談を持ち掛けた。「何かすべきだ」 との意見がすぐに返ってきた。

当初はグループとして呼び掛けることも検討したが、最終的には山 田さんの個人名で進めることにした。同氏は「徒党を組んで運動みたい なことをやるのではなく、一人ひとりに呼び掛けたかった。このプロジ ェクトはそういう性質のものだろうと考えた」と明かす。

電子メールや手紙で賛同者を募ったところ、ウェブサイトの立ち上 げを支援する人が現れ、同時に英語、ドイツ語、フランス語に翻訳する 輪も広がった。「福島原発暴発阻止行動プロジェクト」と名付けられた 山田さんの活動を案内するウェブサイトは現在、中国語やタイ語など12 言語に翻訳されている。ツイッターでの発信も始めた。

志願者の中には、東電OBのほか、間もなく定年を迎える東北電力 社員なども含まれる。行動隊には直接参加しない賛同者には現役の東電 社員もいるという。国内外の賛同者からすでに400万円を超える支援金 が集まっている。

沈みそうな船を救うのは

放射能漏れが続き危険性が高い福島第一原発の作業について、山田 さんは「沈みそうになった船が一隻ある。ある対策を講じれば船は沈ま ないですむが、その作業にかかわった人間は必ず死ぬ。あなたはどうす るか」という選択の問題だと指摘する。

細野首相補佐官は23日の会見で、「ある程度の年齢の方なので、全 面マスクをつけてあの環境で作業することで体調を壊すのはまずい。そ の部分の心配が払しょくされることが大前提だ」と述べた上で、自らの 生活を犠牲にしてこの問題の解決に何か行動を起こそうとする山田さん らの決断は「すごく貴重だ」と称賛した。

チェルノブイリ原発事故に並ぶ事態に陥った福島第一原発事故に 「自分たちにできることはないか」と立ち上がった年金世代の行動がい よいよ始まる。

--取材協力: 坂巻幸子 Editor:Takeshi Awaji, Hideki Asai, Kenzo Taniai, Tetsuzo Ushiroyama

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