放射能に脅かされる「食の安全」、広がる汚染に高まる不安

福島県福島市に住む野崎公江さんは 東京電力福島第一原子力発電所で放射能漏れ事故が起きて以降、3人の 子供の健康管理で心休まるときがない。政府の食品汚染検査が十分だと 思えないためだ。

「詳しい情報がないので一層不安になる」。野崎さんは、子供に放 射能汚染の可能性がある食品を与えたくないとして、他産地の食品を購 入している。

厚生労働省・食品安全部監視安全課が公表した12日時点の食品の放 射性物質検査の結果によると、放射能の規制値を超えた食品は347件と 前月から4割増えている。福島県で検出された基準値を超えた汚染食品 は、野崎さんの心配を裏付けるように全体の70%を占めている。

政府は、都道府県に対してすべての食品の検査を要請したが、現実 には優先品目が選定されている。厚労省・監視安全課の鶴見和彦課長補 佐は、検査計画について、「もともと原子力災害が起きた時には、それ ぞれの自治体で計画を立てるのが基本だ。自治体では、旬なもの、これ から出荷しようというものを検査するということが多いようだ」と説明 する。

環境保護団体グリーンピース・ジャパンの佐藤潤一・事務局長は、 福島原発事故による放射能汚染について、「いまはセシウムがメインに なってきていることを考えると、どの作物もその可能性がある」と指摘 する。初期段階で多く検出されたヨウ素131の半減期と比べ、セシウム 137は1300倍強と長く土壌に居座るためだ。

コメ

国の規制値を超えた放射性物質が検出された食品の中には、ほうれ ん草、たけのこ、原木しいたけ、ブロッコリーなどの野菜が目立つが、 田植えが終わり、秋にかけて収穫されるコメは、「人が日常的に食べる 量が圧倒的に多いので気をつけた方がよい」と佐藤氏は語る。

政府が4月22日にコメの作付け制限を指示した地域は、福島第一原 発から20キロメートル圏内の「警戒区域」や30キロメートル圏内の「緊 急時避難準備区域」などが対象。作付けを認めた地域についても、収穫 されたコメを検査し、暫定基準値である1キログラム当たり500ベクレル を超える放射性セシウムが検出されれば出荷停止を指示する方針だ。

農水省生産局農業生産支援課の安岡澄人課長補佐によると、規制を 受ける福島県内の水田は8000ヘクタール程度で、約4万トンのコメの生 産が減る見通しだ。

京都大学原子炉実験所の小出裕章助教によれば、セシウム137の濃 度が1000分の1に薄まるのに300年かかる。「放射線というのはどんな に微量になってもリスクがあり、いつまでたっても危険だ」。「晩発性 障害、つまりガンや白血病、遺伝的障害の発生割合が増えていく可能性 が高まる」

80日で1000分の1程度に希薄化するとされるヨウ素131と違い、セ シウム137など放射性を長期間に渡って帯び続ける物質が大気から降り 落ち地面に浸み込むと、その地域を長い間汚染し続けることになる。グ リーンピースの佐藤氏は、「牧草で長期的に放牧されている牛に関して 汚染が心配だ」と話す。

データポイント

文部科学省は5月、放射性物質について、福島県全域を対象にした 土壌、農地調査を開始すると発表した。土壌調査は、福島第一原発から 80キロ圏内が2キロ四方ごとに、同圏外が10キロ四方ごとに実施すると している。

国の放射能汚染の測定の仕方についても、佐藤氏は「実際に測って いるので分かるが、数値は100メートル単位で違う。一つ二つのサンプ ルでその地域全体が安全だというのは非常に危険だ」と主張している。

汚染拡大

放射線生物学・環境放射線学を専門にしている北里大学の伊藤伸彦 教授は、「野菜、魚類からお茶に至るまで検査品目は増えており、これ からも増えていく」とし、検査体制を拡充する必要があるとみる。今後 は土壌の放射性物質を根から吸い上げた野菜や穀物が出てくるためだ。 汚染された食物は、「現時点では表面が汚染されている状態。来年以降 は洗っただけでは落ちないものが出てくるだろう」。

表面が汚染された野菜の処理の仕方について伊藤氏は、野菜の表面 は顕微鏡でみると細かい毛が生えており水だけで洗っただけでは落ちな いことが多いと指摘。特に、果実類など表面にワックスが付いたものは 付着物が簡単には落ちないため、「ぬるま湯で中性洗剤をつけてこすっ て洗う必要がある」と言う。

海洋汚染もまた大きな問題となる可能性がある。グリーンピースの 佐藤氏は、「東電が発表している海水のデータを見てもヨウ素の量は一 定。半減期は8日間なので本来であれば新たな汚染がない限り減ってい るはずだ。依然として同じレベルだということは、継続して汚染された 排水が流れている」と指摘する。

佐藤氏によると、食品などが一定の品質や生産方法で作られている ことを保証するJAS法では、例えば、福島県沖で獲った魚を下関で降 ろすと下関産になってしまう。「消費者は、福島のものを避けたいと思 っていても、もしかしたら食べてしまう可能性もある」

スーパーなどで陳列されている農産物のように、購入する食品の流 通経路を把握できるトレーサビリティを水産物でも徹底しないと、消費 者離れが一段と深刻化すると佐藤氏はみている。

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE