ルイス・ピカドさんの母親は、息 子が宝くじに当たったと思い込んでしまったあの日のことを思い出す。 ニカラグア西部、マナグアのスラム街にあるトタン屋根と軽量コンクリ ートでできた自宅に帰って来た息子は、貧しさから抜け出し米国で新 たな生活をスタートする方法を見つけたと意気込んでいた。

ある米国人がピカドさんに、腎臓を片方くれるなら、ニューヨーク での仕事とアパートを提供すると約束したという。当時23歳だったピ カドさんは高校を中退し建設現場で働いていた。母親によると、彼はそ の話に飛び付いた。

3週間後の2009年5月、ピカドさんはマナグアの陸軍病院で手術 を受けた。医療記録によると、医師らが腎臓を摘出する際に動脈を切断 し、内出血した。母親のエリザベス・テルセロさんは病院の術後室で息 子のベッドのそばにひざまずき祈ったと、ブルームバーグ・マーケッツ 誌6月号は伝えている。

テルセロさん(49)は「息子に心配しないで、私が看病するからと 語りかけた。でも遅過ぎた」と振り返る。検視官の報告書によると、 医師らは救命を試みたがピカドさんは出血多量で死亡した。母親は「息 子はいつもアメリカンドリームを追い求めていた。そして、とうとうそ のせいで命を落としてしまった」と肩を落とす。

米国人のマシュー・ライアン氏も同じ運命をたどった。ニューヨー クのバス会社の管理職を退職し当時68歳だった同氏は、ピカドさんの 腎臓の移植手術を受けた2カ月後、同じ病院で死亡した。

ニカラグアの検視報告書によると、2人の死因は移植。マナグアの 検察当局は、金銭を支払って臓器提供を受けることを禁止する同国の法 律に違反した者がいないか捜査している。

違法なマーケット

この2人は、世界各地で拡大を続ける違法な臓器売買のマーケット に足を踏み入れてしまった。ハーバード大学医学部教授で外科医のフラ ンシス・デルモニコ氏によると、毎年、米国やイスラエル、サウジアラ ビアなどの重症患者約5000人がドナーから臓器を購入している。同氏 によると、臓器売買はイラン以外の全ての国々で違法となっている。

裕福で切迫した状況にある場合が多い患者たちは、臓器を売る貧困 層がいるエジプトやペルー、フィリピンなどの国々に向かう。中南米で は通常、移植は無認可のブローカーが仲介し、免許を持つ外科医が執刀 する。これらの医師たちの中には、世界有数の大学の医学部で訓練を受 けた者もいる。

世界の臓器需要は供給を大幅に上回っている。米国の移植待機リス トに掲載された患者が11万693人に上るのに対し、ドナーは年間1万 5000人に満たない。

デルモニコ氏によると、海外で違法な移植を受けた米国人は、健康 状態の悪いドナーからの感染でエイズウイルス(HIV)感染症などに かかり、帰国後、公衆衛生を脅かすケースもある。

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