シカゴ大が挑む常識破りの現場実験-ヘッジファンド資産家も支援

(原文は「ブルームバーグ・マーケッツ」誌4月号に掲載)

【記者:Oliver Staley】

2月24日(ブルームバーグ):シカゴ大学で経済学を教えるジョ ン・リスト教授は、グリフィン幼児教育センター内で教師らと世間話 をし、女の子のお下げ髪を見ては褒める。窓から外に向かって威勢の 良い声を放ったりして、まるで自分の学校のように振る舞っている。 それは多くの点で事実でもある。

低所得層が多く住むシカゴハイツにあるこのプレスクール はリスト教授の創案で生まれ、経済学史上で過去最大級の現場実験と して進められているプロジェクトの中核を担う。

ヘッジファンドを運営する資産家ケネス・グリフィン氏から1000 万ドル(約8億3000万円)の資金提供を受けており、この実験では 同プレスクールに在籍する150人を含む600人余りを対象に将来にわ たって追跡調査が行われる。教師や両親への投資が子供の学業成績向 上につながるかどうかを突き止めるのが狙いだ。

リスト教授(42)は現実の世界に経済理論をどう応用するかを試 す実験の考案で草分け的存在。デンバーのスポーツ選手のプロマイド カードの交換会やタンザニアの村に至るさまざま場所で、世間の評判 や差別に関する現場実験を行った。その成果は、研究室で構築された 理論を覆し、他の経済学者にこうした手法の活用を促すようになった。

今、リスト教授が考えているのは、校内暴力や雇用の性差別への 対策を見いだせないかということだ。人間がそうした行動を取る理由 を特定したいという。「経済学者は人が何をするかにこだわるが、な ぜそうするのかについては研究不足だ」と語り、「現場実験は人間が そうした行動を取る理由を説明してくれる」と指摘する。

実験の構想

リスト教授や彼の学説の支持者らが行う実験の結果は、教育やエ ネルギーまでさまざまな分野の公共政策に取り入れられる可能性を秘 めている。政策当局者や企業幹部、投資家が教授の実験結果を見れば、 学生や寄贈者、買い物客らの意思決定の理由について理解がはるかに 高まるという。

グリフィンのプレスクールの教室で幼児用椅子の上に座りながら リスト教授はマジックペンで実験の概要を描いて見せた。まず3-5 歳の子供がいる地元の家庭にくじを引いてもらい、無作為に3つのグ ループに分けた。

一つ目はプレスクール入学に選ばれた幼児のグループ。幼児は無 料の終日クラスに通える。二つ目のグループでは幼児は入学しないが、 保護者が「しつけ教室」に出席し、謝礼として最高年間7000 ドルの 現金または奨学金を受け取る。そして最後のグループの300 人余りの 幼児は、保護者も含めて、何の特典も得ず、あくまで比較対照者とし て参加する。

被験者が「死ぬまで」追跡

リスト教授のほか、協力者で経済学者のシカゴ大学のスティーブ ン・レビット教授とハーバード大学のローランド・フライヤー教授は 年1回の試験や出席簿、卒業率を通じて被験者たる幼児を観察する。 成人してからは、雇用や報酬、犯罪歴も調べる。

実験の初期の結果は年内にも公表されるもようだが、このプロジ ェクトは被験者が「死ぬまで」追跡するための資金が必要だと、リス ト教授は説明する。

今回の実験によって、米政府が親の支援に十分な資金を投じてい ないことが判明する可能性があるという。5人の子供の父親でもある リスト教授は「われわれは親への支援で、はるかに多くの時間と資金 を使う必要がある」と強調する。

一方、教育理論にはさほど通じていないと自認するリスト教授か ら、プレスクールのカリキュラムの相談で協力を求められた専門家の 1人、ニューヨーク大学のクランシー・ブレア教授(応用心理学)は、 実験の規模もさることながら、親子の関わり方といった要因を考慮せ ず金融面のインセンティブをいかに重視しているかに驚いたと指摘。 「過去の研究にも基づいていない」とし、「クレージーな構想だ」と 批判する。

将来のノーベル賞候補か

これに対しリスト教授は、教育からビジネス、慈善事業に至る分 野で科学的根拠を欠いた判断があまりにも多いと指摘。実験しなけれ ばプロジェクトが有効かどうか見極められないとし、「全国で同時に 数百件の実験が必要だ。その上でうまくいくことと、いかないことを 把握できる」と強調する。

リスト教授は執筆者あるいは共同執筆者として150本余りの学術 論文を手掛けた。発表論文の数や論文が別の経済学者に引用された回 数などを考慮したエコノミスト番付をみると、経験が15年未満であ りながら世界トップに立つ。コネティカット大学のクリスティアン・ ツィンマーマン教授(経済学)が保管する経済論文のデータベース、 IDEASが調査するエコノミスト2万7000人余りの中では133位。

ノーベル経済学賞を1992年に受賞したシカゴ大学のゲーリー・ ベッカー教授は、リスト教授にいつの日かノーベル賞が授与されるの ではないかとみている。「候補に上る可能性があることは間違いない」 と語るベッカー教授は、「相当な影響をもたらしたリスト教授のこれ までで最大の功績は、現場実験が行動に関する情報を引き出す上で重 要な方法であることを示したことだ」と賛辞を送っている。

参考画面: 翻訳記事に関する翻訳者への問い合わせ先: 東京 山口裕子 Yuko Yamaguchi +81-3-3201-8984 yuyamaguchi@bloomberg.net Editor:Masashi Hinoki、 Masami Kakuta 記事に関する記者への問い合わせ先: Oliver Staley in New York at +1-212-617-3956 or ostaley@bloomberg.net 記事に関するエディターへの問い合わせ先: Jonathan Kaufman at +1-617-210-4638 or jkaufman17@bloomberg.net or Laura Colby at +1-212-617-1167 or lcolby@bloomberg.net

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