【コラム】JPモルガンが「史上最大の災厄」になる日-Sジョンソン

米議会の金融危機調査委員会(F CIC)が最近公表したインタビュー資料によれば、米銀JPモル ガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO) は昨年秋の証言で、政府支援機関のファニーメイ(連邦住宅抵当金 庫)とフレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)を「史上最大の災 厄」と表現した。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の同僚であるダロン・ア セモグル教授が非常に明晰に分析したように、ダイモン氏は他の人 と同様に、金融危機でファニーメイとフレディマックが果たした役 割を誇張し過ぎている。

余りに多くのバンカーが、ファニーメイのせいでやむなく行っ たという趣旨の言い訳を口にしている。しかしFCICのリポート で明らかなように、莫大なサブプライムローン(信用力の低い個人 向け住宅融資)を推し進め、複雑なデリバティブ(金融派生商品) を駆使して下振れリスクを拡大させることにより、われわれを金融 危機に陥らせたのは民間部門だった。

ただ誇張し過ぎている部分はあるものの、ファニーメイとフレ ディマックは政治的に強大になり過ぎており、債務水準と比較して 株主資本があまりに少なく、無謀にリスクを冒したというダイモン 氏の指摘は的を得ている。納税者に多大な負担を残して彼らは自爆 したのだ。

真の「政府支援機関」

今日、真の意味で政府支援機関と言えるのはどのような組織だ ろうか。議員や当局者の目から見て「大き過ぎてつぶすことができ ず」、無償で暗黙の政府保証を得ている組織はどこだろうか。

それは、資産額でバンク・オブ・アメリカ(BOA)に次ぎ米 国2位の銀行であるJPモルガンのような大手銀行持ち株会社だ。 これは、米問題資産購入計画(TARP)を管轄するバロフスキ特 別監察官が最新の四半期報告で指摘した点だ。

株主資本と比較して債務を大きく拡大させるインセンティブを 有するのはどこだろうか。それもまた大手銀行だ。銀行の経営幹部 の報酬は、株主資本利益率(ROE)によって決まるが、ROEを 最も簡単に引き上げる方法はレバレッジを大きくすることだ。もち ろん、レバレッジの拡大が奏功するのは好況時に限られ、市場が急 速に悪化する時には潜在的損失を押し上げる。つまり、レバレッジ を高めればリスクが拡大する。

しかし、数週間前にスイス・ダボスに集まった世界の企業幹部 らは一様に楽観的であり、ダイモン氏をはじめとする金融業界の首 脳の前向きな発言によってさらに自信を深めていた。

政府は誠実に努力しているものの、銀行の経営幹部の報酬がリ スクを調整して適切になることは決してないだろう。実際、サンジ ャイ・ブハガト氏やブライアン・ボルトン氏が論文で指摘したよう に、民間銀行の首脳は株を売り払う時期を知っている。だまされや すい人たちが全てを失う前に売却するのだ。そして、2000-08年に 米大手金融機関14社のCEOが受け取った現金は26億ドル(約 2170億円)に達した。

ダイモン氏はまた、新興市場への進出拡大を柱に、よりグロー バルな企業を目指している。ガイトナー米財務長官は米誌ニュー・ リパブリックとのインタビューで、われわれは高レバレッジの米大 手銀が、極めて変動性の高い新興市場に多大な投資をすることを望 むべきだと述べ、こうした方向性を支持する考えを示した。

ガイトナー長官に加え、JPモルガンでロビー活動を担当して いたウィリアム・デーリー氏が米大統領首席補佐官に就任し、ダイ モン氏は必要な政治の後ろ盾を手にした。

ダイモン氏自身も、「大き過ぎてつぶせない」問題の解決にはま ず、大手銀の秩序立った清算を管理する方法を策定することが必要 だとの考えを示していた。しかし、金融規制改革法(ドッド・フラ ンク法)が成立したものの、いまだに破綻処理プロセスは確立して いない。

このため、次に大手銀が危機にひんした場合、金融システムへ の極めて甚大な影響を覚悟して破綻を容認するか、財政に大きな負 担を強いる可能性がある救済を実施するかのいずれかを選択するこ とになるだろう。

アイルランド危機の教訓

最近のアイルランド危機は、ガイトナー長官の「必要な時に救 済を発動する」というスタンスへの警鐘と受け止めるべきだろう。 同国の大手3行の資産は合わせて国内総生産(GDP)の約2倍に 膨れ上がっていた。これらの銀行は、ユーロ圏内から資金を借り入 れ、商業不動産に多大な投機を行った。銀行の破綻と救済により、 アイルランド政府の支払い能力は損なわれ、国際通貨基金(IMF) 主導による救済の要請を余儀なくされた。

ダイモン氏は10年10月のFCICへの証言で、ファニーメイ とフレディマックについて、「それは、起こるベくして起こった事故 だ」「われわれは全員がそれを知っていた。全員がそれを懸念してい た。しかし誰も何もしなかった」と語った。同氏は、「政府支援機関」 が関与する新たな危機が発生した時も、全く同じ発言をするに違い ない。ただし、この時に「政府支援機関」が意味するものはファニ ーメイなどではなく、ゴールドマン・サックスやBOA、シティグ ループ、ウェルズ・ファーゴ、モルガン・スタンレー、そしてJP モルガンになるだろう。(サイモン・ジョンソン)

(サイモン・ジョンソン氏は米マサチューセッツ工科大学スロ ーン・スクール・オブ・マネジメントの教授で、「13バンカーズ」 の共同執筆者です。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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