トヨタ:「杜の都」を新たな国内拠点に-堅実な県民性と低労働コスト

自動車メーカー世界最大のトヨタ 自動車が東北地方の宮城県を国内生産の新たな拠点とする戦略を進め ている。大都市圏と比べ低い労働コストや、整った物流インフラの強 みがあるほか、県民性も堅実とされる。国内雇用の維持を掲げるトヨ タでは今後のものづくりを支える拠点に「杜の都」が加わる。

「いよいよトヨタの第3の拠点が花開き、本格的に稼働するという ことで、私自身わくわくしている」。トヨタの張富士夫会長は16日、 1月から本格操業したトヨタの100%子会社、セントラル自動車の宮 城工場(宮城県大衡村)の開所式でこうあいさつした。関東自動車工 業の工場がある岩手県と合わせた東北地方が、トヨタ本社がある愛知 県豊田市周辺や北九州地区に続く主要な生産拠点になると述べた。

仙台市郊外の宮城工場はコンパクトカーの生産拠点との位置付け で、デンソーやトヨタ紡織など系列部品メーカーの現地進出も進んで いる。敷地面積は44万平方メートルで、当初の生産能力は年間12万 台。現在は輸出用のヤリスセダンを製造しているが、4月からはカロ ーラの生産も開始。張会長は、国内向けの小型車も手掛けていきたい という。

円高進行で自動車の国内生産活動が厳しくなる中、張会長はトヨ タグループの企業理念である「産業報国」を重視しており、目先の動 向に左右されず、「日本のものづくりを大事にしていくのがわれわれの 使命だ」と強調。その上で、東北地方には優れたものづくりの伝統が あり、優秀な人材が豊富と聞いていると述べ、「独自のすばらしいもの づくりの文化ができていくことを期待している」と語った。

1-2割低い賃金

宮城県の村井嘉浩知事は11日のインタビューで、県内に生産拠点 を設けるメリットとして、物流インフラが整備されていることなどを 挙げた。東北の中核都市として企業が支店を置く「支店経済」で潤っ てきたが、IT(情報技術)化や新幹線網の整備などで人口が減少傾 向にあり、産業構造の体質改善が必要だったと指摘。特に、製造業の 比率が滋賀県や静岡県などと比較して低く、これを引き上げようと企 業誘致に取り組んでいるという。

村井知事はまた、トヨタグループのトヨタ紡織やアイシン高丘な どの部品メーカーが既に操業を開始しているほか、豊田鉄工やビュー テックと立地協定を締結しており、さらに5-6社と工場開設に向け て交渉中であることを明らかにした。

宮城の県民性について、村井知事は「こつこつ真面目。一歩踏み 出すまでは用心深いが、一度取り組み始めると黙々と仕事をする」と 表現。高度経済成長期には宮城など東北地方から集団就職者や季節工 が夜行列車で上野駅に出てきており、労働不足に悩む都市部の「人材 供給基地の役割を果たしてきた」という。

労働コストの面でも宮城県は低い水準にある。厚生労働省の都道 府県別最低賃金データによると、2010年度の宮城県の最低賃金時間額 は674円で、47都道府県中29位。最も高い東京都の821円、神奈川 県の818円に比べ2割前後、トヨタ工場が集中する愛知県と比べても 1割近く安い。

世界に挑戦できる車づくりに自信

16日に仙台市内で会見したトヨタの新美篤志副社長は、日本のも のづくりネットワークを評価した上で、「そういう技術を総合して技術 革新することにより、まだまだ戦っていけると信じている」と強調し た。また、「東北の地で小型車に挑戦して、ここから世界に戦える魅力 ある車と、戦える原価の車に挑戦できるという自信を持っている」と 話した。

独立系調査会社ティー・アイ・ダヴリュ(TIW)の高田悟シニ アアナリストは、東北にトヨタグループ企業が多く進出していると指 摘した上で、「有能な人が相対的に安い賃金で集まりやすいのでは」な いかとの見方を示した。

一方、JPモルガン証券の高橋耕平アナリストは「今のトヨタは 過剰生産能力が問題」と述べ、「大きな課題は能力をどう減らしていく か」と指摘する。生産拠点の整理・統合を行うと、収益性は改善する かもしれないが、「生産能力が上がっても意味はない」という。

「最後の砦」

自動車調査会社カノラマのアジアディレクター、宮尾健氏は「ト ヨタが国内に工場を新たに建設することは当面ないだろう」と述べ、 「この宮城工場が最後になるのではないか」と語った。「輸出が劇的に 増えたとしても国内販売の低下で相殺されるため、国内の大型投資は 考えにくい」とみている。

トヨタの豊田章男社長は、円高でも国内生産をできるだけ維持し たい意向を示している。だが、ライバルのホンダ、日産自動車に比べ 収益回復が遅れている要因の一つに、各社が生産の海外移転を進める 中、他社に比べ国内生産比率が高水準になっていることがある。国内 生産維持を掲げるトヨタにとって宮城が「最後の砦」になるのか、第 3の国内拠点化の成果が今後の焦点となる。

--取材協力:向井安奈 Editors:Hideki Asai、Tetsuzo Ushiroyama

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