【コラム】金融危機の真の原因教えます、調査委報告は的外れ-ルイス

【コラムニスト:Michael Lewis】

2月16日(ブルームバーグ):私がここ1年半、米金融危機調査委 員会(FCIC)の委員を務めていたことを、驚くほど多くの方々が ご存じないようだ。

このため、過半数の委員が同意し、それに3人の少数派が異議を 唱え、さらに共和党委員のピーター・ウォリソン氏が別の意見を表明 した報告書に私が署名しなかったのはニュースかもしれない。つまり 私はそこに示されたどの意見にも賛同できないので、ここで物申して みたい。

そうするのは私自身が注目されたいためではない。ましてやJP モルガン・チェースに雇ってもらう確率を高めるためでもない。とに かく、国民に金融危機の真の原因を知らせたい。それだけだ。あまり に簡略的な要旨だけだが、説明しよう。

◎原因その1:ウォール街の人口動態変化

FCICの報告書によると、バーナンキ米連邦準備制度理事会(F RB)議長は一連の出来事を「大恐慌を含めて、世界の歴史で最悪の金 融危機」と表現した。要は前例のない出来事だったということで、そ うした展開を理解するにはかつて存在しなかった要因から考えていか ねばならない。ウォール街において、その最も明らかな要因は女性だ。

もちろん、危機前にウォール街の金融機関になだれ込んできた女 性たちは通常、大きなリスクを取ることを許されていなかった。裏方 で「助っ人」として働くことが決まりだった。しかし、彼女らの存在 が明らかに男性の債券トレーダーの判断を狂わせた。だが、どのよう に影響を及ぼしたのかのメカニズムについては、複数の女性委員もい るFCICでは解明されないままだった。

衝動に駆られる

彼女らの存在によって、男性のリスクテーカーは「淑女らに自分 の力を誇示したい」衝動に駆られたのかもしれない。あるいは答えに 窮する質問を受けて、自信を失っただけかもしれない。

とにかく、金融危機における女性の重要性を示す確かな兆しが危 機後の市場の反応に見られた。ウォール街の幹部職からの女性追放だ。 今のところ、このジェンダー(性差)の問題について関心が高いのは 学界だけにとどまっているようだ。

◎原因その2:米労働階級のモラル(道徳)崩壊

保険会社アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG) のロバート・ベンモシュ最高経営責任者(CEO)は最近、同社が成 功した理由はまさに、米国人の大多数を対象にした保険販売を回避し たことにあると指摘した。こうした人々は同CEOの言葉を借りれば 「身の回りの出来事は政府に責任がある」と考えている。

疑うことを知らないCEO

JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOもしばしば、金融界 以外の米国人による異常なまでのバンカー叩きに注意を促してきた。 ウォール街のリーダーらは今、自らの認識がこれまで間違っていたと 理解している。純真で疑うことを知らない彼らは、普通の米国人がも っと責任ある行動を取るはずだと信用したのだが、それは見事に裏切 られた。

驚くべきことに、こうした普通の人々は自らの行動に罪悪感を抱 いていないようだ。人間を恐れなくなった野生動物のように、ごみ箱 をあさっているようなものだ。

FCICの報告書は率直に言って、国民の道徳改善には役立たな い。例えば、1977年の地域再投資法(CRA)の役割に関する部分で、 低所得層向け融資など地域社会への貢献を義務付けた同法に従って大 手銀行が提供した融資は、サブプライム(信用力の低い個人向け)住 宅ローンのパフォーマンスを大きく上回ったとしている。

重箱の隅をつつくようなこうしたやり方では重要な点がぼやけて しまう。少なくとも2世紀にわたり、米政府はウォール街で働いてい ない人々に「平等」であると思わせるよう促してきた。そうした政策 によって普通の人々はつけあがり、返すつもりもないのに金持ちのよ うに金を借りるようになった。これと似た原因を次に指摘しよう。

中国にも責任

◎原因その3:中国人

驚くほど低価格で品物を売ろうとする中国人の姿勢も混乱を引き 起こす。貧しい人々にもたくさんの品物が買えると確信させてしまう からだ。中国が信じられないほどの低利で米国に貸してくれる大量の ドルも、米金融機関には負担だ。それをどこかに回さなければならな いからだ。

◎原因その4:個人に帰属しない歴史の勢いに打ち勝つという不可能 な偉業を、お人よしで勤勉ながらも感謝されない金融機関に押し付け るということ。

FCIC報告書で最も悲惨なのは、金融危機の責任を実際の人間 に負わせようとしていることだ。対象に挙がったのは、債務担保証券 (CDO)運用担当者や格付け会社、ウォール街の債券トレーダー、 金融機関のCEOだ。しかし考えてみてほしい。ウォール街全員に罪 があるなら、特定の個人にどうやって責任を負わせられるだろうか。 誰も危機を予想できなかったなら、見抜けただろうと誰に期待できた というのか。

大局的見地

とにかく、ウォール街の複数のCEOがFCICに辛抱強く説明 しようとしたように、彼らには細かい責任はない。破綻寸前となる前 の3年間にわたってAIGのCEOを務めたマーティン・サリバン氏 に至っては、自身の報酬額さえ把握していなかったことを露呈したぐ らいだ。(金額は1億700万ドル=約90億円だった)。

委員会は結局ポイントをつかむことができなかった。すなわち、 ウォール街の大手金融機関を経営できる類まれな人材は引き続き、大 局的な流れに照準を定めている。その全体像の中では、金融機関と業 績の観点からすると、金融危機はささいな出来事にすぎない。彼らは もう既にそんなことが起きたのを忘れてしまった。

そして、あなたもいつかは忘れてくれると彼らは考えている。

(マイケル・ルイス氏はブルームバーグ・ニュースのコラムニス トで、最新作の「The Big Short」はベストセラー。このコラムの内容 は同氏自身の見解です)

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