【映画】金融危機直前の24時間、瀬戸際バンカーたちの人間性に迫る

映画「Margin Call(マージン コール)」で、破滅の淵にひんした投資銀行のシニアブローカーを演 じるケビン・スペーシーは、死にかけている飼い犬のために涙を流す。

2008年の金融危機が表面化しつつあった24時間を描いたこの 作品に登場するバンカーたちは決して、「ウォール街」(1987)の ゴードン・ゲッコーではない。第61回ベルリン国際映画祭のコンペ ティション部門出品のこの作品が長編第1作となったJCチャンダー 監督は、バンカーたちを皮肉屋ではあるが人間味のある人々として描 く。好感すら持てる人物もいる。同監督の父親が米証券会社メリルリ ンチに40年勤めていたことと関係があるかもしれない。

映画は、ビシッと決めた服装の人事担当マネジャーたちが銀行の 部署に押しかけ、手際よく退職パッケージを提示、私物をまとめる段 ボール箱を心のこもらない慰めの言葉とともに手渡す不吉なシーンで 始まる。「後ろを振り返らない」という題のパンフレットも配ってい る。

解雇されたリスクアナリストのエリック・デール(スタンリー・ トゥッチ)は部屋を出る際に、USBメモリーを後輩のピーター・サ リバン(ザッカリー・クイント)に差し出す。原子物理学の博士号を 持つサリバンは、その部署で生き残った数少ない従業員の1人だった。 「気をつけろよ」デールはUSBを渡しながらつぶやく。

その夜遅く、コンピューターでデータを調べていたサリバンは、 銀行の資本の数倍に相当する不動産関連の負債が債務パッケージ商品 に含まれていることに気付く。サリバンは上司に報告し、深夜の危機 対応会議が始まる。

不良債権を一刻も早く処分せよ

高飛車な最高経営責任者(CEO)のジョン・タルド(リーマ ン・ブラザーズ・ホールディングスのリチャード・ファルド元CEO を暗に示している名前ともとれる)がヘリコプターで駆けつけて救済 作戦を練る。警告を無視されたリスク担当者をデミ・ムーアが演じて いる。

救済チームは数十億ドルもの不良債権を、顧客がその規模をかぎ つけたり市場が暴落したりする前に、できる限り素早く処分しようと 策を練る。タルドCEO(ジェレミー・アイアンズ)はその作戦実行 が重大な金融危機を引き起こすと予言しながらも、ほかに道はないと 主張する。

「マージンコール」のシーンは最初から最後まで、夜景の美しい ウォール街の高層ビルのオフィスと会議室の中で展開するが、スピー ド感と緊張は失われない。豪華キャストは別として、この作品は低予 算映画だ。車の追跡シーンもないし暴力シーンもない。逮捕劇もなく、 驚くべきことに誰かがかんしゃくを爆発させる場面もない。

報酬2億1000万円の使い道

リーマンで起こったこととの類似性はあるものの、内部者が読み 解くための実話映画ではない。複雑な証券も、商品を全く理解してい ないタルドにサリバンが説明するので理解できる。

ポール・ベタニーが演じる押しの強いセールスマン、ウィル・エ マーソンは、どこかで会ったことがあるのではないかと思うほど現実 味のある人物だ。このエマーソンが2人の後輩に前年の報酬250万ド ル(約2億1000万円)をどう使ったかを詳しく説明する場面がある。

7万ドル以上を娼婦とストリッパーにつぎ込んだことに気づき、 エマーソン自身がショックを受けるが、「大部分は経費で落とせるさ」 とうそぶく。

スペーシーが演じる登場人物と、くびになったアナリストのデー ルは、自分たちの仕事の価値を疑う思いに取りつかれている。エンジ ニアだったころに橋をかけた経験、その橋のおかげで住民は何時間も かけて回り道をしなくてすむようになったことが語られる。それこそ が尊い仕事で、今の仕事は価値がないという思いが伝わってくる。

評価: ***

****          素晴らしい
***           良い
**            普通
*             あまり良くない
(星無し)    観る価値無し

ベルリン映画祭の情報 http://www.berlinale.de/en.

(キャサリン・ヒックリー)

(キャサリン・ヒックリー氏はブルームバーグ・ニュースの芸術、 娯楽関連のライターです。この評論の内容は同氏自身の見解です)

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