【コラム】M&Aはデフレ退治の特効薬、Mr.210%がご託宣-ペセック

鉄鋼業界の企業の合併・買収(M &A)にさほど関心がないガイトナー米財務長官でも、最近の日本 の案件については考えをめぐらせてみるべきだ。

新日本製鉄と住友金属工業が経営統合し、世界2位の鉄鋼メー カーとなる計画は、一見するとさほど興味深いものではない。重要 なのはその背後にある理由。こうした案件は、世界経済における地 位回復を悲願とする日本政府の正式な方針だからだ。

円高や買収承認手続きの簡素化、そして経済的存在感の確保を 迫られている政府首脳の取り組みを追い風に、1980年代のような買 収ラッシュが見られることになろう。

こうした積極姿勢は、中国など新興アジア諸国の得意手にほか ならない。「ジャパン・パッシング」への対応で後手に回った日本は、 懸命に遅れを取り戻そうとしている。ヘッジファンドマネジャーの カーティス・フリーズ氏ら日本経済強気派は、M&Aブームがデフ レ脱却や世界最大規模に膨らんだ公的債務の解消に役立つとみてい る。

それでも米国は、日本の新たな方針を手放しで喜べないかもし れない。日本のM&Aは自由市場の原則を反映したものではなく、 多分に中国的なものになる。「ワシントン流」というよりむしろ「北 京流」だからだ。

中国流M&A

日本のM&Aの波は、好むと好まざるとにかかわらず政府が主 導することになろう。中国の台頭は日本を刺激し始めている。ただ、 M&Aの手法はヘンリー・クラビス氏のような買収のプロの戦術で はなく、中国の国家資本主義を踏襲する試みのようであり、必ずし も期待通りとはいえない。

既視感を覚えないだろうか。日本経済を今日の地位に押し上げ たのは、官民が一体となった「日本株式会社」だった。20年前のバ ブル崩壊まで奇跡的な成長の原動力だった。

当時と今回のM&Aブームとでは明確な違いもある。日本の80 年代の買収ラッシュは虚栄心に突き動かされたものだった。新聞の 見出しをにぎわせたロックフェラー・センターやペブルビーチゴル フリンクスの買収の裏にはエゴがあった。企業の社長にゴッホやピ カソやモネの作品を買い占めるよう仕向けたのは政府ではなかった。

今回は政府が中心となって、戦略的かつ合理的で長期的成長に 寄与する買収を進めることになる。まさに中国流だ。日本は資源を 必要としている。企業の規模が大きければ大きいほど、海外で買収 を仕掛けやすくなる。

自由放任主義を支持する向きは、日本株式会社の再浮上を苦々 しく思うかもしれない。しかしより重要なのは、目的は手段を正当 化するという結果重視の考え方だ。

米国ブランド

リーマン・ブラザーズ・ホールディングスの破綻により、米国 の資本主義のブランド力は著しく損なわれた。一企業のように運営 されている中国と争う場合、政府と民間セクターの境界線は意味を なさなくなる。

数十年にわたり経済が停滞した日本は、遅きに失したかもしれ ない。日本が後れを取り戻す立場にある様子は、韓国電力公社(K EPCO)率いる韓国企業中心のグループが、アラブ首長国連邦(U AE)で原子炉を建設する186億ドル(約1兆5400億円)規模の契 約を獲得したことで鮮明になった。その規模は日本政府にとって驚 きだった。

フリーズ氏らは、国内外のM&Aは停滞する日本経済に活気を 与えるのに必要だと指摘する。同氏が会長を務めるプロスペクト・ アセット・マネジメント(ホノルル)の日本に重点を置いたヘッジ ファンドは昨年のリターンが210%に上った。

ミスター210%

東京で「ミスター210%」と呼ばれることもあるフリーズ氏は、 日本政府主導のM&A戦略をどう見ているのだろうか。

「お楽しみはこれからだ」。フリーズ氏はMBO(マネジメン ト・バイアウト、経営陣による企業買収)と通常の買収提案が急増 すると予想している。

M&Aの活性化は計り知れない恩恵をもたらし、日本が財政赤 字とゼロ金利への依存を軽減するのに必要な成長エンジンとなる可 能性がある。

生産性向上やコーポレートガバナンス(企業統治)の改善、経 済の成長-。日本に対する投資家の希望は共通している。国内企業 が非効率な状態を解消し、経営陣が海外に目を向けて市場シェアや 成長機会の拡大に取り組むことでこれら全ての課題に対処できるか もしれない。

もちろんそれで日本の問題が全て解決するわけではない。人口 の高齢化はなお急速に進んでおり、出生率も過度に低く、雇用の伸 びも停滞している。起業家精神も希薄だ。それでもM&Aは、硬直 化し孤立し過ぎた経済を揺さぶる力を持っている。日本株式会社に 新たなライフラインを与えることで、経済が活性化されるなら、そ うしてみるのはどうだろう。ガイトナー長官は反論できるだろうか。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコ ラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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