【コラム】燃えるような香辛料はインフレ警告の色-W・ペセック

このところインドネシアは暑い。 といっても、赤道直下にある同国の天気の話を単にしているのではな い。

私が言いたいのは、互いに結び付くとはまず思えない2つの話題、 唐辛子と投機資金のことだ。国民の口からもこの2つの話題が同時に 持ち上がることはない。同国の食卓に欠かせないこの燃えるような香 辛料の記録的な価格高騰には、バーナンキ米連邦準備制度理事会(F RB)議長が一役買っているからだ。

ラニーニャ現象も値上がりの一因だろう。ただ、日米欧の中央銀 行当局による超低金利政策の影響で、大量の資金が不安定な形でアジ アに流れ込んでいる。インドネシアの1月のインフレ率は7%と、前 年同月のほぼ2倍の水準に達した。

インドネシア国民は家賃の上昇や不十分なインフラ、特有の汚職 や非効率性などあらゆる試練に耐えるだろう。それも人生というもの だ。だが、唐辛子が4倍にも5倍にも値上がりしたら怒りが爆発する だろう。

ここには明確なメッセージがある。金利の調節では不十分であり、 政策当局はインフレ対策を即刻強化する必要があるということだ。こ れは、消費者物価指数(CPI)がひどい数字になるのを避ける以上 に重要な意味がある。その脆弱(ぜいじゃく)さが軽く見られている ために苦しむ新興国にとって、社会の安定という極めて重要な問題な のだ。1日当たり2ドル未満で生活する多くの東アジアの人々にとっ て、唐辛子やコメ、食用油の値上がりは死活問題だ。

唐辛子の危機

インドネシアのユドヨノ大統領もこうした状況を放ってはおかな い。天候や先進各国の超低金利政策はどうすることもできないが、大 統領は国民に鉢で唐辛子を栽培するよう呼び掛けている。多忙な大統 領が香辛料についてアドバイスするくらいだから、どれだけ問題が深 刻か分かるだろう。

インフレは真の危機だ。エジプトで相次ぎ発生したデモが最近の いい例だ。30年に及ぶ専制支配がムバラク大統領を退陣に追い込みつ つある。

アジアは何ができるのか。私は最近、ジャカルタでエコノミスト や企業経営者のグループと興味深い議論をした。それは、政策当局が 未踏の領域に入っており、伝統的な考え方は金融界でその影響力を失 いつつあるというものだった。

さらに議論はこう続く。食料コストや賃金が上昇。原油や金も値 上がりする。紛れもないインフレの兆候があらゆるところでぶくぶく と泡立っている。アジアの中央銀行は何をするのだろうか。

ミッシングリンク

賢明で世知に長けた人がなぜこれほど露骨にミルトン・フリード マンを見放すのか。それを説明するミッシングリンク(失われた環) が投機資金だ。これがアジアに混乱を招き、過熱リスクをさらに増幅 させている。過剰資金がインフレに拍車を掛けるというフリードマン の視点は今も説得力がある。アジアの場合、巨大な資産バブルが新た な危機を招く恐れがあることを意味する。

だが実際には、こうした考えは極度に不透明感が強い今の時代に あっては大きく揺れ動く。利上げは海外投資家にとってアジアの魅力 を一段と高め、すでに相当高まっているインフレリスクをさらにあお る。

政府はより創造的かつ介入主義者になる必要がある。アジアは市 場の自制力というフリードマンの信条を投げ捨てている。自由市場主 義者は異議を唱えるだろうが、バンコクやジャカルタ、クアラルンプ ールでは少数派だ。これらの国はアジア的手法の流動性対策で最前線 に立つ。

いら立つ市場

エコノミストは中国、インド、インドネシア、フィリピン、韓国、 ベトナムに利上げを促している。食料コストの上昇が差し迫った脅威 となりつつあるこれらの国の政府はまた、社会の不安定化を回避する 取り組みを強化しなければならない。

英スタンダードチャータード銀行のシニアエコノミスト、ファウ ズィ・イッチサン氏(ジャカルタ在勤)は「市場はますますいら立っ ている」と話す。

投資家がアジア経済の過熱を懸念する際、今や世界2位の経済大 国になった中国についてしばしば考えをめぐらせる。中国で賃金が上 昇するということは、同国の今年最大の輸出品目がインフレになりか ねないことを意味する。これは今や、この地域の一般化したリスクに なりつつある。

ありがた迷惑

アジアは日本を除いてブームに沸く。国内総生産(GDP)や株 式相場のパフォーマンスがそれを示している。厄介なのは、ありがた 迷惑という状況にあることだ。欧州が揺れ、米国の先行きにも不安定 さがある中で、投資家の多くがより高いリターンを求めている。

政策当局は再び自己主張しなければならない。何かしら不安が残 るようであれば、食卓に置かれた赤い香辛料を吟味すればいい。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコ ラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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